狂気に至る儀式


<オープニング>


「みんな、集った? じゃあ、始めるわ」
 放課後の教室で、八重垣・巴(高校生運命予報士・bn0282)が厳しい表情で能力者達を見回した。
「――かなり前の事になるんだけど、コルシカ島で起こった、ヨーロッパの人狼と吸血鬼との戦いは覚えているわよね?」
 巴の言葉に、チラホラと能力者達の中から肯定の声が上がる。
 ヨーロッパの世界結界を破壊しようとした清廉騎士カリストの作戦――あの壮絶な戦いは、忘れたくても忘れられるものではない。
「実はね? その時に生死不明となっていた人狼十騎士の一人『聖女アリス』が、この日本で発見されたという情報が入ったの」
 そう語る巴の表情と声は、かたい。それほどまでにこれが緊急事態なのだと言外に伝えていた。
「彼女はフードを被った何人かの従者を連れて、貴種ヴァンパイアが巣くっている舘に向かっている事が判明したわ。でも、その目的も行方不明になった間に何をしていたかもまったくの不明なの。貴種ヴァンパイアの舘の方では舘の主である貴種ヴァンパイアとその従属種も怪しい動きを見せているわ。アリスの件とは別に、貴種ヴァンパイアの動きを探る必要があるわね」
 そこまで語ってから、巴は一つ溜め息をこぼすと緊張した面持ちで続けた。
「悪い状況というのは重なるもので、これだけじゃないの。アリスの命を狙って処刑人の集団も日本に上陸している事が判明したの。人狼側の勢力であった処刑人がどうしてアリスを狙っているかは不明だけど、コルシカの戦いで怪しい動きを見せた清廉騎士カリストの影響があるのかもしれない、これも放置出来ないわ」
 黒板に『吸血鬼』『アリス』『処刑人』と書いた巴が、『吸血鬼』を赤いチョークで丸をした。
「今回、この三つの状況に対処するにあたって三つのチームを編成する事となったわ。あなた達にお願いしたいのは吸血鬼への対処よ――じゃあ、詳しい説明をさせてもらうわ」
 巴が黒板に線を引いていく。おおまかながら、舘の間取りだ。
「貴種ヴァンパイア達の館は、北九州の海が見える古い洋館よ。まず、舘には広めのエントランスホールがあるわ。左右には二階へと続く階段ね……エントランスホールはかなりの広さがあるみたい。確認されているのは貴種が一人に従属種が六人ほど、あと数名の一般人も館に連れ込まれているわ……」
 そこまで書いた巴の手が止まり、チョークを置いた。その表情には、悔しさがある。
「……ごめんなさい、現在わかっている状況はこの程度なの」
 そう搾り出すように呟けば、巴は能力者達に笑みを向けた。迷いを振り払った、信頼の笑みのまま続けた。
「実際に舘の扉を開けるまで状況がわからないわ。おおむね舘内の戦力が把握できているから、状況に応じて適切な対処をお願いね。とても困難で危険な任務だと思うけど――大丈夫、あなた達なら出来るって私は信じているわ」
 頑張って、と巴は締めくくると、能力者達に深く頭を下げた。


 夕暮れから夜へと染まり行く海を一望するその洋館の前に、能力者達はたどりついた。
「いいか? 行くぜ?」
 海礁・秋良の言葉に、仲間達がうなずく。それを見た秋良が、勢いよく扉を蹴破った。
「な、なんだよ……これ」
 黒旋・颱牙が、その光景に思わず問いを口にした。ゾワリ、と颱牙の背筋が凍りつく。
 左右に二階への階段がある洋館のエントランスホール。その中央に燃え盛る黒い炎のような瘴気の塊があった。その禍々しい揺らめきは見る者の心に恐怖を呼び起すような不吉さがある――。
「これは……残留思念か?」
 その黒く燃え盛る瘴気に、狩夜・由岐がボソリと呟く。残留思念は幾度か見たことはあるが、これほど禍々しいものは由岐も初めて見た。
「これは、一体なんなのでしょう――ッ!?」
 不安げに呟いたミント・ミツルギが息を飲む。突然瘴気が膨れ上がり、能力者達を飲み干していったのだ。
「特殊空間かっ!」
 異常にいち早く気付いた閨峪・深澄の言葉に、仲間達が身構えた。
 ――そこは、瞬く間に灼熱の世界へと姿を変えた。視界を埋め尽くす炎、炎、炎――呼吸するだけでも肺をただれさせそうな灼熱地獄だ。
「次々と、何だ? おい」
 その熱気に呼吸を整えながら、四柄衆・砕が吐き捨てる。砕は、ふと炎の揺らめきの向こうからこちらに向かってくる一つの影を見つけた。
 敵か!? ――そう身構える能力者達の前で、その人影は崩れ落ちるように倒れた。
「まさか……連れ止れた一般人の方ではっ!?」
「しっかりしてくださいまし!」
 その事に思い至り、慌てて砂原・瑠璃子と白羽・鴇が駆け寄った。瑠璃子と鴇に抱き起こされ、その人影――男性が、息も絶え絶えに彼等を見た。
「あ、キミ達、は……?」
「大丈夫、俺達は助けにきたんだ」
 かすれた声の男性に一之瀬・雅が強く言い切り、仲間達がうなずいた。それに、男性の表情が少しだけ安堵に緩んだ。
「は、あ……そ、そうか……よ、よかった……」
「一体、何があったの? おじさん、何かわかる?」
 御厨・甘味の質問に、男性は一つ咳き込むと少しずつながら語り始めた。
「ここが、どこだかは……わからない。奴等に捕まって連れてこられた時に……妙な、ことを言っていた……みたいだが……」
「妙、とは……? どんな事でもよろしいので、教えてくださいませ」
 男性の汗をハンカチで拭いながら、鴇が優しく問い掛ける。男性は、搾り出すように続けた。
「この、屋敷の残留思念ならば……問題、ないでしょう……とか、ああ、そうだ……あの、男……」
 不意に、男性が震え始めた。この灼熱の中で、まるで彼だけ寒獄の地に追いやられたような震え方で、言葉を吐き出す。
「銀の髪に赤い瞳の……外国人、だった。奴等の首謀者である……その男が、こう言ったんだ……『能力者でないお前達では役者不足だが、我が原初となる糧になってもらおう』って……」
「原初……!?」
 その言葉に、雅が目を見張る。おそらく、その男は貴種であり――貴種の口から語られる原初という単語に、不吉な連想に至ってしまう。
「――原初の、吸血鬼?」
 その呟きは、誰のものだったろう? おそらく、発した本人にも自覚はない。見えざる狂気におかされた貴種ヴァンパイアが行き着く――否、堕ちきった成りの果てである原初の吸血鬼。
 あの残留思念こそが、その原初の吸血鬼を生み出すのに必要なものだと言うのか――!?
「『生き残りたければ、戦う意志を示せ。拷問による死に屈さず、強き意志を持つ者だけが出られる』と……で、でも、無理だ。わ、私には、耐えられない。た、助けてくれ……わ、私はもう、あんな思いは二度としたくない……! あんな、苦しい……!?」
 男性の目が、大きく見開かれた。ガシャン――! という硬質で無情な音と共に足元から鉄の板が這い出たかと思えば箱となり、男性を飲み込んだ。
『いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、死にたくない! もう、こんな苦しい死に方は嫌だあああああああああああああ!!』
「おいっ!?」
 砕が武器を構え、鉄の箱を破壊しようとするが――それより早く展開された鉄の箱が、砕も飲み込む。
『わわっ!? 真っ暗だよっ! 甘味、なんにも見えない!』
『大丈夫か!? くそ、何なんだ、これは』
 鉄の箱の向こう側から、仲間たちの声が届く。どうやら、全員が同じように鉄の箱の中に囚われてしまったようだ。
 ――そして、灼熱による死の拷問が能力者達の身にも降りかかるのだった……。

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参加者
一之瀬・雅(浮雲・b01224)
砂原・瑠璃子(オンザリーフ・b05265)
海礁・秋良(明炎乱舞・b07171)
狩夜・由岐(紅葬剣・b12529)
白羽・鴇(白羽の姫君・b21834)
閨峪・深澄(メガライダー・b25076)
四柄衆・砕(四柄衆・b31755)
黒旋・颱牙(突撃勇者クロスタイガー・b52429)
御厨・甘味(甘い物好きの白黒拳士・b53280)
ミント・ミツルギ(小学生ヤドリギ使い・b62593)



<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

一之瀬・雅(浮雲・b01224)
【鉄箱脱出】
全身を貫く苦しみを歯を食いしばって耐える。
力一杯鉄の箱を殴りつけ。
ガンガンと鉄箱の中から蹴ったり殴ったり。
「まだ温ぃな!もっと熱くしてみせろ!こんなモンじゃ俺を殺せねぇな!」
「みんな!聞こえるか!耐えて根性見せてみろ!俺達は他の仲間から選ばれてんだ!他の奴らの為にも無様な真似は見せられねぇ!」
「苦しくてもな!自分に負けられねぇ!漢の意地を見せてやるぜ!」

【残留思念】
説得は苦手なので負けないように気を張る。
「殺す殺さないは俺が決める!ウダウダと口出すんじゃねぇ!」
他の仲間へのフォロー。
「大事なのは殺すことじゃねぇだろ。深呼吸して静かに考えてみろ。俺達は奴らとは違うんだ」

【貴種】
脱出出来たら素早く周囲を確認。
バラバラに脱出する可能性もあるので警戒。
「早くこいよ…待ってるから!」
無理に自分から攻めずに様子を伺いつつ、攻撃されたら抵抗。
仲間が揃ったところで反撃開始。
「いい気になってやがるな…ヤブ蚊ども」
ドンっと偃月刀を床に打ち付けて。
「狂ったヤブ蚊風情が!俺の偃月刀は当たると痛ぇぜ!」
壁役になるように前衛に。味方の援護が出来るように。
旋剣で回復強化。接近戦はフェイントを絡めた攻撃&ロケスマ。Bレインは補助的に。
「俺の前に立つヤツは覚悟を決めろ!覚悟決めたら掛かってこい!」
従属種の方をメインに。

【作戦】
皆の援護をする。指示があった場合従う。

砂原・瑠璃子(オンザリーフ・b05265)
全体作戦に従い行動。

○脱出
肉体の苦痛より、死者の苦痛すら利用するような外道の思惑に膝を屈する事の方がよほど耐えられません。
仲間の足手纏いになる訳にもいきません。意地でも耐え切ってみせます。

○説得
可能な段階で迅速に残留思念を説得。

あんな苦しい思いの果てに殺されるなんてさぞ無念でしょうね…。
だからこそ、殺すなどという安易な復讐では到底足りません。
生きたまま捕えこの酷い行いの背後を聞き出し、その全てを叩き潰しましょう。
世界の中心気取りで、貴方の命を自分の目的の為の道具として扱った奴に、単なる末端の情報源として扱われる屈辱を与えましょう。
後は私達に任せて下さい。

○戦闘
館内を策敵。発見後人数を数え伏兵に注意。
中衛としてチーム中央付近、敵味方全員にアビが届く位置へ。
初手で配置を整えつつ森羅呼吸法。
以降ヘブンズパッションによる仲間や自身の回復を主に。
最もダメージの大きい者に使用。敵味方それぞれの戦力の相性や配置を観察、危険な者やBS状態の者を優先。
体力に余裕があり回復の必要が薄い局面では牙道砲で攻撃。
他者と攻撃対象を重ね集中攻撃。
後衛や退路への移動は全力阻止。
移動が必要な状況では森羅呼吸法を併用、自己回復。

○全体作戦/逃走阻止
入口を中後衛で封鎖。他の退路があれば敵数が減った後分担連携し全て塞ぐ配置につく。遠距離担当は移動は自己回復時に。孤立しないよう注意。
逃げられたら可能な限り追跡。

海礁・秋良(明炎乱舞・b07171)
★は全体方針として作戦前に周知&遵守

◆空間脱出
死への恐怖は誰しも持つ物かもしれん
だが俺は己の死より恐ろしい物を知ってしまった
仲間を、俺の世界の一部を、かけがえの無い友を失う恐怖を知ってしまった
今更この程度で俺の心は壊れねぇ
アイツを喪った時、大切な者を守り抜くと、俺は、俺に誓ったんだよ!
「半端な覚悟なんざ持ち合わせてねぇんだよ!」
俺は、俺の世界を守る為ならば修羅にもなろうぞ

◆思念説得
お前等にだって大切な奴等が居ただろう
これが続けばそいつ等が…お前等と同じ様に苦しめられるかもしれねぇ
狂気に至る儀式…至るのは奴等か、それともお前等の事なのか
俺には解らねぇがこれだけは言える
止めて見せるぜ
こんな儀式なんて俺達がぶっ潰してやる
怨嗟を以てしてではなく、守る為に
憎悪、悲嘆…負の連鎖
解き放ってやると誓おう

◆戦闘
基本は全体方針に追従
最前衛で壁になる
従属→貴種の順に各個集中撃破
旋剣使用後、黒影剣で攻撃と回復を兼ねつつ通常攻撃とアビを織り交ぜ攻撃
攻撃時は互いに声を掛け合い標的を揃え集中攻撃
敵の攻撃は出来るだけ回避、防御を試みる
HPが半数を切った場合は旋剣にて自己回復

★撤退条件
前衛全員の戦闘不能or中衛全員が戦闘不能
且つ貴種を含め敵残数3体以上の場合は撤退を
戦闘不能者をフォローしつつ退路を確保
この段階で思念より脱出出来て居ない者も抑え守りつつ再度脱出出来るように説得を促す
駄目だった場合は気絶させてでも連れて退避

狩夜・由岐(紅葬剣・b12529)
★は全体方針として作戦前に周知&遵守


■空間脱出
私は総てを護り抜く為に戦い続けると決めた
この両手で何もかもを護ると
どんな困難があろうともそれを貫き通す
この程度で負けていられるものか

「こんなもので、私の心を砕けると思うな…!」

この想いさえ折れないのならば
私は死にも痛みにも屈しはしない
打ち破って見せるさ


■思念説得
この繰り返される死の苦痛から皆を解き放つ
そしてこんなふざけた儀式を行う連中を必ず止めてみせる
私の命と剣に
無念のまま命を落とした全ての者に誓う

こんな犠牲はもう二度と出させない
だから今はその無念、私達に委ねてくれないか
繰り返される狂気を止め、囚われた想いを解き放つ為に


■戦闘
基本は最前列で行動
敵前衛を抑えながら交戦

旋剣の構えで自己強化し攻撃
味方と連携可能なら標的を揃え集中砲火
攻撃の集中させ易い敵前衛から優先
確実に1体ずつ落とす

標的が近接していれば黒影剣
離れていればダークハンド(DH)
動くと陣形に穴が空く場合もその場に留まりDHで攻撃
HP半分以下で旋剣の構えで自己回復

従属2体以下になったら貴種の抑えに回る
貴種に最近接して動きを阻む
その際は周囲に気を配りつつ
必要なら味方の援護を請う


★思念の影響下にある者が危険な場合
正気を取り戻した者でフォロー
形振り構わず突っ込むようなら横について援護
決して孤立させない
正気を取り戻し次第陣形定位置に下がる
後退が厳しければ背を向け合い死角を補いつつ交戦
味方の援護を待つ

白羽・鴇(白羽の姫君・b21834)
■特殊空間及び残留思念
・強い意志を持って、拷問の悪夢を振り払う。

私たちは、大勢の仲間たちの想いを背負ってこの場に来ている。
例えそれが、死よりも辛い痛みであろうとも、断固として屈するわけにはいかない。
肉体的な痛みなど、私が背負ってきたことに比べれば些細なこと。
こんなところで、私は死ぬわけにはいかない。

・特殊空間からの脱出の過程で、残留思念にも呼び掛ける。

貴方達の苦しみは私たちの苦しみ。
死した貴方達に尚も苦痛を与える者に、貴方達の痛みを伝えましょう。
一時でいい。その怒りを静めてください。
貴方たちの苦しみを和らげる為に、私達が、貴方達の代わりに戦います。

■特殊空間脱出後
残留思念の影響を脱した場合、当初の予定通りの陣形を取る。
私の位置は後衛。
可能であれば、まだ特殊空間に捕らわれたままの者がいた場合、その者に呼び掛けて脱出の手助けを行う。

森羅呼吸法で気魄攻撃力を高め、従属種に狙いを定めて牙道砲を放つ。
ある程度の従属種が倒れるまでは、味方の回復を優先し、ヒーリングヴォイスを使用する。

予め定めた攻撃切り替えタイミングで、味方と連携して牙道砲で貴種を攻撃。

戦闘中は後方も警戒。
アリス乱入時は、即座に仲間にそれを伝える。
アリスの攻撃を受けた際は、味方の安全の為に応戦する。

■基本方針
貴種他、吸血鬼一味は捕縛。ただし、仲間の命が危機に陥るようなら、貴種の殺害はやむを得ない。

閨峪・深澄(メガライダー・b25076)
★は全体方針として作戦前に周知&遵守

■特殊空間脱出
原初ってのは、どうも趣味が良すぎる連中が多いが
それに付き合ってやるつもりは毛頭ないな!
あんな儀式の為にまた被害者を出させる訳にはいかない!
こんなトコでやられてる場合じゃねぇんだよっ!!
奴等を止めるって決めたんだ、何度だって抜け出してやるぜ!

声が届くようなら未脱出の人を激励

もし再度捕らわれても脱出を試みる


■思念の説得
これ以上犠牲者を出さないためにもアイツ等の
フザけた儀式ってのを根元から壊滅させたいんだ!
あの苦痛や悲しみを、もう誰にも与えたくないんだ…っ
必ずあんたらの無念は晴らすと約束する、だから頼む!
今はその怒り、俺達に預けて力を貸してくれないか。


■戦闘
全体方針に従い戦う
一体集中攻撃を基本
従属→貴種の順で倒す
入り口を背にして戦い逃走経路を封鎖

初手で射手使用
近接はクレセントファング
自分から遠い敵は前衛陣形をキープするため魔弾で攻撃
HP半分近くになったら適宜射手で回復


■その他
自分は信号弾緑を所持、自分が動けない場合は
動ける人に使ってもらう


★敵が隊列を突破しアリス側へ逃走した場合
アリス班へ電話で連絡、3〜4コールで出ない時は
信号弾
従属種のみ逃走→緑
制圧失敗または貴種逃走→赤を上げる

通常通り作戦が進行した場合は連絡しない
信号弾詳細については他班メンバーに連絡・了解済

電話はまず煌月・空知・壬柳へ連絡を試みる

他班の信号弾もあるので動きにも注意しておく

四柄衆・砕(四柄衆・b31755)
原初化の儀式か
捕縛が成れば原初に対処する糸口が掴めるかもしれねぇ
何としてでも阻止しねぇとな

特殊空間
胡座で座って目を閉じ、ひたすら耐えます
「温いんだよ、作り物の絶望如きがよ」
…海の上で妖獣の群れに囲まれたあの時の事を思えば、この程度で屈してたまるかよ

思念説得
…手前等が残したのは絶望だけか?
守りたい者や帰りたい所に帰れなかった無念だってあるんだろ?
奴(貴種)1人がこの事をしてる訳じゃねぇ
生かして捕らえてその事を聞き出せなきゃ
今度は手前等の守りたかった奴、大切な人が同じ目に会うかもしれねぇんだ
貴様等の絶望と嘆きは共に連れて行く。だから…後は己達に任せて、もう眠りな
帰りたかった所を、守る為にもよ

戦闘
「全体方針」に従い行動
可能な限り中衛に立ち初手旋剣
後は適時祖霊で、負傷者を回復

優先順は
敵の集中攻撃目標(祖霊)>防具HPが0で従属と接敵中の奴(祖霊)>気絶中の奴が複数(舞)>受けたダメージの大きい奴(祖霊)>気攻エンチャが必要な奴(祖霊)の順

但し気絶している前衛の数を引いた味方前衛の数が
敵前衛の数より少ない状態で気絶した味方の居る時は舞を優先

貴種への攻撃手が必要な状況では連携してダークハンドで攻撃
旋剣なり祖霊なりが乗れば、普通にぶん殴るよりは余程効果的な筈だ

戦後
自分が思念の影響を脱せ、そうでない奴が居るなら
殺害阻止に割って入る
己の手が開いてるなら、貴種を確保して館から離脱し学園へ

信号弾の色は赤

黒旋・颱牙(突撃勇者クロスタイガー・b52429)
●目的
貴種の【原初の吸血鬼を生み出す狂気に至る儀式】を阻止するぜ
可能ならば貴種を殺さずに捕えて情報を聞き出したいぜ

●特殊空間の脱出
「この程度の痛み、仲間を失う痛みに比べればどうって事ないぜ!」
仲間を守る為に戦うのが俺が目指す勇者だから…俺は戦うぜ
友の為、巻き込まれた人を救う為、そしてこの世界の為に…
「俺は信じているぜ…ここに集まった仲間の覚悟がこの程度の痛みに負けはしないって!」
信じる事は力になる…仲間達が皆この痛みを超えて共に戦ってくれると信じているぜ
「何度囚われても同じことだぜ…俺達の中にこの拷問に屈する奴はいないぜ!」
もし何度も特殊空間に囚われてもその都度脱出するぜ

●思念の説得
俺はこの館に囚われた人たちを助けてこの儀式を止めるために来たぜ
もう二度とこんなことを繰り返させない為にも協力してくれないか?
あいつらを止めてみせる、俺たちの言葉を信じてくれないか?

●戦闘
脱出できた仲間が少ないうちには無理しないで回復をしながら思念の説得を行うぜ
集中砲火を受けたり、孤立しない様に陣形を組んで戦うぜ

俺は3列の陣形の後列にいくぜ
最初の行動は虎紋覚醒で自己強化

攻撃は前衛にいる従属種から集中させて確実に1体ずつ倒していくぜ
貴種、従属種共にHP吸収能力を持っているから回復する間を与えずに一気に削りきりたいぜ

まだ無事な一般人がいるならこれ以上の犠牲を出さないためにも助けたいぜ
なるべく庇って戦うぜ

御厨・甘味(甘い物好きの白黒拳士・b53280)
●空間脱出
負けないんだよ…
どんな熱くて苦しくても他の誰かがまた苦しむっていうのなら
それを無くさなきゃいけないんだよ…

「こんなことで屈してるわけにはいかないんだよ!」

●思念説得
こんな儀式で死んでも苦しめられてるなんて
解き放ってあげたいんだよ
苦しむことがないようにしたいんだよ

許せない気持ちはわかるんだよ
でもその憎しみを一先ず抑えて
これからする事を見届けて欲しいんだよ
これから新たな犠牲者が出ないように戦うつもりなんだよ

●戦闘
基本は全体方針に追従
従属→貴種の順に各個集中撃破など

立ち位置は前衛に近い中衛の回復担当
場合によっては通常攻撃をはさむ(攻撃目標は従属→貴種の順で集中攻撃による各個撃破を目指す)

最初に虎紋覚醒で自己強化
以降は前衛のHPが三分の一ほど減ったら
回復させるついでに武器のエンチャントをすることに専念
ただし中衛側でHP半分以下の人がいた場合はそちらを優先するが前衛でHP半分以下の人がいた場合は最優先にする

自身のHP半分以下で虎紋覚醒で回復(ただし自身の武器のエンチャントがなされていないときは黒燐奏甲を使用)

●補足
全体方針にはできる限り従うようにする

ミント・ミツルギ(小学生ヤドリギ使い・b62593)
☆は全体方針として作戦前に周知&遵守

【心情】
こんな酷い儀式が行われていたなんて…
なんとしても止めましょう

【特殊空間】
当然襲いかかる拷問の体験に少し吃驚しますが
感情はあまり出さずにひたすら耐え続けます

「こんな事では…挫けません…」

【思念説得】
耐えきれない拷問の果てに募った残留思念
苦しかったと思います。私もその一端を味わいました
この苦しみから解き放つ事を約束します
ですから、今は私達に任せて頂けないでしょうか

「必ず…解放してさしあげます…」

貴種をなんとしても捕まえておきたいので
思念の影響から抜けるまでは説得を続けます

【戦闘】
中列にて敵に接近されないよう注意します
ヤドリギの祝福で自分と四柄衆さんの神秘をUP

茨の領域でできるだけ多くの相手を巻きこむように締め付け
他の人が攻撃しやすいようにします

その後、締め付けが効いてる間は
森王の槍でやはりできるだけ多くの相手を巻きこむように攻撃
貴種集中攻撃用に森王の槍は少し残しておき
茨の領域を優先して使います

従属を先に全部倒しておき、
バットストームで回復するのを注意して
貴種を集中攻撃で一気に倒します

☆【基本方針切替】
貴種ヴァンパイヤを捕まえる事前提で戦闘を進めますが
最初に誰かが正気に戻ってから5〜6ターンが経過した時点で
半数以上の人数がまだ思念の影響下にある場合、
捕縛を諦めて殺害已む無しで行動します

【戦闘後】
残留思念さん解放できたでしょうか…
と物思いに耽る




<リプレイ>


 ――ガシャン、という重い金属音と共に鉄の箱が閉じられた。
 熱せられる鉄。瞬く間に熱くなっていく暗闇。鉄に触れただろう場所からする文字通り焼ける激痛。急速に熱せられる空気に、もがくように息を吸う肺が焼けただれたような痛みに襲われる。酸素が足りなくなり、意識が薄れる。しかし、痛みはそれすらも許さず、残酷な現実へと引き戻す。死にたくない、死ぬのはいやだ、助けて、出して、それが駄目なら――せめて、一思いに殺してくれッ!!!
「――この程度の痛み、仲間を失う痛みに比べればどうって事ないぜ!」
 ドンッ! と鉄を殴りつけ、黒旋・颱牙(突撃勇者クロスタイガー・b52429)が吠えた。死に至る苦痛の中でも、颱牙の目の輝きは失われない。
 友の為、巻き込まれた人を救う為、そしてこの世界の為に――その為に戦うのが、勇者だからだ。
「俺は信じているぜ…ここに集まった仲間の覚悟がこの程度の痛みに負けはしないって!」
「こんなもので、私の心を砕けると思うな……!」
 焼けた両手の痛みに耐えながら、狩夜・由岐(紅葬剣・b12529)が言い放つ。この手は、総てを護り抜く為に戦い続けると決めた剣を握るためのものと心に決めたのだ――ならば、この手がある限り由岐の心は砕けない。
「温いんだよ、作り物の絶望如きがよ……!」
 狭い鉄の箱の中で胡座で座って目を閉じひたすら耐えながら四柄衆・砕(四柄衆・b31755)が吐き捨てた。これ以上の苦痛、これ以上の脅威を今まで潜り抜けてきたのだ、ならば偽りの絶望ごときに屈するはずがない!
「死への恐怖は誰しも持つ物かもしれん。だが俺は己の死より恐ろしい物を知ってしまった」
 自分の肉の焼ける匂いをかぎながら、海礁・秋良(明炎乱舞・b07171)が吐き出した。己の死以上の恐怖――仲間を、自分の世界の一部を、かけがえの無い友を失う恐怖を知ってしまった秋良にとって、自分の死などいう恐怖で心は壊れはしない。
「アイツを喪った時、大切な者を守り抜くと、俺は、俺に誓ったんだよ! 半端な覚悟なんざ持ち合わせてねぇんだよ!」
「こんなことで屈してるわけにはいかないんだよ!」
 ここで屈すれば、また同じ苦しみを負う者が出る――それが許せないと、御厨・甘味(甘い物好きの白黒拳士・b53280)が歯を食いしばる。そして、その想いは残留思念にも向けられた。
「許せない気持ちはわかるんだよ……でもその憎しみを一先ず抑えて。これからする事を見届けて欲しいんだよ。これから新たな犠牲者が出ないように戦うつもりなんだよ……!」
「こんな事では……挫けません……」
 鉄の箱の中で、祈るように硬く目をつぶったミント・ミツルギ(小学生ヤドリギ使い・b62593)が呟く。死に至る拷問のなんと苦しい事か、その一端を知ったからこそミントは強く誓う。
「この苦しみから解き放つ事を約束します。ですから、今は私達に任せて頂けないでしょうか? 必ず……解放してさしあげます……」
「こんな苦しい思いの果てに殺されるなんてさぞ無念でしょうね……」
 足手纏いになるまい、そう硬く心に誓い耐えていた砂原・瑠璃子(オンザリーフ・b05265)が囁くように告げる。
「だからこそ、殺すなどという安易な復讐では到底足りません……生きたまま捕えこの酷い行いの背後を聞き出し、その全てを叩き潰しましょう。これから起こるだろう多くの悲劇を止めるために……世界の中心気取りで、貴方の命を自分の目的の為の道具として扱った奴に、単なる末端の情報源として扱われる屈辱を与えましょう。後は……私達に任せて下さい」
「これ以上犠牲者を出さないためにもアイツ等のフザけた儀式ってのを根元から壊滅させたいんだ!」
 自身を焼く激痛の中で、閨峪・深澄(メガライダー・b25076)が言った。目には見えない、だが確かにそこにあるのだろう、残留思念へと深澄は心の底から訴えた。
「この苦痛や悲しみを、もう誰にも与えたくないんだ……っ、必ずあんたらの無念は晴らすと約束する、だから頼む! 今はその怒り、俺達に預けて力を貸してくれないか」
「まだ温ぃな! もっと熱くしてみせろ! こんなモンじゃ俺を殺せねぇな!」
 ガツン、と自分の拳が焼けるのも無視して、一之瀬・雅(浮雲・b01224)ががなる。
「みんな! 聞こえるか! 耐えて根性見せてみろ! 俺達は他の仲間から選ばれてんだ! 他の奴らの為にも無様な真似は見せられねぇ!」
「そうです! 私たちは、大勢の仲間たちの想いを背負ってこの場に来ています!」
 雅の言葉を継いで、白羽・鴇(白羽の姫君・b21834)が叫ぶ。声を出すだけでも肺に激痛が走る中、それでも止めずに叫び続けた。
「例えそれが、死よりも辛い痛みであろうとも、断固として屈するわけにはいきません。肉体的な痛みなど、私が、私達が背負ってきたことに比べれば些細なこと――こんなところで、私達は死ぬわけにはいきません!!」
 鴇の言葉に、強く全員の仲間達の脳裏に銀誓館学園の仲間達の姿が浮かんだ瞬間――ガシャン! という盛大な金属の破壊音と共に能力者達が地面に転がった。
「あ、てて……あれ?」
「戻って、きたのか……?」
 後頭部をさすりながら立ち上がる颱牙の隣、緊張した面持ちで由岐が周囲を見回した。
 窓の外では、ようやく夕日が海の彼方に沈もうとしていた。その光景は、この舘に突入した時に見たものそのままだった。
 能力者達が事態を飲み込むより早く、乾いた拍手の音が響き渡った。
「――見事だ。まさか、誰一人残留思念の影響を受けずに抜け出てくるとは賞賛に値するよ」
「テメェが、この舘の貴種か……!」
 砕の吐き捨てる言葉に、悠然と階段を下りてきた銀髪赤眼の男はうやうやしく頭を下げた。
「イエス・サー。我が名はギュンター、以後お見知りおきを――そして、さようならだ」
 パチン、とギュンターが指を鳴らした瞬間、それぞれの武器を構えた従属種が物陰より飛び出し戦闘が開始された。


 こちらへと襲い掛かる従属種達に対して、能力者達が素早く陣形を取る。
 前衛に雅と秋良、由岐、深澄、中衛に瑠璃子と砕、甘味、ミント、後衛に鴇と颱牙といった陣形だ。
「――――!」
「さあ、どいつからきやがるっ!?」
 森羅呼吸法で鴇が、鈴の音を鳴らしながら砕が旋剣の構えで自己強化した。その瞬間、ギュンターが動いた。指を雅へと突きつけ――ボソリと吐き捨てる。
「――ブラッドスティール」
「ぐおっ!」
 体の中の血が奪われていく感覚に、雅が膝を揺らした。だが、それで倒れる事を拒むように偃月刀を床に立てて堪えた雅が吐き捨てた。
「この程度かよ、狂ったヤブ蚊風情が!」
「うむ。やはりこれぐらいの手応えがなければ、『ゲーム』として面白みがないな」
「……『ゲーム』?」
 その単語に、森羅呼吸法で自己強化していた瑠璃子が眉根を寄せた。その反応に、ギュンターの表情が楽しげに歪む。
「ああ、原初の吸血鬼となるための儀式の名さ。この屋敷で死に絶えた残留思念による死の追体験をさせられたものは、残留思念の影響を受け『ゲームの駒』となる。後はその駒を殺しその残留思念を得れば晴れて私も原初の吸血鬼となれるわけだ……!」
「『ゲーム』……『ゲーム』だとっ!?」
「あんなひどい事をして……なんで笑えるのっ!?」
 今すぐあの薄汚い口を切り裂いてやりたい、そう噛み締めながら由岐は旋剣の構えを、怒りに震えながら甘味が虎紋覚醒で自己強化する。その想いは、確かに自分達の中に宿る残留思念も抱いているのだろう、その言葉に全員の心がざわめいた。
「ひどい事? この私が原初の吸血鬼となる糧となるのだぞ? 感謝されこそすれ、そのような物言いをされる覚えはないな。諸君等は食卓に並んだ肉の気持ちを考えるかね? それと同じだろう?」
「お前さ――もう黙れよ」
 魔弾の射手を使いながら、深澄が吐き捨てた。もし、残留思念に囚われていればあの言葉を聞いてまともな対応など出来なかっただろう。
 だが、今なら――残留思念の無念を理解した今なら、冷静に勝つための布石を打っていける。
「お前みたいな奴を倒すために、俺は勇者をやってるんだ!」
「……必ず、貴方を倒します」
 長剣を構えながら颱牙が虎紋覚醒をミントがヤドリギの祝福で自身を砕を強化する。
 そこで、従属種達がまとめて動いた。それぞれが武器を構え、回転する――ローリングバッシュによる攻撃が雅と秋良、由岐めがけて二人ずつ放たれた。
 ――ギィン! と響き渡る、いくつもの金属音。雅の偃月刀と秋良のハンマー、由岐の長剣がそれぞれの攻撃をガードしきったのだ。
「こいつで準備万端だ――」
「――俺達の反撃は痛てえぞ! ヤブ蚊ども!」
 秋良のハンマーと雅の偃月刀が豪快に振り回される――旋剣の構えによる自己回復と強化が行なわれた瞬間、砕と鴇が動きそれに合わせてミントと瑠璃子、由岐が動いた。
「――牙道砲」
「茨よ!」
 砕の赦しの舞を舞い、後方から鴇の放つ見えない衝撃波が従属種を貫いた。そこへ、ミントの茨の領域によって生み出された茨が従属種達とギュンターを飲み込むが、二人の従属種を締め上げるにとどまった。
「狩夜さん」
「助かる!」
 瑠璃子のヘブンズパッションで回復しながら、由岐の黒影剣が傷負った従属種を切り裂いた。
「なかなかにやる――!」
「くっ……」
 再び、ギュンターのブラッドスティールが放たれた。狙いは瑠璃子だ――その血が奪われていく感覚に、足がふらつくがなんとか堪えた。
「黒燐蟲さん、お願いなんだよ!」
 すぐさま甘味による黒燐奏甲が、瑠璃子を回復させる。その横で、深澄の右足が弧を描いた。
「オ、オオオオッ!」
 その渾身のクレセントファングに、傷を負っていた従属種の一人が耐え切れずに倒れた。
「食らっとけ!」
「呪いの魔眼だっ!」
 そこで、闇のオーラをまとった秋良のハンマーが従属種の一人を殴打し、禍々しい呪詛の瞳で颱牙が睨みつけた。その攻撃をクロスシザースを持った従属種は耐え切り、攻撃を放つ!
「きゃっ!」
 クロスシザースのジャンクプレスと鎖付き棘鉄球の攻撃が、瑠璃子へと集中する。残りの一人の吸血噛み付きを偃月刀で振り払いながら、雅がクロスシザースへと駆けた。
「俺の偃月刀は当たると痛ぇぜ!」
 ドン! とロケットスマッシュにより加速を得た偃月刀が、従属種を斬り伏せた。
「くそ、間に合え!」
 砕が祖霊降臨で、鴇がヒーリングヴォイスで、瑠璃子を回復させるが――無情にもギュンターの指先が瑠璃子へと向いた。
「――まずは、その厄介な回復を潰させてもらおうか?」
「――っ!」
 ビクン、と三度の衝撃を受けた瑠璃子の体が、声もなく床へと倒れ伏した。
「砂原っ!?」
 思わず由岐がその名を呼ぶが、答えは返らない。ギシ、と長剣を強く握り緊めながら、従属種へと斬りかかった。
「ハアッ!」
「森王の槍よ!」
「百倍返しだ!」
 由岐の黒影剣に合わせて、ミントの森王の槍と秋良の黒影剣が放たれた。三人の従属種が森王の槍に貫かれ、鎖付き棘鉄球へと二人の黒影剣が斬り伏せた。
 そこへ、深澄のクレセントファングと颱牙の呪いの魔眼によって従属種が切り裂かれ倒れた。
「おのれ……!」
 そこでようやく茨の領域から逃れた従属種が吸血噛み付きで由岐と秋良の喉笛に食いつこうとしたが、各々の武器の前に阻まれた。
「強化なんだよっ!」
 そこへ、雅へと甘味の黒燐奏甲がかけられ、偃月刀に淡い輝きが宿った。
「前座は、引っ込んでろ!!」
「吹き飛びなさい!」
 雅のロケットスマッシュと鴇の牙道砲の前に、二人の従属種が床へと転がった。
「前座か――良いことをいうじゃないか?」
「――っ!?」
 その突然間近に聞こえた声に、雅を含めた前衛の背筋に冷たいものが走った。
「――では、本番に入ろう」
 スラッシュロンド――優雅な舞を思わせる動きに、四人の能力者が切り刻まれた。


「オ、オッ!」
 渾身のロケットシュマッシュ――雅が振り下ろした偃月刀は、ギュンターのガンナイフによって受け止められた。
「く……っ!」
 傷を負った砕と鴇が、赦しの舞とヒーリングヴォイスで仲間達を回復させた。それを見たギュンターが、小さく吐き捨てた。
「やはり、回復役が邪魔か」
 その指先が砕へと向く。ブラッドスティール、その軌道へと割り込むものがいた――雅だ。
「ぐ、お……!」
「チッ、余計な真似を」
 グラリ、と雅の体が床へと倒れ伏す。その姿に、面白くもなさそうにギュンターが舌打ちした。
 ――最後の一人、ギュンターとの戦闘は熾烈を極めた。集中攻撃によるダメージもバットスチームによって一瞬にして回復され、能力者側はダメージをこうむる。とはいえ回復に回ればスラッシュロンドやタイミングを見たブラッドスティールで追い込まれることになる。
 砕や鴇の全体回復、甘味の黒燐奏甲、そしてそれぞれの自己回復手段によって戦線を維持するのが精一杯と言えた。
 だが、その危うい均衡も破られようとしていた――。
「――吸い尽くせ」
 ギュンターの呟きと共に解き放たれた吸血コウモリの群れ――バットストームに、全員が飲み込まれた――はずだった。
「う……」
「よ……か、は……いっ」
 そのバットストームの中で颱牙が鴇を、秋良が深澄が守る様に立ちはだかり倒れた。
「く……これだけ残ったか……!」
 ギリギリながら六人の能力者の姿に、忌々しげにギュンターが吐き捨てる。その様子に深澄が意識を失う寸前の秋良の言葉を確かに聞いた。
「四回と……八回……? ――ッ! そうか!」
 それは、バットストームとブラッドスティールの使用回数――その深澄の言葉に、堪えきった全員が悟る。
「そっちも……ギリギリなんだね!」
「……それがどうした? 今の諸君等ならばスラッシュロンドだけで十分だ!」
 荒い息のまま言い切る甘味の言葉に、ギュンターが吠えた。
 すかさず甘味が深澄へと黒燐奏甲で回復させた。それを受けた深澄が、ギュンターへとクレセントファングを放った!
「ぐ、お……!」
「このまま、押し切ってやる!」
 その深澄の蹴りにギュンターが切り裂かれ、由岐の黒影剣が重なった。ギュンターのガンナイフをくぐり抜け、その切っ先が脇腹を貫いた。
 そこへ、ミントの森王の槍が放たれた。その植物の槍をかわしきれず、ギュンターが膝を揺らす。
「ええい、ちょこまかと――!」
 反撃しようと動こうとしたギュンターより早く、砕と鴇が先に動く。
『オ、オオオッ――!』
 砕のダークハンドに鴇の牙道砲――そして、感情の絆で同時に由岐の黒影剣とミントの森王の槍が繰り出された!
「ガ、アアアアアアアアアアッ!」
 貫かれ、切り裂かれ、衝撃を受けたギュンターが吠えた。優雅さをかなぐり捨てたスラッシュロンドが由岐と深澄を切り刻む!
 だが、由岐と深澄は怯まない。背負っているものが――倒れた者達への想いが、膝を折ることを許さない。
「これで――」
「――終わりなんだよ!」
 深澄の最後の死力を振り絞ったクレセントファングと駆け込んだ甘味の術扇の攻撃が、ついに狂気に堕ちた吸血鬼を討ち倒した。


 ――いつの頃からだろう、屋敷の窓を雨が打つ音が響いていた。
 満身創痍の中、最後まで立っていた者達も這うように傷付き倒れた仲間達を看ていった。そして、全員に息があるのを確認して安堵の息をこぼす。
「勝った……のですか? 私達は……」
「うん、勝ったんだよ……」
 茫然自失としたミントの呟きに、甘味がかすれた声でうなずいた。原初の吸血鬼化の邪悪な儀式を阻み、そして生きたまま捕獲する事が出来た――それは、考えうる中で最大の成果だ。
「他のみんなは、大丈夫でしょうか……?」
「そう、だね……」
 ズルリ、と気を失うように疲労で倒れ込んだ二人を、深澄と砕が抱きかかえる。
「……お」
 不意に、砕は体の中の残留思念が消えていくのを感じた。苦痛や憎悪、そういったものが全員の中から消えていく。
「……約束は守ったぜ」
 深澄が、消えていく残留思念へと呟く。その呟きを最後に、戦いに勝利した能力者達の穏やかな呼吸と雨音だけがそこに残された……。


マスター:波多野志郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知 的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2009/11/24
得票数:笑える1  泣ける1  カッコいい136  怖すぎ1  知 的1  ハートフル1  せつない3 
冒険結果:成功!
重傷者:一之瀬・雅(浮雲・b01224)  砂原・瑠璃子(オンザリーフ・b05265)  海礁・秋良(明炎乱舞・b07171)  黒旋・颱牙(突撃勇者クロスタイガー・b52429) 
死亡者:なし
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