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きょうのコラム「時鐘」 2009年11月29日
金沢の泉鏡花記念館の特別展に「コロンブスの米大陸発見400年」と書かれた賞状が展示されていた。鏡花とコロンブスの組み合わせは意外だが、これが歴史の面白いところである
鏡花の父で彫金師の清次が1893年のシカゴ記念万博に出展した際のものだ。幕末に生まれた鏡花の父は、加賀藩の工芸製作所ともいう作事所に採用されてもいいほどの名人だったことが、この賞状から分かるのである 清次が妻に作ったかんざしもあった。「作事所」と「妻へのかんざし」と聞けば本紙小説「炎天の雪」を思い浮かべる読者も多いだろう。いい腕を持ちながら作事所に採用されなかった彫金師が妻のかんざしを彫る話である 小説のような細やかな夫婦愛が鏡花のころは現実にあったことに感動を覚える。父母の遺品を生涯持ち続けた鏡花の思いに驚く。現代人には真似のできないことも当時は当たり前の愛の発露だったに違いない 「コロンブスの卵」の例がある。簡単に見えることも最初にやるには勇気が要る。殺伐とした事件が続く昨今、夫婦親子間の愛情を照れずに伝え合う大事さを思う。 |