仕事から疲れて帰ってきた私は、ソファに身を投げ出し、もうこのまま寝ちゃおうかなと想っていた。 |
ガミガミと上司に叱られ頭を下げ、書類をやり直してやっと上司の機嫌取りが済んだかと思いきや、 |
誰かが失敗した荷造りの紐を結び直し、やっと落ち着いたのは終業のチャイムが鳴る数秒前。 |
あーあ。どうしてこういう毎日を送る羽目になっちゃったんだろ…。 |
短大にいた頃は何も考えずに講義を受けて、ゼミに参加して、サークル活動をして、友だちとはしゃいで、と、 |
まるでどこか子供じみたような日々を送っていた。 |
それが、就職して毎日怒られっぱなしの日々を送るようになるなんて。 |
どこかちょっと憂鬱だった。 |
そんな中、あの人に出逢った。 |
歳は私より二つ上。なかなかの二枚目で、爽やかな笑顔が印象的の、彼。 |
仕事で落ち込んだときとか、いつも励ましてくれたのは彼だった。 |
彼とはメールのやり取りとかを繰り返しているうちに、互いの仕事の悩みとか、打ち明けるようになった。 |
でも、最近彼も忙しいようで、送ったメールの返事はなかなか戻ってこなかった。 |
「今忙しいの?」 |
何回繰り返しただろう。 |
今日も、彼からの返事なんて来ないだろうと、想っていた。 |
明日もきっとバタバタするし、もう寝よう。 |
電気のスイッチに手をのばしかけた、その時だった。 |
突然私の携帯が、オルゴールのような可愛らしい音を奏でた。 |
サブディスプレイを見ると、そこには彼の名前があった。 |
「もしもし?…和人君?」 |
「……夏子、今、時間、開いてるかな」 |
「どうしたのよ、こんな時間に」 |
「逢いたいんだよ。今、夏子のマンションの近くで、タクシー降りたんだ。どう?……飲みに行かない?」 |
「やめてよ、何時だと想ってるの?…私、明日も早いのよ」 |
「じゃあ、夏子の部屋まで行くよ。この間のワイン、まだ残ってる?」 |
「…うん。少しならあるわ」 |
こんな時間に彼が来るなんて。そう想いながらも私は、色々と準備した。 |
2人で初めて飲んだワイン。もったいなくて、独りでは飲めずに、ずっと涼しい場所に置いたままだった。 |
冷蔵庫の中にあった、チーズとクラッカー、その他にも色々と用意して、彼が来るのを待った。 |
ピンポン。 |
玄関のチャイムが鳴り、扉を開けると、彼の爽やかな笑顔があった。 |
「夏子」 |
「和人君…来るって言うから、待ってたのよ。」 |
本当は、いきなり来るなんて言い出すから、すっぴん顔見られたらどうしよう、とか、焦っちゃったけど。 |
「色々買ってきたよ。」 |
「何を?」 |
「2人で飲むんだったら、おつまみくらい用意しないと、と想って。さっき、下のコンビニで。」 |
彼が袋を開けると、酒の肴が色々と出てきた。 |
「さ、飲もう」 |
ワインを開け、グラスに注ぎ、乾杯。 |
少し飲んだところで、私は、いつの間にか仕事の愚痴を彼に話していた。 |
「…夏子も色々と苦労してるんだ。」 |
「和人君の方は、順調みたいね。…色々と仕事をこなして、上司からも信頼されて…羨ましいわ…」 |
「夏子にだっていつかそんな風になれる日がきっとくるさ。僕が保証する」 |
「…和人君…」 |
いつの間にか、私の目は潤んでいた。 |
「おい、泣くなよ夏子!僕が泣かしたみたいだろう?」 |
泣くなよ、と言われても、嬉しくてどんどん涙があふれてくるのだ。 |
「…泣き虫だなあ、夏子は」 |
「ひどぉい!嬉しくて泣いてい…」 |
と、私が言いかけた途端、彼の唇が、私の口を塞いだ。 |
初めての、キスだった。 |
「…うれし涙で紅くなった、夏子の顔、最高に可愛いよ。」 |
その言葉でやっと私は我に返った。 |
そして、私は、彼の口の端に、口紅が付いてしまっているのに気づいた。 |
「和人君、帰るとき、口、拭かなきゃね…。口紅付いちゃってる」 |
私は、そっと、彼を見つめながら、言った。 |
いきなり恋愛物(笑)。
こんな恋愛、してみたいな〜と想いつつ書きました。