中学卒業までの子どもに月額2万6000円(初年度は半額)を支給する新政権の目玉政策「子ども手当」は、巨額の財源が必要なため制度内容の議論が続いている。
計画通りなら初年度の2010年度が2兆3000億円、11年度からは毎年5兆3000億円を予算化しなければならず、防衛費を上回る。一方で来年度予算は、やりたいことは山ほどあるのに税収は落ち込み支出にメスを入れざるを得ない状況だ。このため菅直人副総理が担当する国家戦略室は高速道路無料化、農家への戸別所得補償制度などとともに子ども手当も見直しを検討する考えを示した。
焦点は二つ。当初の構想通りに「全額国庫負担」とするか、「所得制限なし」の一律支給を貫くか。
現行の児童手当は、国費からの支出は2690億円にすぎず、自治体が5680億円、企業(事業主)も1790億円を負担している。全額国費を掲げた子ども手当だったが、財源不足にあえぐ財務省などからの問題提起で予算編成過程で再検討することになった。
まず日経新聞が10月25日の社説で「制度を詰めないまま予算編成に走り始めたから混乱が起きる」と批判し、「地方や事業主の負担を現在の児童手当以上に増やすべきではない。全額国庫負担にするなら、地方と企業が負担している児童手当の財源の今後を明確にすべきだ」と主張した。
毎日新聞は10月30日の社説で「国が責任を持って財源を保障する姿勢を貫くことに意味がある」と全額国費負担を主張した。さらに、自治体と企業が負担してきた額を「保育所の増設や、安心して子どもを産み育てることができる雇用環境の整備に充てることを提案したい。国と地方が負担を押しつけ合っている場合ではない。国も地方も企業も総力戦で臨むしかない」と子ども手当創設の趣旨に沿った新たな対応も提案した。
朝日新聞も11月15日の社説で「大半は国庫負担とするが、一部を自治体や企業が負担する仕組みにすることも検討すべきだ。あるいは、子ども手当は全額国庫負担とし、保育施設など子育て環境の整備に自治体や企業が応分の負担をすることにしてもいい」と指摘している。
もう一つの焦点の「所得制限なし一律支給」は世論も加わって、賛否両論が巻き起こっている。
日経は10月25日の社説で「そもそも子ども手当の政策目標自体がいまひとつはっきりしない。経済的に苦しい世帯の子育てを支援するのであれば、高所得の家庭にまで一律に支給する必要はない。所得制限を設けてしかるべきだ」と主張した。
毎日は明確に所得制限反対の立場をとった。10月30日の社説で「金持ち層を支給対象から除くには各世帯の所得を把握するなど自治体の作業コストが増大する。どんな家庭に生まれた子も社会の責任で支援するという理念を貫くためにも所得制限は設けるべきではない」と鮮明に打ち出した。
また、朝日もあいまいな表現ながら、所得制限を設けることの問題点を指摘している。11月15日の社説で「子育ての負担を例外なく軽減しようというのなら、所得制限なしの一律支給が筋だろう。どこかで線を引くのは難しいことも考えねばならない」と書いた。
毎日は「所得制限を設けるべきだ」が57%にのぼり、「一律支給でいい」が15%にとどまった世論調査結果を受ける形で、今月27日の社説で再び所得制限問題を取り上げ、判断材料を提供した。
現行の児童手当にかかる自治体の経費や時間、申請する側の手間などを詳しく説明したうえで、「これだけ労力をかけても国民の所得を正確に捕捉できていない現状では、不平等をなくす仕組みとは言いがたい」と問題を指摘した。さらに「そもそも、子ども手当は『社会全体ですべての子どもを支える』との理念に基づく」と政策目標を改めて確認し、「新政権は所得制限の技術的な難しさとともに、子ども手当の理念について根気強く説明し、国民の理解を得なければならない」と主張した。
ところで、各社の主張を比べると、読売新聞と産経新聞は子ども手当を詳細には論じていない。少なくとも新政権発足後、このテーマに絞った社説はない。
読売は「マニフェスト不況を起こすな」という見出しの11月17日の社説で「雇用情勢が厳しい中、所得制限もないまま子ども手当をばらまいても、消費より貯蓄に回るとの指摘がある」「2兆円以上を子ども手当に費やすより、GDP統計で一定の効果が見られたエコカー補助などを延長する方が、少ない予算で効率的に消費刺激できるのではないか」と主張している。子ども手当はばらまき政策であり、経済的な効果も乏しいので、その創設自体に反対と受け取ればいいのだろうか。
また、産経は11月21日の社説「財源なき政策撤回検討を」で「子ども手当の所得制限案も技術的に難しい。制限基準をどこに設定するかもさることながら、所得を正確に把握する納税者番号制度などが必要だからだ」と指摘した。
ただし、この3日後に子ども手当に関する自社の世論調査結果として「『一定の所得制限を設けるべきだ』との回答が64・1%に上り、高額所得者まで給付対象とすることに不公平感を感じている状況が浮き彫りになった」との記事を掲載している。子ども手当そのものの撤回を求めているとみられるが、普段の歯切れのよさが見受けられない。【論説委員・中村秀明】
毎日新聞 2009年11月29日 東京朝刊
11月29日 | 子ども手当 「一律支給」に賛否両論 |
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