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事業仕分け:終了 ムダ排除へ道半ば 「基準不明確」批判も

 予算編成の一部を公開する行政刷新会議の事業仕分けが27日、終わった。10年度予算の概算要求に盛り込まれた約3000事業のうち約450事業の要・不要を9日間かけて判定。統括役の枝野幸男元民主党政調会長や蓮舫参院議員ら、仕分け人の厳しい追及にたじろぐ省庁側の様子は、インターネットでも中継され、大きな反響を呼んだ。一方、「廃止」を宣告された事業に関係する地方からは、戸惑いの声も漏れている。

 鳩山由紀夫首相が「必殺事業仕分け人」と名付けた国会議員、民間有識者らは、その名の通り、省庁間や地方と重複する事業や、天下り法人を経由している事業に対し、「廃止」宣告を次々と言い渡した。

 例えば、北海道の産業構造などを調査する国土交通省の「北海道総合開発推進調査費」(10年度概算要求で5億円)。仕分け人から「北海道庁の仕事だ」などの批判が上がり、判定結果は「自治体移管」。農林水産省の有機農業などを支援するモデル事業(計23億円)も「内容と成果が不明確」との指摘を受け、「廃止」とされた。

 一方、中小企業の商品開発や販路開拓を後押しする経済産業省の「市場志向型ハンズオン支援事業」(20億円)は3分の1程度の予算縮減に。同事業は民間企業との企画競争の結果、独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が受託してきたが、仕分け人は「天下り団体の機構が落札した結果、国費が一部、機構の管理費に充てられる『中抜き』状態になっている」と指弾した。

 予算規模が兆円単位の地方交付税や診療報酬なども仕分け対象に盛り込まれた。だが、いずれもこれまでの予算編成の際、最後まで政府・与党内の調整が難航してきた「政治銘柄」。要求官庁や地方自治体などは、仕分け対象とされたこと自体に激しく反発した。地方交付税交付金と診療報酬はともに「見直し」判定だったが、予算規模などには踏み込まず、見直しの具体策、道筋を示すことはできなかった。

 仕分け人の判定に「基準があいまい」との批判も出された。「子どもの読書活動推進事業」(文部科学省)は「地方に任せるべきだ」などの意見が出て、廃止と判定された。ところが児童参加型の演劇を公演する「優良児童劇巡回等事業」(厚生労働省)は、仕分け人の半数(6人)が予算縮減を求めたものの、取りまとめ役の菊田真紀子衆院議員の「子どもに希望を与える事業は大切」との総括で「要求通り」に。仕分け結果は今後の予算編成に大きな影響を与えるとみられるだけに、判定基準の明確化を求める声が強まりそうだ。

 ◇財務省主導で周到準備 冒頭説明し「刷り込み」

 「ほかの事業と重複していませんか」。「地方でも似たことをやっていますよね」。データや具体例に裏打ちされた質問、指摘を矢継ぎ早に浴びせかける仕分け人。各省庁の担当者が返答に窮する場面も見られた。その裏には、財務省提供の資料などに基づく、仕分け人の周到な予習があった。

 行政刷新会議は仕分けに先立ち、予算査定を担当する財務省主計官と、要求省庁からのヒアリングを実施。論点整理した内容をA4用紙にまとめ、仕分け人に配った。この「マニュアル」などを参考に「仕分け人は最低でも2週間、勉強した」(仙谷由人行政刷新担当相)という。

 財務省は仕分け対象事業選びにも積極的に関与。対象の447事業のうち7割は財務省案が採用された。さらに実際の仕分けで、主計官が冒頭、「効果が薄れている」などと説明し、「廃止、縮減連発」の流れを作った。

 要求官庁側は「最初に主計官が話して、イメージを刷り込んでしまうのは良くない」(原口一博総務相)など「財務省主導」への不満を強めた。ある省の政務官は「刷新会議には『主計局の下請けをするようなまねはやめた方がいい』と忠告した」と明かす。

 だが、財務省と刷新会議の利害がすべて一致しているわけではない。仕分け人は、天下り法人を通して実施されている事業を「役人OBの高額報酬に充てるため、予算が中抜きされている」と批判し、次々と廃止、縮減の判定を突きつけた。一方、財務省の仕分け候補リストには、自らの天下り先である国立印刷局はなかった。「財務省も聖域ではない」とする原口総務相の指摘を受け、藤井裕久財務相が急きょ、対象に追加するよう申し出た。

 仕分けを統括する枝野幸男元民主党政調会長は「対象事業のたたき台は財務省が作った」と認めながらも「リストになかった財務省所管の公務員宿舎整備費はわれわれが対象に選んだ。財務省と違う議論を作っている自負はある」と語る。

 ◇独立行政法人にメス 30超す基金・特会に1兆円返納要求

 官庁OBの天下り先となっている公益法人や独立行政法人にも事業仕分けのメスが入った。

 仕分け人は、独法などの抱える30を超える基金や特別会計などから1兆円以上を国庫に返納するよう求めた。基金とは、「事業が複数年度にわたる」ことなどを理由に、政府から渡された金を公益法人、独法内にため込む仕組み。民主党は政権交代前から「無駄の温床になっている」と削減に意欲を見せていた。仕分け作業でも「使い方が独法や所管官庁の裁量に任され、毎年の財務省の査定や国会のチェックも不十分」として、徹底的に基金を調べ上げた。

 「典型的な無駄の事例」とされたのが、百貨店の授乳コーナーや公演会場の託児室設置費などを助成している「こども未来財団」の基金(300億円)。12日の仕分けでは、助成内容そのものは問題視されなかったものの、いずれも厚生労働省の元局長が務める理事長、常務理事に対し、それぞれ年間1635万円、1226万円の報酬を支払っていることが批判された。

 さらに財団の事業費15億円のうち、報酬などに充てられる管理費が5億円弱に達していることも判明。「子育て支援に回るべき税金が、天下り役員の人件費に使われている」として、仕分け人は「基金を全額国庫に返し、必要額は毎年の予算で手当てすべきだ」と判定した。

 バブル期以前の高金利時代は、基金の運用益が新たな国費の投入を抑えるというメリットもあった。だが、今回全額返納を求められた独法「福祉医療機構」の基金(2787億円)の運用益は、年間39億円と国債利回り並みの少なさ。仕分け人の土居丈朗慶大教授は「基金を積んで運用益を上げるという事業モデルは破綻(はたん)している」と指摘する。

 財務省は、基金の返納分を新たな「埋蔵金」として、10年度の一般会計歳入に充てる方針。さらに、仕分け対象外の基金100件以上についても仕分け結果を参考に、返納可能か「横串(よこぐし)」を刺し、埋蔵金発掘を進めていく考えだ。

 ◇宮城・農道整備に廃止判定 地元は賛否交錯

 宮城県南部・大河原町を流れる白石川。毎年春、約800本のソメイヨシノが両岸を覆う光景は「一目千本桜」の名で親しまれている。

 その白石川の堤防近くで、2013年3月の完成を目指し、2本の橋(全長703メートル)の建設が進んでいる。南隣の角田市から大河原町を抜け、東北自動車道・村田インターチェンジ(村田町)付近に至る14・0キロの広域農道の一部。農道の工事は既に事業費ベースで86・0%が完了し、橋の部分を除き開通している。

 「橋ができれば、東北道までの時間は今までの半分の20分になる。絶対につなげる必要のある道路。予算の出所は農林水産省でも国土交通省でもかまわない」。角田市の農業、面川義明さん(56)は橋の完成する日を待ちわびる。

 事業は農水省の「農道整備事業」の一環として89年度から始まった。国が50%、残りを県と市町村が負担し、総事業費106億9100万円を見込む。県は、農業の盛んな県南部から東北道へのアクセスを改善すれば、運搬にかかる経費を31・8%削減できると試算する。

 しかし、11日の事業仕分けで、農道整備事業は「予算があるから使ってきた典型例」などとして、「廃止」と判定された。このまま工事が止まれば橋を挟んで道路は分断される。県農村整備課の佐藤憲一課長は「必要と判断して取り組んできた。断念はできない」と主張。角田、大河原、村田の1市2町は地元選出の民主党衆院議員を通じ、小沢一郎幹事長と赤松広隆農相あてに、事業継続を求める要望書を提出する予定だ。

 その一方、農道沿いに住む農業、庄司栄夫さん(75)は「農産物を運搬するトラックよりも、地域の中心部で働く人の通勤に使われる乗用車の方が多い」と説明。仕分け人の「一般道と農道とをなぜ別々に整備する必要があるのか分からない」との疑問の声が、地元の住民からも上がっている。

 ◇進化させてウミを出し切れ--片山善博・前鳥取県知事(行政刷新会議メンバー)

 仕分け人の質問に、しどろもどろになる役人が多かった。各省の審議会のように根回し済みの場では意気揚々としているのに、公開の真剣勝負では胸を張って話せない。天下り法人への補助金で官僚OBの人件費をまかなうなど、世間に説明できないことをやっているからだ。科学技術予算の縮減判定への批判も多かったが、天下りなどの不純を作り出すために、科学という純粋なものを食い物にした部分を見てほしい。

 現場で見たやり取りは常識的。細かい金額の査定は別だが、事業の目的と手法が国民のためになっているかどうかは1時間で十分判断できる。

 公開により、説明責任を果たせるかチェックすることもできた。仕分けの基準は大方の人を説得できるかどうか。できなければ廃止、縮減、見直しとなる。厳しい判定が相次いだ背景に、財務省の査定能力が落ちていることがある。財務省がやるべき査定に民間の人が加勢したのが事業仕分けだ。財務省が査定能力を取り戻すには、予算編成の公開性を高め、国民の目の活用が不可欠だということが今回、はっきりした。

 だが、積年のウミは1、2回の予算編成では出し切れない。来年以降も進化させながら事業仕分けを続けるべきだ。さらに、仕分け人のような審判を編成過程に組み込むことで、従来の概算要求基準(シーリング)のような各省一律削減方式から、ゼロベースでの査定に予算編成のあり方が転換するだろう。

 ◇危うい劇場型、政策体系を示せ--新藤宗幸・千葉大法経学部教授(行政学)

 これまでの自民党政治では、密室の予算編成であるが故に族議員や利益集団が闊歩(かっぽ)してきた。それが「仕分け」で一つ一つの事業の妥当性が公開の場で議論され、我々も自由に見ることができるようになった。自民党政治から180度転換したことを示すものだ。透明度の高い政権運営の入り口に立つ取り組みであり、評価していいと思う。

 だが、問題点も多い。まず、大衆的な支持を獲得するという意味では、民主党が批判してきた小泉政権の「劇場型政治」の再演ではないかということ。新聞、テレビを介して「官僚バッシング」を繰り広げ、それが大衆受けしている。特定のアクター(役者)に関心が集中し、周囲の人はそのアクターが言うことに「すべてOKだ」と拍手喝采(かっさい)する。

 選挙で当選した国会議員が仕分け作業をするのはまだ分かる。だが「これはいらない」などと指摘した民間の仕分け人に政治的な正当性、代表性はない。にもかかわらず、仕分け結果に縛られた予算編成しかできなくなるのは問題で、こうした政治には危うさがある。

 劇場型の危うさとして、政策や事業全体の体系が無視されてしまうことも挙げられる。例えば民主党の主張する「地域主権」の具体的な構造がどうなのか。政策体系がない中で、枝葉の事業だけを仕分けで切っている印象を受ける。国と地方のあり方、科学技術の振興などを具体的にどのような体系で進めていくのか、民主党は示すべきだろう。

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 ◇仕分け人の顔ぶれ(敬称略)

 【統括】枝野幸男衆院議員

 【第1ワーキンググループ(WG)】=国土交通、総務、環境、財務省

 ◎国会議員

 津川祥吾衆院議員▽寺田学衆院議員▽亀井亜紀子参院議員

 ◎有識者

 青木宗明(神奈川大教授)▽安念潤司(中大法科大学院教授)▽石渡進介(弁護士)▽内田勝也(情報セキュリティ大学院大教授)▽翁百合(日本総研理事)▽奥真美(首都大学東京教授)▽川本裕子(早大大学院教授)▽田近栄治(一橋大副学長)▽辻琢也(一橋大大学院教授)▽富田俊基(中大教授)▽ロバート・フェルドマン(モルガン・スタンレー証券経済調査部長)▽福嶋浩彦(前千葉県我孫子市長)▽井沢幸雄(神奈川県小田原市職員)▽石渡秀朗(同県三浦市職員)▽新倉聡(同県横須賀市職員)▽政野淳子(環境行政改革フォーラム幹事)

 【第2WG】=外務、厚生労働、経済産業省

 ◎国会議員

 菊田真紀子衆院議員▽尾立源幸参院議員

 ◎有識者

 飯田哲也(NPO法人環境エネルギー政策研究所長)▽石弘光(放送大学長)▽市川真一(クレディ・スイス証券チーフ・マーケット・ストラテジスト)▽長隆(東日本税理士法人代表社員)▽海東英和(前滋賀県高島市長)▽木下敏之(前佐賀市長)▽熊谷哲(京都府議)▽梶川融(太陽ASG有限責任監査法人総括代表社員)▽河野龍太郎(BNPパリバ証券チーフエコノミスト)▽小瀬村寿美子(神奈川県厚木市職員)▽露木幹也(小田原市職員)▽土居丈朗(慶大教授)▽中里実(東大大学院教授)▽福井秀夫(政策研究大学院大教授)▽船曳鴻紅(東京デザインセンター社長)▽松本悟(一橋大大学院教員)▽丸山康幸(フェニックス・シーガイア・リゾート会長)▽水上貴央(弁護士)▽村藤功(九大ビジネススクール専攻長)▽森田朗(東大公共政策大学院教授)▽吉田あつし(筑波大大学院教授)▽和田浩子(Office WaDa代表)

 【第3WG】=文部科学、防衛、農林水産省

 ◎国会議員

 田嶋要衆院議員▽蓮舫参院議員

 ◎有識者

 赤井伸郎(阪大大学院准教授)▽小幡純子(上智大法科大学院長)▽金田康正(東大大学院教授)▽伊永隆史(首都大学東京教授)▽西寺雅也(山梨学院大教授)▽松井孝典(東大名誉教授)▽南学(横浜市大エクステンションセンター長)▽高橋進(日本総研副理事長)▽原田泰(大和総研チーフエコノミスト)▽中村桂子(JT生命誌研究館長)▽永久寿夫(PHP総研常務)▽安田喜憲(国際日本文化研究センター教授)▽山内敬(前高島市副市長)▽荒井英明(厚木市職員)▽高田創(みずほ証券金融市場調査部長チーフストラテジスト)▽速水亨(速水林業代表)▽星野朝子(日産自動車執行役員)▽吉田誠(三菱商事農業・地域対応チームシニアアドバイザー)▽橋本昭(アグロス胡麻郷社長)▽藤原和博(東京学芸大客員教授)▽渡辺和幸(経営コンサルタント)▽市村清(新日本有限責任監査法人シニアパートナー)

 ◇国民新も参加、70人で構成

 仕分け人は当初、民主党国会議員7人と有識者56人、内閣府の泉健太、財務省の大串博志両政務官で構成。後半から、有識者4人を新たに加えたほか、亀井静香金融・郵政担当相の要求で国民新党の亀井亜紀子参院議員もメンバー入りした。また、対象事業を担当する府省の副大臣または政務官も仕分け人の立場で参加する。

 <WGの分担省庁は変更の場合もある>

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 この特集は、平地修、谷川貴史、坂井隆之、寺田剛(以上、経済部)、田中成之(政治部)、伊藤絵理子(仙台支局)が担当しました。

毎日新聞 2009年11月28日 東京朝刊

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