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世迷言

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☆★☆★2009年11月28日付

 後から振り返ってみると「なんであんなことを」と慚愧にたえない思いをした経験は少なからずがお持ちだろう。この例も他人事ながら気にかかってしょうがなかった▼トヨタが米国で販売した七種の車をリコールするというのがそれだ。その数四百万台。費用は数百億円規模に達するものとみられている。四百万台も売ったのだからそのぐらいの負担は大したことがないという見方もできるが、根が貧乏性の小欄はそんな達観をできない。大体、致命的な欠陥ならともかく、これは回避できる種類のミスだからだ▼このリコールは、米国で販売したレクサスが暴走、乗員四人が死亡した事故の原因が、フロアマットにアクセルペダルが引っかかったためで、再発防止のためアクセルペダルを短いものに交換することにした。日本では同様の事故が想定できないのでリコールはしないが、ではなぜ米国では起こったのか▼問題はそこである。フロアマットは取り外しがきく。動かぬようピンで固定するようになっているが、それを怠る場合もあり、二枚重ねすることもあるだろう。つまりマットが床を移動し、アクセルペダルに引っかかる可能性はもともと存在した▼「フェイル・セーフ」とは、システム上の誤作動の外に、人間というものがかならず誤操作することを前提にして設計しろということだが、元々アクセルペダルが短かったらと「後知恵」に終わったのが残念でならないのである。その代償が数百億円というのは高くつきすぎた。

☆★☆★2009年11月27日付

 「宝の山」という表現はあるが、なぜか「宝の海」とは言わない。しかし海の中こそ宝の山?だろう。県が来月中に策定を目指す「三陸沿岸海洋産業振興指針(仮称)」は、このベールに包まれた世界に遅まきながら注目したものだ▼太平洋という海洋資源に目を向け、沿岸部にもっと光をあてようというこの試みは、天然資源の調査・開発だけでなく、海を活かしたあらゆる可能性を探ろうという多角的な視点を備えている。従来の概念にとらわれず自由な発想で海の魅力を引きだすことに目を転じたのは大きな前進だろう▼地表の70・6%を覆う海は、陸地の二・四倍の面積を持っているのだから、そこに眠る資源は大変なものがある。しかしその調査のために人間が道具を使って潜水できるのはせいぜい数千bにすぎず、しかもまだ点か線をなぞっているだけだ。この宝の海はほんの一部しか素顔を見せていないのである▼だが、海底には石油、天然ガス、メタンハイドレートなどの熱源と、鉄、マンガン、コバルト、ニッケルといった金属団塊、金、銀、銅、鉛、亜鉛などの熱水鉱床等々豊富な天然資源が眠っている。陸地の資源が枯渇化をたどる中、この眠れる宝をいかに探し出すかこれは世界的課題でもある▼科学技術を駆使した調査・開発が求められるため、取り組みは国と連動してのことになるが、まずは声を上げることが必要だった。陸から海へのシフトは必然的な変化であって、待ちに待ったかいがこれからあろうというものである。

☆★☆★2009年11月26日付

 昨日の小欄で、魚偏に「夏」の旁を持った漢字が見当たらないと書いたら、ちゃんとありました。米崎町の吉田さんという方からファックスが届き、魚にも春夏秋冬が揃っていることを教えていただいた▼さて、なんと読むか。答えは「ハエ・ハヤ」だという。吉田さんはホームページで以前からこの文字を取り上げていたが、各種辞典では確認できずネットで探し当てたよし。道理でありきたりの辞典などに載っているわけがない。その出典として教えられたネットの「真名真魚字典」を開いてみると、あるわあるわ。ありとあらゆる魚が飛び跳ねていた▼同字典によるとこの文字は他に「フグ・フクベ・サメ」とも読むようで、宝永六年版「大和本草」という本では主に「ハエ」として詳述し、「万葉集にもある」としながらも「出処未詳」と解説してある。ハエはハヤと同じで、もっともポピュラーな川魚であり、その「ざっこ(雑魚)取り」の節が主に夏だから、なるほどうまい組み合わせと思える▼他にも「わかし」と読むとかで、いやはや漢字の奥の深いこと。中国の漢字辞典である「康煕字典」にこの文字があれば、世界一の漢和辞典である諸橋轍次編「大漢和辞典」にもあるはずだが、なかったから国字なのだろう。漢字を借用しただけでは足りず、それ以上の文字を増やした日本人のなんと欲張りなことか▼それでは次の丸投げと行こう。魚偏に青が「鯖」なら、では他に色の付いた魚がどのくらいあるか?

☆★☆★2009年11月25日付

 寿司屋さんに行くと魚偏のついた文字がびっしりと並んだ湯飲みを出されることがある。残念ながら全部読めたことがない。漢字博士を目指す積もりもないのでそのままにしているが、旁の部分を研究したら面白かろう▼魚をこれほど旨く食べる調理法はないから「鮨」だろうと解釈したらこれは間違いとなる。中国では生魚を食べる風習は近年までなかったからだ。これは「鮓」と同じで、酢を使って締めた魚を鮓、塩漬けした魚を鮨と区分けしたようだが、その境はあいまいで、このため日本では「寿司」という文字を採用した。しかしこれは単なる当て字らしい▼魚偏に春は「さわら」、同じく秋が「かじか」、同じく冬は「このしろ」だが、なぜか夏がない。いやあるかもしれない。ただ日本には伝わってこなかっただけとも考えられるが、もし知っている方がおられたら教えていただきたい。多分夏の魚は食べない方が無難というのがその理由か?▼兆より大きい単位「京」をくっつけると「鯨」となるのは合点が行くが、その逆はおろそかにされたので日本では「弱」を添えて「いわし」という国字としたのだろうか。中国にはいない魚や、当てはまる文字がない場合は当然として国字をつくり、鱈、嬉、鰰、鯱、鯰などを創作した▼魚好き日本人の面目躍如たるものがあるが、ではなぜ「鯵」は旁が「參」なのか。実は先日前浜で捕れた鰺の刺身を食べて唸った。脂が乗ってねっとりとし、「関鰺」などあっちへ行ってろという旨さだった。これは旁の參を「壱」と改めるべきだと正直思った。

☆★☆★2009年11月24日付

鳩山政権の事業仕分けで、一度は凍結されそうになった次世代スーパーコン
ピューター(スパコン)開発予算が、菅副総理・国家戦略相の「鶴の一声」で復活する見通しとなった。これは当然だろう▼スパコンとは、国の先端科学の
実力を示す顔とでもいうべきもので、その演算スピードを上げることはまさに総合「脳力」を競うオリンピックに等しい。だからこそ先進国は最速のスパ
コン開発にしのぎを削っているのだが、それはなにも見栄だけのことではなく、「計算能力」の優劣は国家戦略上、時に死命を制す重要性を帯びているからに他ならない▼科学立国を目指すわが国は一昔前まで米国とその覇を競い、クレイ、IBM、NEC、富士通など日米各社が一位争いを繰り広げていたことが懐かしい。だが、「世界シミュレーター」(NEC製)が一時一位と
なったのも束の間、その後米国のすさまじい追撃に遭って、現在一位から四位までが米国のクレイ、IBM両社によって独占されている▼おまけに、かつては取るに足らない相手だった中国がめきめき頭角を現して五位に浮上、日本は現在三十一位に甘んじている。スパコンの開発は頭脳もさることながらやはり開発費が大きな負担となり、すでにNEC、日立の両社が撤退を表
明、富士通一社だけが踏みとどまっていた▼復活はまさに国民の願いが自然に発揚された結果だろう。日本が今日あるのはなぜか、その原動力となったものをないがしろにするにしのびない心情が、仕分けをうっちゃったのだ。

☆★☆★2009年11月22日付

 アテとなんとかは向こうからはずれる―ということになっているが、まさにその通り。民主党が天下を取ったのだから「早まるべぼの(だろう)」という期待は見事に裏切られた▼むろん三陸縦貫道路のことである。先の衆院選で本県の議席を独占した民主党の金城湯池となったからには、そこを通るこの道路の早期開通に地元選出の小沢さんはじめ岩手・宮城両県沿線の関係議員が力を入れてくれるはず―という淡い期待が寄せられるのは当然で、民主党政権が誕生と同時に早まるべもの」の大合唱▼ところがどっこい。政府の新年度予算編成方針に沿って国直轄の道路予算は大きく削減されることになり、高速道路もその例外たり得なくなった。その影響をもろに受けて三陸縦貫道の事業計画も見直しの対象となり、高田道路は今年度十五億円の予算に対して来年度は八億円〜十億円規模に減額されそう▼先月は沿線自治体がリアスハイウエイ早期実現を掲げて気勢を上げたばかりなのに、その余韻も冷めやらぬうちにこの悲報≠ノ地元はがっくり。ようやく計画に組み入れられた吉浜道路も見直しの対象となり、新年度の事業費は大きく削減されそう。宮古道路にいたっては十分の一近くと、ほとんど凍結状態▼「道路網の全国格差是正のため、三陸道は例外とする」という大義名分を立てることもできるが、小沢さん以下地元だけに余計やりにくい。有権者の目も光っている。「こんなはずじゃなかった」というボヤキが聞こえてくる。

☆★☆★2009年11月21日付

 「酒の肴は鮭のカマに限る」ちょっと語呂合わせめくが、これがなかなかの逸品。カマとは「鎌」の意で、えらの後ろにある鎌状の骨の部分を言うと辞書にあるが、これはいまはやりの「B級グルメ」に採用の資格十分だ▼秋になると「出稼ぎ」していた北の海から古里に戻ってくるサケは、その「北帰行」で体力を使い果たし、方言で「ほっちゃれ」つまりボロボロの状態となって最期を終える。そうなる前にメスからは卵を取り出し、オスはオスで新巻や切り身、鍋や加工用に回されるが、イクラとなる卵以外は気の毒なほどの安値となる▼見た目にもうまそうなベニザケと比べてシロザケはどうしても見劣りし、味までそう思われて損をするが、決してそうではない。現に天然物だけが遡上するのを待っていた時代は庶民には手の届かない高級魚で、誰一人その味を論じるものなどいなかった▼当地のサケ料理といえば北海道から伝わってきた「三平汁」だろう。アラを酒粕と大根やジャガイモ、ニンジンなどと煮込むこの豪快な塩汁も、最近の家庭ではあまり見かけなくなったが、まさに天の恵みを「骨までしゃぶる」感謝の馳走だった。そもそもコラーゲン云々など語る必要などなかったのだ▼頭の軟骨は「氷頭」として酒の肴に珍重されてきたが、カマの前には脱帽する以外にない。骨についたわずかな肉をほじくりながら食べるこの至福は、カマ自体にこってりとした旨みが詰まっているからこそで、これが安く手に入るのだからたまらない。そんな妙味を知らない人間などカマっていられない。

☆★☆★2009年11月20日付

 電気自動車(EV)は、まだ長距離を走れないのが泣き所とされてきたが、東京の市民団体「日本EVクラブ」が、このほど改造EVで東京―大阪間(五五五・六`)を充電なしで完走に成功した▼わが国ですでに市場に投入されているEVの実用車は、最長で一六〇`の走行しかできない。これは気仙から盛岡までの片道距離に過ぎず、まだ実験の域を出ない。その上、軽自動車のボディを応用したプロトタイプ(試作車)なのに価格が四百数十万円もするとあっては、市民権を得がたいというのが実状▼しかし市民団体がダイハツの軽自動車をベースに試作したEVが、走行距離において立派に実用可能性を証明した意義は大きい。三洋電機製のリチウムイオン電池八千三百二十本(約三百六十`)を搭載、エンジン部分にモーターを組み込んだいわば素人たちの試作が、メーカーもなし得なかった走行距離記録更新を果たしたからだ▼この記録はギネスブックに申請されるが、むろんメーカーには言い分があるだろう。軽の車体に大人五人分の電池を積んだら居住性など確保できない。実用性は無視されていると。その通りだろう。距離を稼ぎ出す実験が主のはずだから▼だが、それでも素人集団がそれなりにつくり出したEVが、玄人の既成概念を打ち壊したところが面白い。電池の積載スペースと居住性という相反する条件を満たすなら、軽ではなく普通車を使えばいいという発想も出てこよう。メーカーよムキになれ。

☆★☆★2009年11月19日付

 これまで「厄介者」とされてきたものが、時代という光が当たってお宝に変じるという事例が最近しばしば報告されている。英国では今なんとゴミの争奪戦が演じられていると知って微苦笑を禁じ得なかった▼ゴミといえば厄介者というよりは嫌われ者、その処理のために地方自治体がいかに頭を痛めているか―というのはわが国の話で、所変われば品変わる。英国ではそのゴミをいかにして集めるか廃棄物処理業者たちが、埋め立てに回るゴミをこちらに回せと訴えているらしい▼その辺の事情は、ゴミをゴミと見るから理解できないだけで、これが発電の燃料として有効に活用できる貴重な資源と捉えると一八〇度解釈は変わる。実際同国の廃棄物処理大手は、年間千五百万dのゴミを焼却することで四百五十万戸分の電力をまかなうことができると試算している▼業者はゴミの収集と発電の両面で利益を得ることができるから、まさに「おゴミ様」だが、こういう発想は残念ながらわが国にはない。ただ燃やしておしまいで、発電しさらに熱を得るという生産性をはなから否定している。それは生ゴミを同時に焼却するため熱量が期待できないからだろう。だが、廃プラスチック、ペットボトルなどは燃料としてまさに宝である▼廃棄物発電所の発電コストは風力発電所の半分で、これから時代の寵児になる可能性を秘めている。廃棄物を資源とし、さらに焼却後の残留資源も回収するという徹底した再生法には、驚きを通り越してひたすら感心する他はない。

☆★☆★2009年11月18日付

 官僚支配からの脱却を目指す鳩山政権だが、自民党の長期政権時代ですら思うに任せなかったこの支配構造は同政権にとっても「アンタッチャブル(不可触)」の存在だった?▼自民党はほとんど官僚任せだったから政党政治が形骸化してしまったのだ、という反省に立って同政権は成立当初から党主導の基本理念を掲げ、官僚の手助けを極力借りない虎の巻を色々と用意した。閣僚は発表原稿を自分で書く、答弁も自分でする―などなど微に入り細にわたってその意気込みはまことに壮なるものがあった▼だが、相手は永年の与党政権を裏から支えてきたプロ集団。そうやすやすと牙城を明け渡すはずがない。面従腹背しながら守るべきところはちゃんと守り、我はきちんと通していく。なにしろ政権が進める構造改革の要所要所には、裏方として官僚が座っている。首根っこを押さえられているに等しい▼新年度予算の概算要求一つとっても、閣僚が担当省庁の意向を抑えてリーダーシップを発揮したとは思われない場面が続出した。雑誌「プレジデント」は、官僚機構へ切り込む構えがあるのは、長妻厚労、前原国交、仙石行政刷新、岡田外務の各相ぐらい。あとは?と疑問符を呈している▼強硬だったその長妻氏すら「官僚に任せられるものは任せる」「(官僚は)同じ船に乗った運命共同体だ」と発言するようになった。正面一点突破しようとしたら後から誰もついて来なかった。とならねばいいがね鳩山さん。


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