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「腐るお金」の導入はなかなか難しい。 「腐るお金」が地域振興券や定額給付金とは違って、一回こっきりの使用で終わったり貯蓄に回されたりする心配がなく、経済を活性化することが分かっていたとしても、通常の貨幣とはあまりにかけ離れているので、イメージがしにくい。 理解しづらければ、国民も導入には及び腰になるだろう。 そこで、「コメ兌換紙幣」の発行を提案したい。 これは、「腐るお金」の機能を備え、経済を活性化させるばかりでなく、農家の所得保障、国民の生活保障にもなるアイディアである。 まず国は、2010年度に生産されるコメを担保にして、コメ兌換紙幣を発行する。 そして、国民全員にコメ兌換紙幣を配ってしまう。 赤ん坊でも寝たきりの老人でも、公平に。 すると、コメ兌換紙幣の配布量は、一人あたりコメ60kgに相当する。 これは日本人が1年間に食べるコメの量に相当し、4人家族なら240kgだから、かなりの量だ。 これだけのコメがあれば、「お金はなくてもコメなら食べられる」という安心感を国民全員が共有できるだろう。 このコメ兌換紙幣を農家に渡せば、コメをもらうことができる。 農家はコメ兌換紙幣を役場に持っていけば、あらかじめ決められた買い取り価格で現金と交換してもらえる。 消費者がスーパーなどで購入する価格である60kg・18,000円程度に設定すれば、農家はかなり経済的に潤う。 このように、コメ兌換紙幣を使うことで、国民の生活保障と農家の所得保障の両立を図るのだ。 コメ兌換紙幣の発行額は2兆円相当になるが、国民全員が「これだけコメがあれば飢えることはない」と安心できることや、そして農家の所得保障に繋がることを考えれば、効果は絶大だといえる。 さて、ここまでなら戦中の配給券とあまり変わらないようだが、次の2つの特徴を備えることで、コメ兌換紙幣は大きく様変わりする。 1.コメ兌換紙幣の市場での取り引きは自由にすること。 2.コメ兌換紙幣には「2010年度産」というように年度を明記し、同じ年度のコメの価値にあわせて買い取り価格を徐々に安くしていくこと(翌年に新米が出ると古米になってしまうので、それに合わせるように買い取り価格を下げる)。 皆がコメを60kg食べるわけではなく、まだ子どもが小さかったり、お年寄りの場合はとても食べきれないだろう。 そうした場合は、コメ兌換紙幣を誰かに転売すればよい、いくらで売っても構わない。 「コメよりもパンが好き」という人は、コメ兌換紙幣を売って現金に換え、パンを買えばよい。 「コメ兌換紙幣でスーツ売ります」「ビール、コメ兌換紙幣で買えます」というお店があれば、そこでコメ兌換紙幣を使っても構わない。 コメ兌換紙幣が市場でどう流通するかは、任せてしまうのだ。 自由な取り引きを認めることで、コメ兌換紙幣はお金と同様に流通し始めるだろう。 しかもこのコメ兌換紙幣、「腐るお金」としての機能を備えている。 コメ兌換紙幣が18,000円で買い取ってもらえるのは、発行した年度のコメが新米のうちだ。 翌年に新しいコメが出回るときには、前の年度のコメは古米になってしまうから価値が下がってしまう。時間が経つほど、コメ兌換紙幣の買い取り価格は小さくなるのだ。 このため、コメ兌換紙幣は徐々に価値を低減させていく「腐る貨幣」として機能する。 いつまでも手元に置いておくと価値がなくなってしまうから、誰もがさっさと使いたくなる。 コメ兌換紙幣で何かを売ったお店は、手元に置かずにすぐにどこかで使おうとするだろう。 コメ兌換紙幣はかなりの速度で流通することになる。 貯金できないから、使うしかないのだ。 これにより乗数効果(お金が短い時間の間にたくさんの人の手にわたることで、大きな経済効果を示すこと)が生まれ、経済が活性化する。 ところで農家も、コメ兌換紙幣に「1俵」と書かれているからといって1俵分のコメを渡す必要はない。 ブランド米を作っている農家は、「コメ兌換紙幣にプラス5000円の現金」でコメを売っても構わない。 逆に、品質に自信のない農家は「ちょっとコメの品質に難あり。そのかわり、コメ兌換紙幣1俵で1.2俵のコメをお売り致します」というケースがあっても構わない。 国はただ、コメ兌換紙幣の買い取りを保証するだけである。 翌年、保証している年度のコメが古米になって価値が下がれば、買い取り価格は小さくなるけれども。 以上のように、コメ兌換紙幣を発行することで、農家の所得保障と国民の安心の両方を達成することができる。 しかもコメ兌換紙幣は「腐るお金」の性質を備えているので、経済を活性化することができる。 国は2つのことを実行するだけだ。 国民全員に公平にコメ兌換紙幣を配ること、発行した年度のコメと同じ価値でコメ兌換紙幣を買い取ること。それだけで、これだけの効果を見込める。 このように、コメ兌換紙幣は「腐るお金」のモデルとして分かりやすい事例となるだろう。 コメ兌換紙幣は、いわば江戸時代の温故知新だ。 江戸時代の経済は「コメ本位制」であった。 幕府や藩の経済力は、何万石というように石高で評価された。 コメの生産量はそのまま藩の経済力を示すものだったのだ。 経済の物差しを、コメのように時間が経つとともに価値が減っていくものに設定していた江戸時代の知恵は、世界に発信すべきすばらしいものに思える。 別に解説したように、腐りもせず利子で増えていくばかりの現在の貨幣は、人間社会が経済成長せざるを得ないように強いる。 しかし、世界経済が成長を続ければいつか地球が壊れてしまう。 人類は、経済成長を目指すこれまでのやり方を方向転換しなければならなくなっているのだ。 そのためには、「腐るお金」の導入が必要なのだが、コメ兌換紙幣は江戸時代の知恵を今によみがえらせる格好の手段ではなかろうか。 ぜひ導入を検討してみて頂きたい。 追伸 コメ兌換紙幣のアイディアは、『「お金」崩壊』(集英社新書)の著者である青木秀和氏とディスカッションしていた際、ご教示頂いたものである。氏の許可を得て、ここで紹介する。 ◇ ◇ ◇
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11月16日〜11月21日
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