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【昭和正論座】京大教授・会田雄次 昭和51年12月1日掲載 (3/5ページ)

2009.11.28 07:35

 ≪呪詛と嫉妬と怨念からむ≫

 美(佳)人薄命とはヨーロッパ中世の「美しい花ほど早くしぼむ」といった風に古今東西どこでも見られる諺(ことわざ)だが、美人は別に薄命でも何でもない。目立つから惜しまれてそういわれるだけのことである。しかし、その一方、「美人薄命」とは、美人を得られなかった男やブス(女性の)たちの嫉妬(しっと)や呪(のろ)いの言葉、早く死んでしまえという意味を含む諺であることに人は案外気がつかない。そのことは美人薄命という諺と一緒に、このヨーロッパ中世の例でいえば、「美と愚かさとは同じ部屋に住む」とか「美はスープを作らない」(美人はうまいスープが作れぬから女房には不適)といったその呪いをなぐさめる言葉が必ず随伴して流行するからである。

 「美人薄命」説はその嘘が判断しやすいから例にしたのだが、金持ちは悪人だとか、その逆の「大衆は常に善」、「人民大衆の要求はみんないじらしくてつつましい」ものといった種の思考も要するにすべて同じことだ。

 論証はながくなるので結論を早くしよう。自然や人間の本質を善とか調和とか平和とかいう断定はそういう全くの抽象語で語られるから何だか真理らしく聞こえるのだが、美人薄命のように具体的に定義させて見るとそれが単なる思いこみであることがよく判る。手許の新聞にも「森には美しい自然と静かな平和の世界があるのに、なぜ人間の町は」という主婦の投書が載っている。

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