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【昭和正論座】京大教授・会田雄次 昭和51年12月1日掲載 (2/5ページ)
≪現実が理想を裏切っても≫
だが、この種の考え方の根本的欠陥は、その「本来」、「本質」、「原点」、「初心」などというものが、実際の自然や人間の姿ではなく、当人の希望の投影像にすぎないということである。真実でないからこそ、その派の人々が美しいだけの言葉でいろいろ説いても書いても、異なる意見の人々はもちろん、同派の人々の心にさえ感動を呼びおこさない。いわんや現実は、かれらのいう本質とやらと全く何の関係もなく動き流れて行く。
もっとも現実が自分の理想を裏切っても、この派の人々はそれほど絶望しない。嘆いて見せるだけである。現在の若者のようにシラケルだけである。大抵の人はやがて現実社会の実際とまともにとりくむようになって行く。もともと夢想だから醒(さ)めもする、潰(つぶ)れても当然ということなのであろう。
ただ、歴史の上では、この派の人や人々が、大きな力となったり、権力者になったりし、その「理想」を広い社会で実現しようと試みた場合がかなり存在する。そのときが恐いのだ。フランス革命時の恐怖政治、カルビンの神裁政治、クロンウェルの独裁、中国の文革期等々に見られるようにその現実社会は途方もなく歪(ゆが)み奇型化して人を苦しませるものとなるからである。
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