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自立する若者悩み共有<脱北8>

李ハナさんは自身のブログで、脱北者の若者らとの交遊もつづっている。「ひたむきに生きる姿を知ってほしい」(大阪市内で)

 大学に入学したものの、周囲に脱北者と打ち明けられない李ハナ(27)(仮名、大阪市在住)が素顔に戻れるのは、同じように北朝鮮で生まれた若者たちと過ごす時間だ。今春、ハナの呼び掛けで関西に住む10〜30歳代の脱北者約10人が、日本人との友好の意を込めた「朝和会」という親睦(しんぼく)グループを作った。

 居酒屋に毎月集まって仕事や恋愛について語り合う。8月には和歌山・白浜へ1泊旅行に出かけた。「日本社会に迷惑をかけない」ことを目標にしていて全員が経済的に自立している。

 ハナが「オッパ(お兄ちゃん)」と慕う河鎮宇(30)(仮名、大阪府在住)も勤務先の工場で出身を隠している。以前、アルバイトしていた飲食店で過去を明かしたら、好奇の目で「餓死者って何人ぐらい出てるんや」「北では何を食べてたの」などと聞かれてつらかったからだ。

 中国人の脱北ブローカーから最近、13年前の脱北時に中国の公安当局に捕まった父親について、「北朝鮮の政治犯収容所にいて、500万円で釈放できる」との情報が寄せられた。

 将来は不動産関係の仕事に就こうと、宅建資格の勉強をしている。「日本で金をためて、何としても父を助けたい」と願う。

 榊原明子(28)(同府在住)は脱北後、2004年に来日し、帰化。在日の高齢者が暮らす介護施設で働いている。10月にはヘルパー2級の資格も取った。

 北朝鮮東部の地方都市で過ごした少女時代の記憶はつらいものばかりだ。1997年、人民学校(小学校)の級友だった男性が路上で餓死しているのを目撃した。銅線を盗んだだけの罪で男たちが河原で公開銃殺されるのも見学させられた。

 「日本は豊かで、努力するだけ報われる。けれど、お金もうけだけではさみしい」。食事や排せつの世話をしたお年寄りから、「ありがとう」と感謝される時、最も生きがいを感じる。

 日本と北朝鮮の両方を誰より知るのは自分たちだ。「日本にやってくる仲間をサポートしていこう。そして、いつか堂々と出身を明かして日本人にも協力を呼びかけよう」。ハナたちは誓い合っている。(敬称略)

2009年11月27日  読売新聞)
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