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夢の大学、出身言えない<脱北7>

 <北朝鮮で生まれなかったら、と恨んだりしない。つらい過去は人一倍強く生きる力を与えてくれる>

 今春、大阪市に住む李ハナ(27)(仮名)は脱北者で初の大学生になった。併せて脱北者の思いを知ってもらおうと、インターネット上に「リ・ハナの一歩一歩」と名付けたブログを開設。北での暮らしや、自殺用の農薬を用意して臨んだ脱北体験、入学した関西の私立大学での戸惑いや喜びなどをつづっている。

 ハナは、帰国事業で海を越えた在日コリアンを両親に持つ「帰国者2世」。18歳だった2000年、母親がある事件の連帯責任を問われ、家族で脱北。05年の来日後、「何かを成し遂げ自信をつけたい」と、大学入試挑戦を決心した。

 脱北者支援NGOによると、国内の脱北者の過半数が北朝鮮生まれの10〜30歳代。定住の壁は日本語習得で、多くは夜間中学で初歩を学ぶ。ハナも同市生野区の食堂で皿洗いのアルバイトに励む一方、夜間中学に入り、家ではテレビのバラエティー番組を見ながら聞き取り訓練を重ねた。

 日本語が上達すると、高卒認定試験(旧大検)と大学入試に向けた勉強を始めた。縦書きに慣れないため、1行ごとに定規をあてて参考書を読み込んでいく。行き詰まるとカラオケボックスで大好きな一青窈の曲を歌い、気持ちを奮い立たせた。大学合格まで、来日から3年半での快挙だった。

 「私も大学生だ!」。4月、スーツ姿で大学の正門をくぐりながら、ほおが紅潮した。日本に民事訴訟があると知って驚いたり、疑問も抱かなかった死刑制度を議論する学生の真剣さに圧倒されたりと、キャンパスは発見に満ちている。

 しかしハナは大学で、北朝鮮生まれであることを明かせないでいる。

 北朝鮮は4月に長距離弾道ミサイルを発射、5月には地下核実験を強行した。報道は北批判一色になり、インターネットの掲示板で「北朝鮮死ね」との書き込みを見つけた。「過去を知られたら、私まで怖がられたりしないだろうか」。入学から8か月たった今も憂いは晴れない。

(敬称略)
2009年11月26日  読売新聞)
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