刑事裁判では、「無罪の推定 」が重要な原則とされています。「無罪の推定」とは、犯罪を行ったと疑われて捜査や、刑事裁判を受ける人について、刑事裁判で有罪が確定するまでは「罪を犯していない人」として扱わなければならないとする原則です。
そして、刑事裁判では、被告人が犯罪を行ったことにつき、検察官が「合理的な疑問を残さない程度の証明 」をしない限り、有罪とすることができません。無罪が推定される被告人は、自らの無実を証明することを要求されないのです。
疑いを向けられた人が自らの無実を証明することは、非常に困難です。刑事裁判では、検察や警察がその組織と捜索・差押え・取調べなど強制力を用いて証拠を集めることができるのに対して、疑いを向けられた被告人は有利な証拠を集めるための組織も強制力も有していないという、大きな力の差があります。にもかかわらず、被告人が自らの無実を証明できないからといって、有罪としてしまったら、多くの無実の市民が有罪とされてしまうおそれがあります。
そして、無実の市民に対する有罪判決は、市民の自由や権利を不当に奪い、その人生を狂わせ、家族にまで大きな打撃を与えるという深刻な害悪をもたらします。こうした悲劇を防止するために、被告人は無罪と推定され、検察官が「合理的な疑問を残さない証明」をしない限り、有罪とすることはできないものとされているのです。
「合理的な疑問」とは、みなさんの常識に基づく疑問です。法廷で証拠を見聞きして、みなさんの常識に照らし、少しでも疑問が残るときは、有罪とすることはできません。人に刑罰を科す前に、市民が常識に照らして疑問の余地がないかどうか確認する。そのような仕
組みが、無実の市民が罰せられるという悲劇を防止するのです。