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時評コラム

猪瀬直樹の「眼からウロコ」

マッカーサーが仕掛けた戦慄の時限装置

昭和天皇の誕生日にA級戦犯を起訴、そして皇太子明仁の誕生日には……

 平成になったとき、「これからは12月23日が天皇誕生日になる。23日は、A級戦犯が処刑された日だ」と僕は思った。以来、20年間、このテーマをあたためてきた。偶然なのか、意図的に仕組まれたことなのか、考えてきた。そして、解を見つけた。証明できたと思っている。

 われわれ世代の習慣としては、天皇誕生日といえば4月29日である。しかし、平成になって突然、歳暮のいそがしいときに祝日が出現してまごついた記憶が多くの人にあるのではないか。天皇誕生日が12月に存在していることに、しばらく違和感があったはずだ。

 結局、4月の天皇誕生日はみんなの習慣になっていたから、祝日として残された。いまは「昭和の日」になっている。

 その「昭和の日」は、昭和23年にA級戦犯28人が起訴された日である。さらに5月3日の「憲法記念日」は、昭和22年に日本国憲法が施行された日であると同時に、昭和21年に東京裁判が開廷した日でもある。

 これは単なる偶然の一致ではない。昭和天皇誕生日にA級戦犯が起訴され、日本国憲法施行日に東京裁判が開廷、皇太子明仁の誕生日にA級戦犯が処刑されたという歴史的事実は、ひとつの暗号とみて戦後史を読み解くべきではないか。ゴールデン・ウィークや天皇誕生日は、漠然と存在しているわけではない。そこに意図的なメッセージを込めた人物が存在する。

 「ジミーの誕生日の件、心配です」と日記に記した子爵夫人は、GHQ(連合国軍総司令部)のある人物と深い関係にあった。12月23日という日付が果している役割は、GHQが天皇明仁に仕掛けた時限装置なのだ。

 背景には、東京裁判において昭和天皇を起訴するかどうかという問題があった。戦勝国の世論はヒトラーとヒロヒトの区別がつかない。昭和天皇を起訴して裁判に処せよ、あるいは重要証人として出廷させよ、というものだった。しかし、マッカーサーは昭和天皇を不起訴にした。

 そのうえで、マッカーサーは4月29日にA級戦犯の起訴を決めた。これは、占領目的のために昭和天皇を裁くことはしないが、戦争責任はありますよ、という暗号でもあった。さらに、いずれ占領を終えて去っていくマッカーサーは、東條らA級戦犯7人の処刑をあえて12月23日にすることで、将来、時限装置が作動するようにセットしておいた……くわしくは、ぜひ本書をお読みいただきたい。

 いまの日本には物語がないと言われるが、そんなことはない。日本がなぜ戦争を始めたのか。大きな物語を思い出すきっかけは、われわれの日常のなかに染み込んでいる。

猪瀬直樹(いのせ・なおき)
作家。1946年、長野県生まれ。1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で1996年度文藝春秋読者賞受賞。以降、特殊法人などの廃止・民営化に取り組み、2002年6月末、小泉首相より道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命される。政府税制調査会委員、東京工業大学特任教授、テレビ・ラジオ番組のコメンテーターなど幅広い領域で活躍中。東京都副知事。最新刊に『ジミーの誕生日 アメリカが天皇明仁に刻んだ「死の暗号」』(文藝春秋社)がある。
オフィシャルホームページ:http://inose.gr.jp/
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