「お席になってお待ち下さい」。店員に言われても驚いてはいけない。「(席に)お掛けになってお待ち下さい」の言い間違いだ。「ほぼ日刊イトイ新聞」の投稿サイト「言いまつがい」にある「やすこ」さんの投稿である▲同じく「見りません!」は見てないし、知らないを思わず一言にした「かるがも大行列」さんの投稿。これら短縮型に対し「○○さんとこも居留守に入られたらしい」と言われた「そりゃ空き巣」さんの例のように根本的言い間違いもある▲日本人技師誘拐事件での「イエメンでゆうわくされた……」という官房長官のびっくり発言も誘拐と誘惑の根本的言い間違いだった。ただ2度も重なれば、トップの言い間違いが政権交代を招いた後だけに世人の耳目を集めるのも仕方ない▲「言いまつがい」には「巨人の原采配(さいはい)」と言おうとして「サラハイハイ」(「高校野球も好き」さん)というような音の逆転も多い。ただそんな音声の逆転も長い間繰り返されれば正しい言葉になることもある。ちょうど生け垣に咲くサザンカを見て、昔聞いた名前の由来を思い出した▲漢字表記「山茶花」は中国でツバキを意味する言葉に由来する。それがサザンカを意味すると勘違いした上、「さんざか」という読みがやがて発音しやすい「さざんか」に取って代わった次第だ。18世紀の文献は両音併記しており、「言いまつがい派」がすでに優勢だったらしい▲木々の紅葉の間に紅や白の花をつけ、また落葉の地上に花弁を一枚一枚散らすサザンカは日本の11月の貴重な彩りだ。その学名も日本名サザンカを用いているから、学問に貢献する「言いまつがい」だってあるのだ。
毎日新聞 2009年11月26日 0時06分
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