ジャケットのベンツ、あまり深く考えた事はなかったのですが・・・
スーツ上衣の多くには、裾に「切り込み」(スリット)があります。ベント(vent)と呼ばれるもので、裾の背中央にあるものがセンター・ベント(シングルベント)、両脇にあるものがサイド・ベンツ(ダブルベンツ)。そして、この割れ目のないものはノー・ベントと呼ばれています。
このベンツ(vents)は本来、乗馬の際に動きやすいように工夫されたもので、かつてテールコート(燕尾服)を着ていた時の名残なのです。
乗馬の際に裾が邪魔にならず、馬上ではコートの両端が馬の両側に垂れ、自由に体を動かすことができたのです。
現在でも同じような機能を果たしていて、ズポンのポケットに手を入れるときや、椅子に座るときなどに動きやすさを実現しています。
その点、ノー・ベントは形状としては整っているのですが、機能的には劣ります。特に、上衣が細めの場合には動きにくくなってしまいます。ですから、ノー・ベントはゆったりした上衣に適した構造と言えるでしょう。
中央にスリットのあるセンター・ベントは、アメリカ人好みで、わが国でも最も多く見られるもの。対してサイド・ベンツは、イギリス人が好むといわれます。(そう言えば、ビートルズのスーツは殆どがサイド・ベンツだったようです。)
サイド・ベンツの起源は、軍人がサーベルを取り出しやすくするために考案されたもの。そのことから、センター・ベントが、その起源から「馬乗り」ともいわれるのに対して、サイド・ベンツは「剣吊り」ともいわれました。
このサイド・ベンツには、体を自由に動かすことができるという利点のほかに、常にシルエットを美しく保ち、脚を長く見せるという効果があるといわれています。というのは、ズボンのポケットに手を入れたときなどに、セッター・ベントは開いたスリットからお尻の部分が見えますが、サイド・ベンツではお尻の部分は隠れたままでシルエットが崩れないのです。
また、歩くときに脚の動きに連れてサイドがわずかにゆれて開くため、ズボンの後ろラインがウェストのほうにまで強調されるので、実際よりも脚が長いという印象を与えるからです。
ただし、以上は細めのシルエットのスーツに期待できることで、腰が大きい人は逆効果。腰が大きい場合は、センター・ベントかノー・ベントで腰を隠すくらいにするほうが良いようです。
「ジ・アフタ」より転載・一部加筆
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