「審査事務」というのは、日本に在留する外国人の「在留資格」の取得、「在留期間」の更新、「再入国の許可」といった申請を受理し審査する業務です。
まだ日本経済ががんがん発展している華やかな時代です。でも私がそこで見たのは、日本人には見えにくいもう1つの日本、外国人が暮らす日本でした。
あどけなさが残る在日韓国人の中学生が初めて在留資格の手続きに緊張してやって来る。「日本人とほとんど変わらないこの子達がどうしてこうなるのだろう」。素朴な疑問でした。
在日韓国人・朝鮮人の法的地位を安定させよと訴えた
坂中 1975年に発表した「今後の出入国管理行政のあり方」の中では、在日韓国人・朝鮮人の法的地位を安定させることの必要性を訴えました。
在日韓国・朝鮮人は普段は日本人と何ら変わらない生活をしています。
しかし、あくまでも「外国人」の資格で日本に滞在しているので、法的には国外退去を強制される恐れのある不安定な立場にあり、社会保障制度の適用など生活上の様々な権利を享受できない地位にあるということです。日本に長く定住する人たちの事情を考えれば、「退去強制」がいかに残酷な措置であるか分かると思います。
この論文は審査員全員一致で出入国管理行政発足25周年記念論文に選んでもらうことができましたが、在日の方たちを含めて当時は多方面からものすごい反発がありました。
その後、在日韓国・朝鮮人を特別永住者として認める法改正があり、法的な地位の安定性は大幅に改善しました。でも最初に私が感じた、「外国人の暮らす別の日本」という側面は根本的には今でも違わないんじゃないかと思います。
コンビニエンスストアに行けばいつでも物は溢れています。でも、お弁当やお総菜の工場などに行けば作っているのは外国人がとても多い。外国人がいなければコンビニのお弁当も食べることはできないし、日本経済発展を支えた自動車産業もここまで発展しなかった。
見てみぬフリを続けていていいのかということです。
グローバルな人口移動はどのみち止められない
坂中 もう1つのこの論文で訴えたかったことが「国際間の人口移動」ということでした。
地球上に富の偏在がある限り、貧しい国から豊かな国への移動は不可避です。こうした国際間の人口移動に国家としていかに向き合うかは、世界に共通した深刻な課題になると思いました。
―― それにしても移民1000万人と言うのは唐突な感じです。
坂中 1997年ごろから、日本が10年以内に迎える人口減社会について考えるようになりました。実際には国の予想よりも早く、2005年から人口は減り始めました。
理論的には「小さな日本」か「大きな日本」しかないと思っています。