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科学技術予算―国の基盤、ゆえに精査を

 科学技術の予算が、いつになく世間の目を集めている。

 行政刷新会議の「事業仕分け」によって、関係予算が軒並み減らされたり廃止されたりし、科学界から一斉に悲鳴や反発の声が上がったからだ。ノーベル賞受賞者たちがずらりと並んで声明を発表する異例の一幕もあった。

 この分野の予算は、日本の将来にとって重要との位置づけから、緊縮財政の下でも例外的に伸びてきた。

 ところが一転、厳しい財政状況を反映して来年度予算では27年ぶりにマイナスに転じることが確実なうえ、「聖域」なしの削減もつきつけられた。

 科学界が危機感を抱く背景には、欧米やアジア諸国が予算を増やして科学技術の競争力を高めようとしていることや、基礎研究や人材育成の場である大学がすでに、予算の削減でその力が弱ってきていることがある。

 予算をいかに効果的に使って、日本の力を伸ばしていくか、改めて知恵を絞るべきときだ。

 今回の仕分けは、あまりに一方的との批判も強いが、意味もあった。一つは、予算を求める側には本来、その必要性をきちんと説明する責任があると示したことだ。

 また、いったん始まったらまず見直されることのなかった既存の計画にも大胆に切り込んだこともある。

 たとえば、宇宙開発委員会で経済性や将来性に厳しい指摘が出たのに、自民党の一部議員の主張で続いていたGXロケットを「見送り」とした。

 国立大学の法人化の是非が問われ、各省ばらばらの研究費の配分態勢にも注文がついた。もっともな指摘だ。

 一方で、感染症研究の国際ネットワークや、ウイルスなどの実験材料のバンクなど、地味だが継続が大切な分野への目配りを欠いた仕分けもある。

 今後の本格的な予算案づくりは、仕分け作業での指摘も生かしつつ、何より長期的な視点で進める必要がある。

 日本の強みを生かし、人々に恩恵をもたらす科学技術を発展させるには、どこに力を入れるのか、どう人材を育てていくのか。鳩山内閣は専門家の意見をしっかり聞き、さすが理系政権といわれるような構想を練ってほしい。

 大型の計画では不断の検証も欠かせない。今回、次世代スーパーコンピューターは「見直し」とされた。スパコンが重要なことは間違いないが、一部の参加企業が撤退したのに当初の計画のままでよいのか、などが問われた。

 82年から約10年続いた第五世代コンピューター計画の失敗について内閣府の研究所が検証結果をまとめたのは、なんと昨年のことだ。計画の遂行には常に柔軟な見直しが欠かせない。

 必要なところに必要な資金を投じる。国民が納得できる、そんな科学技術支援策を探りたい。

肝炎基本法―「国民病」の撲滅へ動け

 B・C型といったウイルス性肝炎の患者が、安心して治療を受けられる。そんな患者支援と治療態勢づくりに国を挙げて取り組むとした肝炎対策基本法案が、今国会で成立する見通しだ。

 昨年1月にできた薬害肝炎救済法は、汚染された血液製剤がもとでC型肝炎になった人だけが対象だった。基本法は原因や種類を問わず、すべての肝炎患者を救う手立てになる。

 肝炎はやっかいな病気だ。主に血液を介してウイルス感染して起こるが、多くはすぐに発病せずに体内に潜む。数十年後にウイルスが暴れ出し、肝硬変や肝がんに進む場合もある。

 早く感染を見つけてウイルスをたたく治療を受けたり、注意深く観察したりして重症化を防ぐ必要がある。

 ウイルスの正体は80年代後半まではっきりわかっておらず、輸血血液にたやすく混入していた。多くの人の血液を集めてつくる血液製剤は、わずかなウイルス混入が被害拡大につながるのに、防止策が不十分だった。

 注射の針だけでなく容器を介しても感染するのに、現場医師らに徹底されていなかった。集団予防接種で注射器の使い回しもあった。検査法が確立し、対策が浸透した90年代初めまでは、だれもが医療行為を通じて感染する恐れがあった。基本法に「国の責めに帰すべき事由」で感染がもたらされたと明記するのは当然だろう。

 肝炎ウイルスは私たちの社会に広く深く潜んでいる。推定350万人といわれる感染者はいつ発病するかわからず、かつての結核に代わって「国民病」といわれる。基本法ができることを契機に、撲滅への一歩を踏み出さねばならない。

 まず患者の負担を軽減することだ。インターフェロン治療への助成は昨年度から始まり、患者負担は収入に応じて月1万〜5万円に抑えられた。だが、この薬はB型の多くに効かず、ほかの治療薬は助成の対象ではない。

 治療法は年々進歩している。政府の支援で財政負担は大きくなろうが、適切な早期治療で重症化を防ぐことができれば、結果的に社会全体のコストの削減につながる。

 入院や長期の通院のため仕事と両立できず、治療をあきらめる感染者もいる。雇用主の理解を広げる方策と、病気で休業する人への支援が必要だ。感染を理由に仕事を失ったり、離婚に追いやられたりといった差別や偏見も排除していきたい。

 気がかりなのは、C型とB型の「格差」だ。薬害C型肝炎訴訟は救済法の成立で全面解決した。予防接種によるB型感染については、06年の最高裁判決で政府の責任が認められたのに、全国10地裁で351人がなお係争中だ。政府は早期に和解協議に入り、全面解決に動くべきだ。

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