注・参考文献リストの書き方


 論文の書式は、たとえば卒業論文の締め切りを前にして一夜漬けで身につくものではありません。また卒論一回限りのために複雑なルールを覚えることなど、いったいなんの意味があるのでしょうか?それは苦痛以外のなにものでもありません。
 平常の授業で課されるレポートでは、テクスト以外に参考文献を使ったところで、せいぜい3・4冊だと思います。そういう単純なケースでまず練習してみてください。(確実にレポートの心証がよくなるという御利益もあるでしょう。)
 いったんこうしたスタイルが身につけば、逆にいろいろな文献についている注や参考文献リストが活用できるようになります。それにより自分に必要な本を図書館で探せるようになります。標準的なスタイルで論文を読み書きできるようになることは、図書館というデータベースを有効に使うための不可欠の道具です。


I. 注の書き方

 レポートのなかでさまざまな文献を引用したり、あるいはその内容を要約して紹介したりするとき、その出典を明らかにするために注を付けます。こうした情報源を明らかにして自分の考えと他人の学説を区別することは、学生の最低限の義務で、これを怠ると剽窃行為になります。(欧米の大学ではこれは試験におけるカンニングよりも重大な不正行為としてとらえられており、発覚すれば放校処分などの処罰の対象になります。)
 また補足的な説明や細部にわたる議論を本文から注に移すことにより、本文の論理の流れをより明解にすることも可能になります。
 注における出典の表記のしかたをまとめると次のようになります。
 基本的に、1. 単行本 2. 単行本の一部 3. 雑誌に掲載された論文・記事 の3つに分かれます。またそれぞれについて和書と洋書の違いがあります。一度に書き方を覚えようとせずに、現物を前にしてその本のデータを正しく記述する練習を重ねてください。
 注は引用の出典の表記の他に、本文に対する補足説明にも使えます。
 

A. 単行本の場合

1. 洋 書:

Ernest Hemingway, In Our Time (New York: Scribners, 1930), p.5.

著者,作品名(出版地:出版社,出版年),ページ数.

→ 作品名はイタリック体で表記しますが、手書き原稿やイタリック体表記のできないワープロを使用している場合には、作品名にアンダーラインを引きます。これ以降の例でイタリック体の指示がある場合も同様にします。


2. 和 書:

小此木啓吾『フロイト』(東京、講談社、1978年)、25頁。

著者『作品名』(出版地、出版社、出版年)、ページ数。

B. 論文集のなかの論文や作品集のなかの短篇の場合

1. 洋 書:

a. 同一著者の作品集・論文集
Ernest Hemingway, "Indian Camp," In Our Time (New York: Scribners,
1930), pp.1-9.

著者, " 作品名," 収録書名(出版地:出版社,出版年),ページ数.

b. 複数の著者の作品・論文を編集・収録した書物
William Adair, "Landscapes of the Mind: 'Big Two Hearted River,'" Michael S. Raynolds, ed., Critical Essays on Ernest Hemingway's In Our Time (Boston: G.K.Hall, 1983), p. 267.

著者, " 作品名," 編者名,ed.,収録書名(出版地:出版社,
出版年),ページ数.
(収録書名のなかに、さらに単行本のタイトルが含まれるときにはその部分をローマン体に戻す。)


2. 和 書:

a. 同一著者の作品集・論文集
ラルフ・ウォルドー・エマソン「自己信頼」、『エマソン論文集』上巻 酒本雅之訳(東京、岩波文庫、1972年)、 189 頁。

著者「作品名」、『収録書名』(出版地、出版社、出版年)、ページ数。
   →訳者名はタイトルの後に表記。

c. 複数の著者の作品・論文を編集・収録した書物
ジョン・ゴールディング「キュビスム」、ニコス・スタンゴス編『20世紀美術 --- フォービスムからコンセプチュアルアートまで』室木範義訳(東京、パルコ出版、1985年)、244頁。

著者「論文名」、編者名編『収録書名』(出版地、出版社、出版年)、ページ数。
     → 和書のサブタイトルは本題の後にダッシュを付けて表記。

C. 雑誌に掲載された論文・記事の場合

1. 洋 書:

Clinton S. Burhans, Jr., "The Complex Unity of In Our Time," Modern Fiction Studies, XIV(1968): 313-328.

著者, " 論文名," 雑誌名,巻号(発行年):ページ数.

 → 雑誌論文の場合には、"pp.313-328"とは書かずに、"313-328" と書く。


2. 和 書:

篠目清美「ヘミングウェイよ、さらば−−フェミナンな立場から見ると」、『ユリイカ』 第21巻第10号(1989年)、151-159 。

著者名「論文名」、『雑誌名』巻号(発行年)ページ数。


II. 参考文献リストの書き方

 参考文献リストはレポートを書くために参照したものをすべて列挙します。直接引用したものだけではなく、間接的に参照したものもすべて含めます。
 これはひとつには研究者としての良心の問題です。どのような文献のおかげで自分のレポートが成り立っているのかを明らかにするべきです。
 同時に参考文献リストは、そのレポートがどの程度の内容の文献を踏まえたうえで書かれたのかを示す、信用の証明にもなります。
 また参考文献リストは他の研究者に文献についての情報を提供するという意味ももちます。(教官自身、学生の書いたレポートや卒論の参考文献リストによって、それまで知らなかった文献や訳本の存在を教えられることがしばしばあります。)
 このように参考文献リストは文献情報の検索という目的を持っているので、注釈とは若干異なる書式が用いられます。
 1. 第1次資料(作品)と第2次資料(作品に関する批評などの参考文献)に分ける。
 2. 洋書に関しては著者名を「姓,名」というふうにひっくりかえして書く。
  例えば "Ernest Hemingway" は "Hemingway, Ernest."となる。
 3. 洋書は著者名アルファベット順、和書は著者名50音順に配列すること。
 4. 出版地:出版社,出版年をくくっていた丸括弧がとれる。
 小規模なレポートで文献を著者名アルファベット順に並べかえるのはあまり意味のある作業とは感じられないかもしれませんが、卒業論文なら十数冊、まともな研究書には数十冊から数百冊の文献がリストアップされます。そうした場合このようなフォーマットを使わなければ書物の検索が不可能になります。
 上記の1〜4のほかに細かい句読点の使い方の違いがあります。注の書き方の項で例にあげた書物をすべて参考文献のフォーマットに書き換えておきますから、違いを確認してください。



A. 単行本の場合

1. 洋 書:

Hemingway, Ernest. In Our Time. New York: Scribners, 1930.

姓,名.作品名.出版地:出版社,出版年.


2. 和 書:

小此木啓吾『フロイト』東京、講談社、1978年。

著者『作品名』出版地、出版社、出版年。

B. 論文集のなかの論文や作品集のなかの短篇の場合

1. 洋 書:

a. 同一著者の作品集・論文集

Hemingway, Ernest. "Indian Camp," In Our Time. New York: Scribners,1930.

姓,名." 作品名," 収録書名.出版地:出版社,出版年.

b. 複数の著者の作品・論文を収録した書物

Adair, William. "Landscapes of the Mind: 'The Big Two Hearted River.'" Critical Essays on Ernest Hemingway's In Our Time. Ed. Michael S. Raynolds. Boston: G.K.Hall, 1983.

姓,名. "作品名." 収録書名.Ed.編者名.出版地:出版社,出版年.


2. 和 書:

a. 同一著者の作品集・論文集

ラルフ・ウォルドー・エマソン「自己信頼」『エマソン論文集』上巻 酒本
雅之訳 東京、岩波文庫、1972年。

著者「作品名」、『収録書名』 出版地、出版社、出版年。


b. 複数の著者の作品・論文を収録した書物

ジョン・ゴールディング「キュビスム」、ニコス・スタンゴス編『20世紀美術−−フォービスムからコンセプチュアルアートまで』 室木範義訳 東京、パルコ出版、1985年。

著者「論文名」編者名『収録書名』出版地、出版社、出版年。


C. 雑誌に掲載された論文・記事の場合
1. 洋 書:
Burhans, Jr., Clinton S. "The Complex Unity of In Our Time." Modern Fiction Studies, XIV(1968), 313-328.

姓,名." 論文名."  雑誌名,巻号(発行年),ページ数.

2. 和 書:
篠目清美「ヘミングウェイよ、さらば−−フェミナンな立場から見ると」、『ユリイカ』(特集ヘミングウェイ)第21巻第10号(1989年)、151-159 。

著者名「論文名」、『雑誌名』巻号(発行年)、ページ数。





巻末の注・参考文献の例

1. Ernest Hemingway, In Our Time (New York: Scribners, 1930), p.5. 以後 In Our Time からの引用はすべてこの版を用い、ページ数のみを本文中に括弧内に表記する。
2. William Adair, "Landscapes of the Mind: 'Big Two Hearted River'" in Michael S. Raynolds, ed., Critical Essays on Ernest Hemingway's In Our Time (Boston,: G.K.Hall, 1983), p. 260.
3. ラルフ・ウォルドー・エマソン「自己信頼」、『エマソン論文集』上巻 酒本雅之訳(東京、岩波文庫、1972年), 189 頁。
4. 宮本陽一郎「アメリカ小説におけるキュビスム−−『われらの時代に』のエクリチュール」、『英語青年』第135 巻第3 号(1989):2-6 参照。ただしキュビスムの絵画とHemingway の文体を強引に関連付けようとする氏の議論は、かなり強引で説得力に乏しい。
5. 短篇と中間章のあいだのさまざまな関連については、1995年度筑波大学におけるアメリカ文学講読 I の参加者の発言によって啓発されるところが多かった。

参考文献リスト


第1次資料
Hemingway, Ernest. In Our Time. New York: Scribners, 1930.

第2次資料
Benson, Jackson J., ed. The Short Stories of Ernest Hemingway: Critical Essays . Durham: Duke University Press, 1975.
Burhans, Jr., Clinton S. "The Complex Unity of In Our Time." Modern Fiction Studies, XIV(1968),313-328.
DeFalco, Joseph. The Hero in Hemingway's Short Stories. Pittsburg: University of Pittsburg Press, 1963.
Fetterlely, Judith. The Resisting Reader: A Feminist Approach to American Fiction. Bloomington: Indiana University Press, 1981.
Flora, Joseph. Hemingway's Nick Adams . Baton Rouge: Loisiana University Press,1982.
Raynolds, Michael S., ed. Critical Essays on Ernest Hemingway's In Our Time. Boston: G.K.Hall, 1983.
ラルフ・ウォルドー・エマソン『エマソン論文集』上巻酒本雅之訳 東京、岩波文庫、1972年。
小此木啓吾『フロイト』人類の知的遺産第56巻。東京、講談社、1978年。
加藤秀俊編『多様の中の統 ---- 地域と人種』講座アメリカの文化第4巻 東京、南雲堂、1970年。
亀井俊介『アメリカン・ヒーロー−−広大な国の素朴な夢』ジャルパックアカデミー教養講座シリ<%:!!El5~!"%8%c%k%Q%C%/%;%s%?!篠目清美「ヘミングウェイよ、さらば−−フェミナンな立場から見ると」、『ユリイカ』第21巻第10号(1989年)、151-159 。
ニコス・スタンゴス編『20世紀美術−−フォービスムからコンセプチュアルアートまで』室木範義訳 東京、パルコ出版、1985年。
セオドア・バーダック「ヘミングウェイの女性像」、橋本福夫編『現代作家論 アーネスト・ヘミングウェイ』 東京、早川書房、1980年。
宮本陽一郎「アメリカ小説におけるキュビスム−−『われらの時代に』のエクリチュール」『英語青年』第135 巻第3 号(1989) 、 2-6。