きょうの社説 2009年11月27日

◎福井延伸見送り 悲観せずに必要性主張を
 前原誠司国土交通相が、北陸新幹線金沢−福井などの新規着工費用を来年度当初予算に 計上せず、整備方針を考え直す意向を示した。昨年末、前政権が今年中の着工を検討する考えを打ち出し、沿線自治体などの期待が高まっていただけに、この方向転換は残念ではあるが、政権が交代した以上、致し方ない。

 既に開業時期が約5年後に迫っている長野−金沢とは違って、未着工区間については、 仕切り直しをする時間的な余裕があるのも確かである。たとえ、工事のスタートが少し遅れたとしても、着工さえ決まれば、開業までにロスを取り戻すことも決して不可能ではあるまい。前原国交相は、未着工区間の着工の可否を決めるに当たっては、沿線自治体と話し合う姿勢をみせている。あまり悲観的に受け止めず、金沢−福井の投資効果などをあらためて強く主張していきたい。

 国の懐具合が厳しいことを考えれば、今後の議論では、未着工区間の扱いや財源だけで なく、区間別の優先順位付けの是非がポイントとなる可能性も十分にある。北海道や九州・長崎に遅れを取らないように、北陸の首長や国会議員らはスクラムを組み直してもらいたい。

 北陸新幹線をめぐっては、先に解消すべき大きな課題が残っていることも忘れてはなら ない。泉田裕彦新潟県知事が、持論を通すために前原国交相に「造反」している問題である。同県は建設費の地元負担金の支払いを拒否するなど態度を硬化させており、このままでは2014年度の金沢開業に影響が及びかねない状況である。この「新潟問題」が打開できなければ、金沢―福井の新規着工論議にも暗い影を落とす恐れがある。

 北陸新幹線建設促進同盟会長の石井隆一富山県知事は、「新潟問題」の解決の糸口を見 いだすために、新潟と石川、富山、長野の4県知事によるトップ会議の開催を呼び掛けている。国との対立が長引き、いささか熱くなり過ぎているような印象を受ける泉田知事と前原国交相の間で、他の3知事が仲介役を務め、着地点を探る努力を重ねてほしい。

◎学力テスト縮小 目的を矮小化する愚
 政府の行政刷新会議による事業仕分けで、全員参加型の学力テストを抽出方式に縮小す る方向性が示されたことに失望を禁じ得ない。「学力を知るだけなら、抽出率を下げてもいい」という仕分け人の指摘は、知ってか知らずか、前提が間違っている。学力テストは、おおまかな傾向をつかむためだけに実施するのではない。テストの結果を詳細に分析し、授業の進め方や指導法の改善など、学力向上に生かすために行うのである。

 抽出方式では、国全体の傾向は理解できても、全国平均と比べて、市町村や学校ごとの 位置がどのレベルなのか、どのような分野が弱いのか、などの詳しい状況が把握できない。目的を矮小化して予算の削減を正当化し、ようやく根付き始めた学力向上の取り組みに水を差す愚を犯してほしくない。

 ゆとり教育などの影響で、子どもたちの学力低下が不安視されている。全国一斉に行う テストが実施されたことで、地域の問題点が浮き彫りになり、対策に取り組む動機付けになった。この点は高く評価されてもよいのではないか。

 教育界は、競争や評価を過剰なほど嫌がる傾向がある。学力テストについても「競争の 激化」や「学校の序列化」につながるといった批判があった。だが、それらの主張は、子どもたちの身を案じてというより、自分たちの都合だったように思える。学力テストのデータは、指導の成果を見るモノサシとして有用であると同時に、学校や地域ごとに突き付けられる教える側の「成績表」でもあったからだ。抽出方式への移行を一番喜んでいるのは、指導力に自信のない先生たちではないのか。

 実際、過去3回の実施で、テスト結果が学校間の競争激化をもたらしたり、序列化を促 したりした具体例はほとんどなかった。むしろ最下位水準だった大阪府が学力向上プランに取り組み、小学校の成績を前年の全国41位から33位にまで引き上げるなど、各自治体の自主的な努力を引き出した意味は大きい。成績上位の県や地域に学び、全体の底上げを図ることの重要性を改めて指摘しておきたい。