2009-11-27
「八木アンテナ」から事業仕分けを考える
1925年、大正14年、八木秀次博士が八木アンテナを発明した。
短波ラジオさえなかった時代、超短波、いわゆるマイクロ波に果敢に挑んだものだった。
「導波現象」に着目し、「指向性アンテナ」を開発したのだ。
八木博士はこれを国内の電気学会に発表したが、ほとんど反響と呼べるものは無かった。
しかし、この研究開発をニューヨークの学会で発表したところ、極めて高い評価を受ける。
日本では無理解の故にその価値を理解できなかったものが、世界では「夢の超短波時代」を告げる福音として受け止められたのだった。
その後世界各国で八木理論を基にレーダー開発が急ピッチで進むことになる。
一方の日本では「敵に向かって電波を発信するなど、闇夜で明かりを照らすようなものだ」として見向きもされなかった。
そして昭和16年、すなわち1941年、まさに太平洋戦争勃発のその年に八木アンテナの特許延長申請を却下してしまうのである。
「重要な発明とは認められない」という理由で。
1942年、シンガポールを攻略した日本軍部隊はイギリス軍のレーダー装置を手に入れる。
そこで「ニューマン・ノート」と呼ばれるものを入手する。
これを解析しようとして技術者達が目にする単語が「YAGI」
捕虜を尋問し、この言葉の意味を問いただしたところ、返ってくる言葉は「お前知らないのか?」だった。
笑えない話である。
このしっぺ返しは早くもミッドウェー海戦に現れる。(というと語弊もあるのだが)
多くの運と錯誤の結果であったミッドウェー海戦ではあったが、アメリカ軍は早くもドーントレス爆撃機にこの八木アンテナを基本思想としたレーダーを装備していたのである。
戦後、超短波テレビ放送の普及とともに八木アンテナは広く世界中に広がり、アナログ放送を支える重要な技術となるのである。
アナログマの頭にも生えている。
もちろん、レーダーといってもいくつもの用途別の種類があり、八木アンテナを真剣に検討し、採用していたからといって、戦争が長引くことがあれど、勝利するなどといったことは無かったでしょう。それはいくらなんでも過大評価し過ぎです。
しかし、一方でバトルオブブリテンにおいて、八木アンテナを応用した早期警戒レーダー網を整備したイギリスは離陸直後からドイツ軍の侵攻方面や規模を割り出すなど、一定の成果も挙げています。(もちろん暗号解読やスパイの活躍もあります。イギリス軍はバトルオブブリテン後期には戦闘序列まで解明していたと言われます)
同じ負けるにしても、無用な犠牲を避けることはある程度できた可能性はあります。
後に敵国に広く八木アンテナが使われていたことを知った日本では八木博士を大学から追い出すなど、的外れな憂さ晴らしさえしています。
特許延長申請却下には、当時として妥当な判断だった、とする見解もあり、それは必ずしも責められるものではないかもしれません。
しかし、政府が少なからず援助を行い、その利用法を検討したとしたら、後の台湾沖航空戦のような途方も無い馬鹿な消耗とその後の沖縄戦における航空作戦は異なった展開をした可能性もありますし、マリアナ沖航空戦もしかり、でしょう。
ウヨウヨっと湧くのもアレなので、念のため書いておきますが、「だから戦争に負けた」とか「軍の無理解が」というつもりはありません。また、八木アンテナ万能論のようなオカルト判断をするつもりもありません。
「理解できない」「知識もない」、つまり「判断するに足る資質がない」人が判断した結果、重要な技術を評価し得なかった、とも言うことです。
特許延長申請を最終的に却下したのは八木博士の後身にあたる人物だったとも言われていることもあるので、当時の日本の専門家でさえも、評価をし得なかった技術である、ということは踏まえた上で、それでも「世界で何故それだけ評価され、開発が進められているのか」という外部情報さえも収集しなかったのは、やはり判断の甘さがあったと言えるかもしれません。
逆に、マンハッタン計画は、その軍事的意味合い以上に、その技術がもつ政治的意味合いをも見据えた上での国家プロジェクトでした。
当時、核兵器の研究はアメリカだけではなく、ドイツや日本でも進められていました。
日本は「今次大戦にどこの国も開発できないだろう」という理由や(そして財政上の都合もあるでしょう)により諦めますが、終戦間際に地道を挙げるのが殺人光線(いわゆる未だ実用化の途上にあるレーザー兵器)だったりするあたりが、皮肉を通り越して喜劇ですらありました。
さて、昨今の事業仕分けの科学技術の「費用対効果が見えない」「需要が見込めない」といった理由を「判断する資格がない」人間が判断していくことは、妥当と言えるのでしょうか。
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