社説
診療報酬/勤務医への配慮が不可欠
患者や公的保険が医療機関に支払う診療報酬の2010年度改定をめぐり、引き上げ、引き下げで省庁間の意見が分かれている。政権交代後の初の改定である。医療再生の第一歩という気構えで、既得権益にとらわれない議論を望みたい。 診療報酬の全体的な底上げを目指す長妻昭厚生労働相に対し、財務省側は「民間の給与カットが進む中、国民の理解が得られない」と、引き下げの方向で予算編成に臨む意向だ。
今回の改定の焦点は、病院勤務医と開業医の待遇是正だ。開業医の年収は約2500万円で勤務医の1.7倍。勤務時間では勤務医がはるかに多い。医師の過重負担が診療科の休診に直結していることを思えば、まず両者に対する報酬の配分見直しを優先して考えるべきだろう。 民主党は「前政権でのマイナス改定が、地域医療の崩壊に拍車を掛けた」としてきた。しかし、医師不足や診療科の偏在が進んだ背景には、そうした引き下げ基調の中でも、開業医重視の報酬体系が続いたことが原因の一つにあるのではないか。
08年度の改定でも勤務医対策が課題となったが、是正は進んでいない。長妻厚労相が先月、報酬を差配する諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)のメンバーから日本医師会推薦の3委員を外したのも、開業医側の影響力を排す意図だった。 財務省が示した医療予算の指針は「開業医と勤務医の報酬の公平化」「収入の高い診療科の報酬見直し」の基本線を掲げた。具体的には、診療報酬の本体部分(医師の人件費分など)の伸びをゼロ以下に抑え、さらに薬価部分を引き下げ、全体として3%程度削減する。捻出(ねんしゅつ)した分の一部財源は勤務医対策に充てる。実現すれば約1兆円の医療費削減になるという。
診療報酬は今回、行政刷新会議による事業仕分けの対象にもなった。仕分け人の作業グループは「小児科や産科など医師不足の診療科に報酬を重点配分すべきだ」と判定した。閉鎖的な場で決められていた診療報酬の実態が、国民にオープンにされ、問題点が明らかになった意味は小さくない。 最終的には、中医協が診療行為の単価や再診料の金額など細部を決めることになる。委員からは事業仕分けへの反発の声が強いが、医療は一部の専門家だけのものではないという認識を中医協も持つべきではないか。
新型インフルエンザ対策などで奮闘する医師たちの苦労は多とするとして、ここは開業医の再診料引き下げなどの議論にも真剣に踏み込む必要がある。 「報酬の本体部分を手厚くしたい」と長妻厚労相が引き上げにこだわるのは、引き下げなら診療内容の低下につながる懸念があるからだ。逆に引き上げは患者の負担増や保険料のアップを強いる。難しい駆け引きが続くことになる。
肝心なことは、国民が安心して医療を受けられる環境を整えることにある。本当に必要とされている地域の医療機関、診療科に適正に行きわたる診療報酬のあり方を論議してほしい。
2009年11月27日金曜日
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