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朗報! 木造建築の「伝統構法」復活に光明

江原幸壱2009/11/25
 京都や奈良を巡って社寺の美しさや観光地で伝統木造の迫力に感動を覚える人は多いだろう。しかし、それらと同様の伝統構法で木造建築を建てることができないことをご存じの人は少ないのではないだろうか。特に2007年6月20日の改正建築基準法の施行以降は石場建ての伝統構法の確認申請が認められるケースはほとんど皆無になってしまった。「改正建築基準法が日本の破壊を招く」(JANJAN2007/09/04掲載)で警鐘を鳴らした通りのことが次々に起きている。

 一般的に伝統構法(伝統的構法)とは昔ながらの継手・仕口による木組みの工法のことを指すが、中部以西では石場建てが本当の伝統構法という人が多い。石場建てとは、礎石(玉石)の上に柱を直に立てる方法である。本来は柱と礎石はアンカーボルトなどの金物で止め付けない。

 2000年の建築基準法の改正では、仕様規定から性能規定に移行し、構造については構造計算で地震や台風に対する安全性を証明すれば確認申請が下りることになった。これによって、基礎をコンクリート造とする前提で、石場建ての伝統構法木造を限界耐力計算で構造計算することによって建てられるようになった。

 しかし、2007年の改正建築基準法の施行で確認申請の審査と検査の厳格化が打ち出され、かつ木造2階建てでも限界耐力計算を行う場合は適合性判定という二重の審査を受けることになってしまった。この審査を受けるためには構造計算に多額な費用がかかること、期間が大幅に延長すること、さらに審査できる検査機関が限定されることなどの理由でほとんどできなくなってしまった。国交省ではこのようなケースは想定外であったとしているが、このことは、国としては戦後一貫して伝統構法木造をないがしろにしてきたことをよく表している。

 それとは別の問題として、柱を基礎に緊結しなければならないかどうかという問題がある。昔の伝統木造は土台及び柱を基礎に緊結していなかった。大地震のときには、柱を基礎に固定しないことでかえって倒壊を免れた建物が多く存在する。柱を固定する方が耐震的かどうかはまだ結論はでていない。しかし、柱を固定しないことで、柱が礎石の上を滑るかはねるなどして、建物に伝わる地震力を減衰されることは事実である。
 今まではこの滑るという現象を構造計算上扱えないので、考えないことにしていた。建築基準法では柱を金物で固定することを義務づけている。

 2007年以降いよいよ伝統構法木造が建てられない状態が続いているため、国交省は「伝統的構法の設計法作成及び性能検証の事業」という3カ年事業を始めた。ところがこの委員会では、東大出身者を中心とした構造研究者主導で進められ、関西の構造研究者及び実務者(大工・建築士)が求める「足下フリー(柱を基礎に緊結しない方法)の石場建て伝統構法」の設計法の開発は基本的に着手しない方針が示された。

 検討委員会委員長にいたっては、伝統構法木造住宅の構造について討議するシンポジウム(「第13回木の建築フォラム/東京」10月10日開催)において、「(2つの隣り合う木造住宅が)建築基準法をクリアしたとして建築基準法が想定する以上の地震があった場合、隣の家(在来工法)は倒壊しないが、お宅の家(伝統構法)は基準法ぎりぎりなので倒壊しかねない。死ぬかも知れないと施主に説明する責任がある」という発言をしていた。

 同委員長は伝統木造が好きだが、耐震性は劣っていると心底信じている。筆者の恩師でもあるので、伝統木造に造詣が深いこと、長年木造の研究者として地震被害の調査に誰よりも多く携わってきたことを知っているが、伝統構法の検証とこれからの展開のために全国から実務者が集まっている場で、過去の事象(現在と違い大地震に要求される耐震性能を考慮して建てられたのではない伝統木造の被害)のみに囚われた発言はいかがであろうか。

 この発言の後に10月27日にE-ディフェンス(独立行政法人防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センター)で行われた3階建て木造住宅の倒壊実験では、長期優良住宅仕様の3階建て木造住宅が、柱の接合部が弱い3階建て木造住宅より先に倒壊した。この実験結果は、構造計算が万能であると信奉している構造研究者の間では大変ショックな出来事であったが、検討委員会委員長の「長期優良住宅の3階建て木造住宅」についての発言を是非聞いてみたいところである。
(※倒壊実験の試験体は、一つは長期優良住宅仕様:耐震等級2(通常基準の1.25倍以上)を備える3階建て木造住宅で、もう一つは柱の接合部が弱く、接合部以外は同仕様の3階建て木造住宅である。)

 以上のような背景があり、今月19日に参議院国土交通委員会で質疑に立った西田実仁議員(公明党)の伝統構法をめぐる討議は、日本の建築史の記録に残る歴史的出来事であった。

 西田議員は冒頭で、国産材を使った伝統構法は、林業の活性化、地場産業の振興、地域文化の育成、環境優位性、観光資源と、どれをとっても地域発の日本の再生を成し遂げるポテンシャリティを持った構法であると、伝統構法についての認識を語った。
 これについては、京都出身の前原大臣も奈良出身の馬淵副大臣も賛同し、西田議員のこれまでの取り組みに敬意を表した。

 続いて西田議員は、伝統構法が日本で建築基準法上も建築行政上もないがしろにされてきた事実を突いた。そして、次の国会で討議される建築基準法の見直しにおいては、伝統構法を建築基準法の中でしっかり位置づけるように求めた。
 これについては前原大臣も重要なポイントであるという認識を示した。

 さらに、伝統構法の木造住宅が2007年の建築基準法の改正以降建てられなくなった事実について馬淵副大臣に問いただした。その理由は前に触れた通りである。
 馬淵副大臣も実務者からの聞き取りでその事実を十分把握していた。

 そして現在行われている国交省の3カ年事業「伝統的構法の設計法作成及び性能検証の事業」について、西田議員は会議を傍聴した上で、かなり深く踏み込んで質問した。来年度の事業では予定されていない、「足下フリー(柱を基礎に緊結しない方法)」の石場建て伝統構法の実大振動台実験をやるかどうかを馬淵副大臣に迫った。

 馬淵副大臣は足下フリーの石場建て伝統構法の検証は大変重要であり、そのためにこの事業を行っている認識でいることを示した。さらに質問にはなかったが、馬淵副大臣自らが、検討委員会のメンバー構成に問題があるという認識を示した。特に10月10日の「木の建築フォラム/東京」のシンポジウムにおける検討委員会委員長の前述の発言を復唱して、「このような委員会は中立的な立場で学術的に検証されなければならない」と不満を漏らした。
 西田議員も同様の認識を示し、メンバーの改変を含めて公正な方法で実証実験を行うよう求めた。

 さらに、馬淵副大臣は、関東と関西で作られた2つのマニュアルについて言及し、「かつての震災の経験をふまえて、人命を失うような脆性破壊を起こすようなことは避けなければならない。真摯な検証が学術的に必要だと認識している」と建設会社出身者としての一面も見せていた。

 西田委員は、技能を持った大工の正当な評価のため、技能を保証する「建築大工技能士」を建築基準法の中に位置づけるように求めた。
 これに対し、馬淵副大臣は、建築士制度の改正で混乱を招いた反省から、認定制度の運用の見直しを含めて検討していく姿勢を示した。

 伝統構法には職人の技術と技能が必要であり、それが正しく評価され、それに見合った報酬を受け取るべきであり、筆者はドイツのようなマイスター制度に発展することを期待している。

 以上の国会での答弁はかつてないものであり、伝統構法に地道に取り組んできた職人や建築士にとってこれほど明るい話題はない。日本の美しい風景を創り出し、豊かな職人文化を育む伝統構法の発展に期待する。


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・関東のマニュアル:『木造軸組工法住宅の限界耐力計算による設計の手引き』 日本住宅・木材技術センター刊
・関西のマニュアル:『伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル』 学芸出版社刊

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