政府は22日、平成22年度予算の概算要求の無駄を削る行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)の事業仕分け作業で、「廃止」などの判定が相次いだ科学関連予算について、「予算復活」を認める方針を固めた。世論の強い批判に配慮した。菅直人副総理・国家戦略担当相(科学技術担当相)は同日のNHK番組で、仕分け作業で事実上「凍結」となった次世代スーパーコンピューターの開発事業費(267億円)も「当然、見直すことになる」と述べており、スパコンは予算復活の第1号になりそうだ。
菅氏は番組で「(仕分け作業は)政策判断をしているわけではない。(判定結果は)全部もう1回、政治のプロセスにかける」と語り、年末の予算編成過程で仕分け作業の上部組織である刷新会議で最終的な判断を下す方針を示した。
22年度も税収の低迷が避けられないことから、政府は高速道路無料化や子ども手当創設など、民主党の衆院選マニフェスト(政権公約)関連予算も見直す方針だ。だが、科学関連で仕分け結果を覆して予算復活を認めれば、各省庁からも「復活折衝」の声が強まり、政治判断を迫られるケースが増えそうだ。
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■第2Rも“難物”ズラリ
次世代スーパーコンピューターに代表される先端科学予算の「事業仕分け」判定が見直される根底には、国民生活や国の行く末を左右する国家予算を、法的根拠や結果責任があいまいな「仕分け人」が、たった1時間の議論で結論を出すことへの疑問がある。
仕分け人側もすでに自らの作業の「本当の難しさ」に気付いているようだ。
「予算編成のところですら、単純に結論を出せる性質のものじゃない。もちろん議論を制約するつもりはないが…」。17日、高速増殖炉サイクルの研究開発費が取り上げられた際、統括役の民主党の枝野幸男元政調会長は他の仕分け人にクギを刺した。
≪「軽い言葉独り歩き」≫
約1時間後、9人の仕分け人が出した“評決”は「予算計上見送り」が2人、「予算縮減」が7人。ただ結論は「事業の見直し」とぼかされた。枝野氏は議論後「ある意味、特殊なケース」「仕分け自体がやりにくい」と漏らした。
スパコン予算でも議論と評決結果は食いちがった。12人の評決の最多は「予算計上見送り」の6人だったが、取りまとめ役の結論は「来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減」。関係者は最近、「後で復活できるような結論にした」と説明する。
枝野氏本人も22日のテレビ番組で「(スパコンの)経済効果がきちんと説明されていたら今の結論にはならなかった」と釈明した。
仕分け作業そのものにも、厳しい視線が集まり始めている。
文部科学省がホームページで募集した事業仕分けに関する意見には、4400通のメールが届き、スパコン関連予算の議論にも多数の批判が寄せられた。
スパコンの開発継続を求める声明を18日に出した計算基礎科学コンソーシアム幹事、梶野敏貴・国立天文台准教授(53)=理論天文学=は「国策としてのビジョンを示して進めてきた事業を、『2番でもいい』などと軽い言葉が独り歩きするような場で論じるべきではない」と語る。
さらに「仕分け結果には、研究室の若者もショックを受けていた。スパコンが凍結されれば世界最先端の研究から遠ざかり、次の世代が育たなくなるところだった」と、今回の政府の方針転換に安堵(あんど)の表情をみせた。
≪思わぬ世論の変化≫
事業仕分けは、概算要求で95兆円超にふくれあがった国家予算を、民間人も交えながら見直すことで「国民が予算に自らかかわる」(鳩山由紀夫首相)意識を生み出す効果がある。だが、思わぬ世論の変化を感じ取った政権サイドは、微妙に舵(かじ)を切り始めた。
鳩山首相は17日、記者団に「すぐに(効果が)見えないとバッサリいってもよいものかどうか、立ち止まって考える必要も出ている」と見直しを宣言した。
24日からの仕分け第2ラウンドでは、「在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)」や「義務教育費の国庫負担」など、長い経緯と重い背景を抱える対象がめじろ押しだ。第1ラウンドの反省から、荒っぽい口調は影を潜めそうだが、「廃止」も「予算復活」も、いずれも厳しい判断となることを鳩山政権は学んだ。仕分けで国益を考慮に入れた判断ができるか。覆す場合には説明責任を果たせるか。仕分け作業が背負った責任はさらに重くなりそうだ。(船津寛、鵜野光博)