熊本市の慈恵病院が設置した「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)の課題を議論してきた熊本県の検証会議(座長=柏女(かしわめ)霊峰(れいほう)淑徳大教授)は26日、最終報告書をまとめ、公表した。現在のゆりかごは妊娠や出産の相談業務が併せて実施され、「多くの子どもの生命をつなぐ施設」として設置意義を肯定的に評価。一方で、事前相談の体制を整えずに匿名で子どもを預かる新たな施設設置は「倫理観の劣化を招きかねず、子どもの福祉を守る観点から容認できない」とした。第三者機関のゆりかごの評価は初めて。
有識者でつくる検証会議はゆりかごの運用が始まった2007年5月から09年9月末までの約2年5カ月間を検証した。報告書によると、これまでに51人の子どもが預けられ、うち身元が分かったのは39人。内訳は熊本県を除く九州13人、関東11人、中部6人、近畿と中国各4人など、利用者は広範囲に及んでおり、熊本県内からの預け入れはなかった。
ゆりかごが匿名で子どもを預かる点については「預け入れる親の利益と、子どもの将来に不利益が生じる二面性を持っている」と指摘。その上で「ゆりかごの運用は相談業務とセットで行うことで、匿名性を排除する努力が必要」とした。
ゆりかごが明らかにした諸課題については「都道府県域を超えた広域的な問題」とし、国に法的な位置付けなど政策上の関与を求めた。さらに、ゆりかごのように母親が匿名で相談でき、母子の入院や一時的な保護機能を備えたシェルター(避難所)を医療機関を拠点に整備し、各都道府県に1カ所程度配置することを要望。各シェルターの連携の拠点として、情報共有の核となる国の組織の創設も訴えた。
答申を受けた蒲島郁夫知事は近く報告書を厚生労働省に提出し、国に提言する方針。
同日、熊本県庁で記者会見した柏女座長は「妊娠・出産や子育てが地域の中で孤立している。多くの人にゆりかごが問い掛ける問題を考えてほしい」と語った。
■検証会議最終報告の骨子
◇相談業務と一体的に運用される「ゆりかご」は(1)遺棄の防止(2)出産にまつわる緊急避難(3)周産期の親の精神的混乱により、子どもが犠牲になることを防ぐための一時保護-の3点で一定の機能を果たしている
◇単なる匿名で子どもを預けるものとして設置・運用されれば、社会の「倫理観の劣化」を招きかねない懸念があり、容認は難しい
=2009/11/27付 西日本新聞朝刊=