Kanon key/AVG/8800円/1999年6月04日発売)
◎はじめに

Kanonパッケージ エロゲ業界今年最高の話題作。まだ何のソフトも発売していないブランドのソフトに対して、ここまで注目された事がかつてあっただろうか? 鍵掲示板は人で溢れ、レスにレスを付けるという書き込み合戦の雨嵐。実に盛り上がったねえ。あの頃は業界も今程カオスしていなかったさ。
 そんなわけで、この『Kanon』は旧タクティクスのスタッフがkeyへと移籍して、制作した作品。
 とんでもなく売れたと推測できるので(ひとりで複数本買ったっていう話を相当聞いた)、これでビジュアルアーツもkeyもウハウハだろうね。でも、ネクストン社長はきっとハラワタ煮えたぎってる事だろうよ。自業自得だけど。
 初回特典版は、値段変わらずで作品中の12曲のアレンジ版が入っている音楽CD付き。でもって、これの出来がかなり良い。この業界、ヘボいおまけが多いけど(トレカ、極薄のマウスパッド、etc)、これは良いね、光ってる。
 私自身、旧タクティクスの『MOON.』や『ONE』を支持している人間のひとりなので、この作品にも、それなりの期待を膨らませ、発売日当日に買いに行ったんだとさ(笑)。
◎ストーリー紹介

 1999年、冬。両親の都合により、家を引っ越すことになった主人公は、その街に住む親戚の家に居候させてもらうことになった。その街は、かつて両親とともに何度か訪れたことのある街であり、思い出の姿そのままで主人公を迎えてくれた。
 そして、その街での新しい生活がはじまる。そんな中で出会う5人の少女達……。
◎キャラクター

 このゲームには普通のキャラクターはいないのか? 兎に角、個性的なキャラが多かった。別の云い方をすれば変という事なのだけど。主人公についても同じかな。でも、結構好感の持てるタイプ。それに見ていて面白い。
 なんというかまあ、キャラに癖がありすぎで、他のAVGにはない空気が流れてはいたね。が、決してそれが駄目というわけではなく、癖がありながらもこのキャラ達の作り出す世界は良いものだったと思う。良い意味で独創的。
 どう考えても、こんな奴等現実にはいないけど、プレイ中はそう思わせないというのは実に見事かと。他のゲームとかをプレイしていると、見ているだけで興醒めするようなキャラとかって結構いると思うんだけど、そういうのも一切ないし。
 キャラの描き方も良いしね。序盤の意味不明に見える動作なんかも、意外な複線になっていたりとかなかなか深い。
 が、『ONE』とか『MOON.』とかをプレイした方の場合は、やや不満を感じるかも知れない。なんとなく、それらの2作品のキャラを彷彿とさせる部分があったりしたのね。勿論、良く出来ている事には間違いないのだけど。
◎シナリオ

 『MOON.』とか『ONE』みたいに、シナリオで涙できる完成度。まあ、私は泣かなかったけど。
 練られているシナリオは非常に良く出来ていて、プレイしていて常に感心させられた。そして、感動もできた。普通の人なら、涙できるくらいの感動度はあるかと。
 基本的に、テキストの質が他の作品とは比べものにならない程良い。なんていうか、他にも似たような恋愛物のAVGって死ぬほどあると思うんだけど、どれもこれもテキストがイマサンなものが多いと思うのね。でも、この作品はやっぱ上手いのよ。読んでいて面白かったし、引き込ませるものもあったし、随所に盛り込まれたギャグなんかでも笑えた。細かいエピソード等の描写も、楽しくて好感がもてる。やっぱ人気集めるだけあるわ、ホント。改めて感じたというか。
 まあ、多少のダルさみたいなものはあったけど、それも後半への溜めと思えば納得できる。良くできているよ。序盤で複線を張って、そして後半でストーリーが面白く展開していくという一連の流れもGoodだし。エロゲの恋愛物に良くある強引さ等も殆どなく、実にナチュラルに流れていったと思う。それ故に長くなりすぎている部分もあるのだけど、まあ私的には許容範囲内かな。
 感動を求める人には、充分お勧めできるシナリオ。が、個人的感動度は『ONE』や『MOON.』の方が上だと云っておく。恐らく、この『Kanon』という作品は、上の2つの作品で感動したっていうユーザーの声に応えようとして作った作品だったのだと思う。いかにしてユーザーを感動させ涙させるか? みたいなライターの苦悩みたいなのをひしひしと感じてしまった。「ONE以上に感動させられる作品を創ってください」みたいな意見が一番多かったと思うしね。そして、私自身の購入理由もそれに近かったし。
 ぶっちゃけた話、『ONE』のデッドコピーになっちゃってる部分はあると。
◎システム

■必要環境■
OS:Windows95/98
CPU:Pentium75MHz以上(推奨166MHz以上)
メモリ:16MB以上(推奨48MB以上)
解像度:640*480,ハイカラー以上(推奨フルカラー以上)
HDD:250MB以上
CD-ROM:倍速以上(推奨4倍速以上)
サウンド:CD-DA
 とまあ、極普通の必要スペック。
 作品形式は、選択肢を選んで読み進めていくタイプのAVG。ってか、AVGというよりはビジュアルノベルに近い。文字が画面いっぱいに表示されないビジュアルノベルっていう感じ。
 システム的に厳しかったのは、キーボード未対応と、シナリオ回想機能がなかったという2点。後者は厳しいね。選択肢とかの重要場面で、少し前のテキストを読みたいというのは、絶対あると思うし。
 とまあ問題点はこれくらいで、後の事柄に関してはオールオッケ。セーブなんかも、チャッチャとできるし、ロードも同様。セーブ箇所も24箇所と充分に用意されている。
 まあゲームというよりは、もう読み物に近い。ある程度の難易度とかあれば、ゲーム性が高いっていうことになるんだろうけど『Kanon』簡単だしね。任意のキャラクターを追いかけていけば、ほぼ目的のエンディングに辿り着ける仕様。多分、操作性を向上していって、そして、余計なものを取り除いた結果が、こういうAVGの形式だと思うんだけど、個人的にはもっとゲーム性があってもいいでないかい? って思ったよ。
◎音楽

 折戸伸治氏、odiakes氏らによる22曲。オープニングとエンディングは、ボーカル付き。世間で評判良いのはオープニングの方だけど、私的にはエンディングの方が良い曲だと思ったよ。
 この辺は期待していた通りの完成度。ゲームデータで250MBも使ちゃってるのに、CD音源を採用する辺りも好感が持てるし。容量ギリギリで頑張ってるねえ。
 蛇足だけど、限定版についているアルバム。これ凄いよ。単体で2000円以上の価値は軽くある。これから買う方は、限定版を買うことを強くお勧め。オリジナルじゃなくって、アレンジしてあるというのがポイント高いよね。
◎ボイス

 なし。容量的に無いのは自明なのだけど、それでも「音声はないのですか?」と鍵掲示板に書いてる人が当時は多かったなあ。
◎絵とエロ

Kanon通常シーン フルカラーということで、相当なほどに奇麗。個人的に良いと思ったのは背景。夕暮れ時の街の絵とか、雪が積もった校舎とか、凄まじい程に綺麗。最近、実写取り込みによる背景の作品をプレイしていた事が多かったので、やはり手作りってのはいいなぁと改めて実感した次第。実写取り込みだと、どうしてもキャラクターの立ちCGと合わなくなっちゃうしね。それに、やっぱチャンと描いてあった方が、好感が持てるよ。
 で、原画は樋上いたるさん。『ONE』で一躍有名になった方。
 世間では、ロリ絵とか、買いづらい(一般受けしない)絵柄とか云われているけど、個人的には、好きだったりして。ってか、『同棲』、『MOON.』、『ONE』と、確実に一般受けする絵柄に進化していると思うよ。動きのある絵になると、途端にヘタクソになるんだけどね(笑)。躍動感のある絵が描けない方というか。あと女性の絵に対して、野郎の絵柄もなんか変。野郎、描き慣れていないんかなあ?
 1枚絵のCG枚数は、多くもなく、少なくもなく……っていう感じ。まあ標準枚数だと思う。シナリオボリュームに対すると少なく感じるけど、まあ仕方のない所か。その分、立ち絵の表情のパターンが多いので、総合的に見れば充分に満足できるんじゃないかな。
Kanonエロシーン  で、エロ。やばい。これぞ正しくとってつけただけのHシーン。反吐がでるね。
 「18禁で出した方が売れる」っていう下世話な下心が見えすぎ。まあ、一般で出すほど冒険ができるって立場でもないんだろうけど。
 コンシューマへ移植するとしたら、相当楽だろうなあ。←移植されたね。それも2機種。
 エロCG枚数も少なく、そしてテキストも相当少ない。Hシーンに関しては、展開の持ってゆき方もなんか強引。
 う〜ん、なんでここまでHじゃないのだろうか。『MOON.』では、かなりのパフォーマンスを見せていたのに。できないってわけじゃないだろうに。「実際にはできる」→「でも、できていなかった」→「実際にはできるのにできていなかった」→「つまりは、わざとしなかった」。
 そう考えると――至極、残念。
◎総評

 感動できるのは間違いない。普通の涙腺をもっていれば、多分泣けると思う。良作ゲームをプレイした後に感じる余韻っていうのもあったしね。でも、Hシーンの希薄さが……シナリオも垂れる部分あるし……と、課題が残った事も確か。
 やっぱり、エロゲとして売り出している以上は、それなりにHじゃないと。「騙された!!」って思うユーザーもいると思うし。
 勿論、それを通り越しての面白さっていうのはあるよ。この辺が難しくもあり、悔しくもあり。何が悔しいって、エロが希薄なのに認めなければいけないという点。
 まあ、『ONE』の後やからね。この作品に関してのスタッフのプレッシャーは、相当なものだったんだと思う。その中で、これだけの作品を作ったという事に関しては評価したい。いろいろとゴタゴタもあったろうし。
 課題は色々と残ったけど、それをバネにして次頑張ってね。
 想像していたのよりも面白かったよ。
1999年6月11日 記
2002年2月24日 修正

home