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非接触ICカード「FeliCa」の開発

第3回:「改札機」と「入退出」,両面作戦に挑む(上)

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日経エレクトロニクスPremium
2009/11/24 00:00
浅川 直輝
出典:日経エレクトロニクス,2007年6月4日号 ,pp.115-117 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)
ソニーが1989年に鉄道総合技術研究所に納入した,非接触ICカードの試作品。(写真:中村宏)

 1989年春,ソニーは無線でデータを書き込めるICカードを鉄道総研に納入した。試作機を受け取った鉄道総研は,非接触ICカードの運用実験を始める。伊賀と日下部は,今までにない手応えを感じていた。先方の要求に沿ったICカードの開発に何とか成功し,実用化に向けた実験にまでこぎ着けた。この技術をJRグループが自動改札機に採用すれば,間違いなく爆発的に普及する。

 1990年1月には,一足先に入退出管理システムが実用化された。最初にシステムを導入したのは,千葉市幕張にある東京ガスのビルである。折しも幕張地区は,オフィス・ビルの建設ラッシュ。ソニーが入退出管理システムを開発したことを知り,多くのビル管理会社が採用を申し出た。
 
 入退出管理システムが現実のオフィスに入ったことは,伊賀らにとって極めて大きな一歩だった。長年の苦労が実ったことはもちろん,2.4GHz帯の電波を用いたシステムが実用に堪える,何よりの証拠になった。不安視していた電波の干渉や人体による遮蔽は,ひとまず回避できた。駅の改札で使える水準になるのも,あとは時間の問題だろう。

今後10年は採用されない

 「ち,ちょっと伊賀さん! この新聞記事,見てくださいよ!」

 鉄道総研との共同開発スタートから1年半が経過した1990年5月のこと。開発チームの一人がすっとんきょうな声をあげて部屋に飛び込んできた。

 「落ち着け,落ち着け。何があったんだ」

 伊賀は新聞を取り上げ,目で記事をなぞった。

 血の気が引いた。

 「JR東日本,プリペイド式磁気カード“イオカード”を導入──」

 それは,伊賀にとって開発中止の宣告に等しかった。鉄道総研が手掛けていた非接触ICカード・システムは,まさしくプリペイド式の乗車券として実用化するはずだったからである。  =敬称略

―― 次回へ続く ――

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