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非接触ICカード「FeliCa」の開発

第2回:日本を席巻した非接触ICカード,開発のきっかけは「宅配便」(下)

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日経エレクトロニクスPremium
2009/11/19 00:00
浅川 直輝
出典:日経エレクトロニクス,2007年5月21日号 ,pp.103-104 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 その記事が紹介していたのは, JRの研究機関である鉄道総合技術研究所が開発していた新型の自動改札機だった。カード状の定期券を読み取り装置に近づけるだけで,改札の扉が自動的に開く。「この用途なら,カードの価格が多少高くても認めてくれるんじゃないか」。伊賀は,暗闇の中で一筋の光明を見た思いだった。

 偶然にも鉄道総研の会長には,ソニーの創立者である井深大が就任していた。伊賀は井深を通じて,ICカード開発の責任者を探し当てた。三木彬生。後にJR東日本が採用する「Suica」の開発責任者である。

JRグループの研究機関である鉄道総合技術研究所で,非接触ICカードの開発に携わった三木彬生氏。現在は,神奈川臨海鉄道 常務取締役を務める。(写真:中村 宏)

ひと目でほれてしまった

 ICチップの到着からひと月とたっていない1988年6月のこと。伊賀と日下部は,試作したばかりのICカードとカード・リーダーを携えて三木の元を訪れた。伊賀は三木の温和な顔に,時折厳しい表情がちらつくのを見逃さなかった。実はこの時,三木はICカード開発の委託先を既に1社に絞っていたのである。本来なら,そこにソニーが入る余地はないはずだった。

 伊賀は,開発したICカードの仕組みの説明を始めた。「我々のICカードは,リーダーが発した電波を反射することで情報を送ります」。実際にICカードを手に取って見せる。それまで黙って説明を聞いていた三木の目が,驚きで見開かれた。

 三木が以前に委託開発先から受け取ったICカードは,厚さが1cmほどあった。カードというより「箱」に近い。鉄道総研の開発チームが「弁当箱」と呼んでいたほどだ。これに対し,伊賀が見せたICカードは,見事にクレジット・カードの大きさに収まっている。小型化できた秘訣は,反射波を変調する独自の技術にあるという。「この技術が持つ『美しさ』に,ひと目でほれ込んでしまった」。三木はそう回顧する。

 三木の決断は早かった。「ぜひ,このカードで新しい定期券を作ってください」。その場で伊賀に共同開発を申し入れた。

書き込みがないとダメ

 これで,安心して技術開発に打ち込める──。伊賀と同席していた日下部は,安堵で胸をなで下ろした。しかし喜んだのも束の間,三木の次の言葉が日下部の痛い所を突く。

 「ところで,我々に納入してもらう無線ICカードは,無線で書き込みもできるようにしてほしいんですが」

 日下部は息を詰まらせた。読み込みすらうまくいかない現状で,書き込み機能とは…。思わず口を挟んだ。

 「いや,ICカードに書き込み機能は必要無いですよ。ID番号さえ読み取ることができれば,あとはオンライン上のサーバーで処理できます」。

 三木は首を振った。

 「では,停電や故障でサーバーが止まったらどうしますか。社会インフラである鉄道は,簡単に止まることは許されません。改札の処理は改札機とICカードの間で完結させるのが望ましい。それには,ICカードに入出場の記録を書き込める機能が不可欠です」

 日下部は沈黙した。三木の主張は正論だ。反駁の余地はない。

 「分かりました。書き込み機能付きICカード,開発しましょう」。答えたのは伊賀だった。何とかなるさ,という伊賀らしい自信の笑みとともに。  =敬称略

―― 次回へ続く ――

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