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【暮らし】出産費用の健保直接支払い 導入を猶予、妊婦に混乱2009年11月26日 出産費用を健康保険組合などが医療機関に直接支払う「出産育児一時金の直接支払制度」=イラスト参照=が十月から始まった。妊産婦の出産時の金銭負担を減らす緊急の少子化対策だが、入金が二カ月以上遅くなる医療機関が反発。国は実施直前、医療機関に半年間の導入猶予を認めたため、急きょ出産費用の工面に追われる妊産婦が続出する事態になっている。(安食美智子) 従来は、妊産婦が医療機関でいったん出産費用を全額支払ったうえで、加入する公的医療保険に一時金を請求し、後払いされる仕組み。一方、今回、導入された制度では、妊産婦の申請で一時金が公的医療保険から直接、医療機関に支払われる。 出産時に多額の費用を用意しなくて済む妊産婦の利点が大きい半面、医療機関の負担は大きい。医療機関は一時金を公的医療保険に直接請求するが、振り込まれるのは二〜三カ月後。資金繰りが苦しくなる医療機関から反発を受け、厚生労働省は九月末、半年間の実施猶予を認めた。 あおりを受けた妊産婦も続出した。横浜市の自営業、沢田靖さん(32)の妻・由香さん(33)=ともに仮名=は今月十五日、次男を出産。制度を利用するつもりでいた出産前の十月初旬、突然病院から「利用できない」と告げられた。出産費用の貸付制度がある公的医療保険もあるが、夫婦が入る国民健康保険にその制度はない。社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度が利用できることを知り、出産六日前、やっと費用を工面できた。 「出産間近まで費用を用意できず、生まれる赤ちゃんに申し訳なかった。眠れない夜が続いた」と由香さん。夫婦は「突然猶予を認めたのが納得できない」と憤る。 先月二十二日に出産した東京都杉並区の主婦、木下奈々さん(35)=同=も出産間際に制度を利用できないと知り、病院や公的医療保険に何度も頼み込んだ。「政府が決めたことなので」と繰り返すだけの対応に、木下さんは「臨月なのに不安でいっぱいだった」と振り返る。結局現金を用意できず、クレジットカードで支払った。 ◇ 「出産一時金の給付の迅速化を実現してから、分べん施設に一方的な負担を強いない制度を導入するべきなのに、拙速に始めた」と批判する赤川クリニック(東京都杉並区)の赤川元院長は、九月末に早々と制度を導入しないことを決めた。入金が遅れ、経営が難しくなることが明らかだったからだ。 都内で産婦人科がある二百の医療機関のうち、百一が病床数十九床以下の診療所だ。都産婦人科医会の町田利正会長は「制度を始めた所は今が最も苦しい時。猶予措置にほっとしているが、依然不安は消えない」。半年間導入が先送りされただけで、来年四月から導入する医療機関にも収入が大幅に減る「二カ月」が待ちかまえる。 赤川院長は「お産の現場に大きな負担を強いる制度が本当の子育て支援策か。制度導入で廃業せざるを得ない診療所もある」と懸念する。 厚労省が、“二カ月間のつなぎ資金”として、医療機関に利用を呼びかける福祉医療機構の融資制度は、申請件数に占める実際の交付件数の割合が19%と低く、産婦人科診療所には使いにくい。融資を断られた都内の医師は「担保に認められるのは不動産と保険診療報酬。病気でない出産を扱う診療所は保険収入がほとんどない。担保にする不動産もなく、融資は絵に描いたもち」と切り捨てる。 一方、妊産婦への公的医療保険の貸付制度は、健康保険組合連合会加盟の千四百八十四組合のうち、八百八十二組合(59・4%)で実施している。利用を考える人は、制度があるか健保組合への確認が必要だ。
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