大阪空港に着陸するコース周辺をヘリコプターで飛んでみると、色とりどりの無数の街明かりがあふれんばかりに光を放っていた=大阪市、本社ヘリから、小玉重隆撮影
絵・グレゴリ青山
推理作家 有栖川有栖さん
クリスマスまで1カ月。恋人たちと夜景の似合う季節だ。関西で夜景と言えば神戸が有名だが、大阪にだって名所は少なくない。天保山、梅田スカイビル空中庭園、信貴生駒スカイライン……。だが、知る人ぞ知る究極の夜景がある。大阪空港へ着陸する飛行機から見た夜景だ。
「街中にある空港はあまりない。全国で大阪への着陸前が一番きれいではないか。特に冬場は空気が澄んで、より鮮明に見える」。そう話すのは、大阪空港を拠点に乗務する日本航空機長の三浦啓嗣さん(50)。夜景の愛好家でつくる「夜景倶楽部(くらぶ)」代表の縄手真人さん(35)も「光が多いと思われている東京は山がほとんどなく、平たい夜景になりがち。それに比べ、関西は山が近いので、夜景が立体的できれいに見える」と絶賛し、こう付け加えた。
「機内からは、わずかな時間しか見られないので刹那(せつな)的で印象に残りやすい」
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縄手さんによると、お薦めの時間帯は「トワイライトタイム」と呼ばれる、日没15分後からの20分間。空の色はロイヤルブルーやワインレッドになり、山や川も輪郭が浮き立ってより立体的にみえるという。
上空からカメラでとらえた風景をブログで紹介している大阪府泉南市の旅行会社員河村直樹さん(29)は羽田から大阪行きの飛行機に乗る際、「夜間フライトになるとわかっていれば左側席で夜景を狙う」と言い切る。全日空大阪空港支店によると、着陸前に特に目立ったものがない右側に比べ、左側は大阪城やキタ、ミナミの繁華街が目に入りやすい。さらに同じ左側でも機体前方が翼に視界を遮られることなくグッドらしい。
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11月上旬の日没時。記者は空撮をする本社ヘリに運良く乗せてもらい、「絶景ルート」の周辺を飛ぶことができた。大阪市城東区周辺の上空約500メートル。大阪空港に着陸するほとんどの便はこのルートを通る。ライトアップで曲線の輪郭が浮かび上がった橋、縦横いくつも並んだ窓から光を放つ高層ビル群、数珠つなぎに蛇行する車の光の列……。赤や青、金色など圧倒される光量を放つ夜景を一望でき、ぜいたくな気分に浸った。
今冬。偶然を装って日没直後の大阪着陸便の左前方席をペアで押さえ、着陸前、眼下の絶景を「はい、プレゼント」と恋人に見せるのはどうだろう。ひと昔前のトレンディードラマっぽくて赤面しそうだが、楽しめるのは着陸直前の数分だけ。恥ずかしがっていると、あっという間に終わってしまう。大阪空港の「廃止」も取りざたされており、トライするなら今のうちかも知れない。(稲垣大志郎)
■推薦
推理作家 有栖川有栖さん
ぜいたくなおまけ
飛行機から見下ろす大阪の夜景を見たことがありますか。ドラマチックで一見の価値ありです。
初めて見たのは20年前の海外旅行からの帰りだったと思います。大阪空港へと向かう機内で「やれやれ」と気を抜いていたところ、豪華なおまけのようにうっとりする風景が出迎えてくれたんです。飛行機は空港に近づくにつれ、高度を下げて大阪の市街地をかすめるように飛ぶ。ライトアップされた大阪城が見え、難波や梅田の街明かりがまぶしい。さらにその街中を大川や淀川の黒い帯がうねりながら貫いている。たまたまなんでしょうが、飛行機は「ここしかない」というところを通ってくれる。よくできた風景です。
それなりの料金を払えば、個人的に遊覧飛行で楽しむことができるかもしれませんが、出張や旅行帰りの飛行機に乗ってみられるのだからぜいたくですよ。これまで4、5回見ましたが、何度見ても感激します。ただ、そのことを知っている人も多いようで、左側の窓側席はなかなか押さえられないんです。
〈略歴〉 59年、大阪市生まれ。「マレー鉄道の謎」で第56回日本推理作家協会賞。