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 Vol.4 銀座に馬小屋があった話
◆街には馬もともに住む
岩谷商店の引き札、明治31年(1898年)頃のもの
岩谷商店の引き札、明治31年(1898年)頃のもの
明治後期の銀座八丁の有り様を、大通りから路地裏にいたるまで、実に詳細かつ正確に記録した貴重な地図がある。題して「東京京橋区銀座附近戸別一覧図」(明治35年=1902年 7月発行)。このすばらしい地図を自ら実地調査のうえ完成させたのは残念ながら銀座の人ではなく、入舟町2丁目1番地の勇美堂石版印刷所・平田勇太郎さん。この地図自体が貴重な銀座遺産で、私など何回お世話になったのか分からないが、今なおこれを拡げると何かしら新しい発見があって驚かされる。
先日も別の目的で地図を眺めていたところ、何と「厩舎」(つまり馬小屋)と表示されている建物が煉瓦時代の銀座街のなかに二棟もあることを発見し、びっくり仰天してしまった。

◆時代の奇人・岩谷天狗煙草
岩谷商店の天狗煙草宣伝用のうちわ(明治30年=1897年)頃のもの
岩谷商店の天狗煙草宣伝用のうちわ(明治30年=1897年頃のもの)
二棟のうちのひとつは、当時(明治35年頃)の西豊玉河岸四十八号地の一部に存在していたらしい。このあたりは今では埋め立てられてしまった旧三十間堀の西河岸で、豊玉橋近くの堀に沿っておもに船からの荷揚げや倉庫として利用された低層建物が連なっていた場所である。ここは現在の銀座3丁目9番、紙パルプ会館ビルの西側一帯にあたると考えられるが、前述の地図では、その河岸地の建物の一部に「岩谷商店厩舎」と明記されている。
さてこの厩舎の持ち主の岩谷商店は、薩摩(鹿児島県)から志を抱いて上京し一代で財を成した有名な商人、岩谷松平(いわや・まつへい)の店である。松平(まつへい)は明治10年(1877年)8月20日に、銀座3丁目の銀座通り東側に「岩谷松平」という暖簾をかかげて薩摩飛白(かすり)など薩摩の物産を売り出して、本格的な事業のスタートを切った。その後間もなく自家製の煙草を手がけたが、この国産煙草を「天狗煙草」シリーズ(岩谷天狗、金天狗、銀天狗、国益天狗、輸入退治天狗等等)として売り出したところ、これが大ヒット商品となり、これに気をよくした松平は、当時可能だったあらゆる宣伝手段をすべて実行に移したといわれるほど、派手で積極的な宣伝で売りまくり、自らを「国益の親玉」「東洋煙草王」「商一位大薫位功爵国益大妙人」などと称してはばからなかった。
また明治30年代には、京都から東京・日本橋に進出してきたアメリカ煙草が主商品の大手煙草会社、村井兄弟商会と激突して、熾烈な競争をくりひろげ、東都に話題をふりまいたことでも有名である。
奇行にも事欠かず、たとえば外出する際には必ず赤い馬車を仕立て、赤いフロックコートに赤いシルクハットという奇抜ないでたちで市中を乗り回した。ただ松平は薩摩で暮らしていた若い頃から馬が大好きで、馬術にはかなり自信があったといわれているので、宣伝に利用するかたわら、厩舎を設けてまで馬を身近に置いておきたかったのかもしれない。

◆もう一軒の厩舎も煙草商
江副商店の新聞広告(毎日新聞、明治26年=1893年、5月7日付け)
江副商店の新聞広告(毎日新聞、明治26年=1893年、5月7日付け)
岩谷の話が長くなったが、明治期の銀座にあったもうひとつの馬小屋が「江副厩舎」である。この厩舎は銀座といっても当時の町名では出雲町三番地の江副組・江副廉三の土地の裏手にあった。現在の銀座8丁目、銀座通り東側の長崎センタービルの建っているあたりと考えられる。
それでは江副組(江副商店とも呼んだ)の商売は何だったのかというと、奇しくもこれが岩谷商店と同じ煙草商で、いわば岩谷のライバル的な存在であった。ただ江副の方は岩谷とは対照的に大変スマートで洗練された商人であったらしく、おもにアメリカ製の「ピンヘッド」「カメオ」など輸入煙草を販売するかたわら、原料となる葉煙草も扱い、日本で葉煙草の専売制が実施されるや、政府から外国葉煙草輸入請負人の一人に指名されるなど、業界でも有力で垢抜けた感じの煙草商であった。
その江副がなぜ銀座で馬を飼っていたのか、岩谷のようなはっきりとした理由は見当たらないが、おそらくは煙草の原料など大量の商品を移動させる必要から荷役用の馬車馬用として厩舎を設けていたものと想像される。
蛇足ながら、この江副厩舎は、鉤の手型をした江副の土地の一番左奥にあったらしく、その場所は銀座通りに面した、当時大変に有名だったおしるこ屋「十二ヶ月」の真裏にあたるという、奇妙な位置関係にあった。
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