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今、闘わねば真実は闇へ<脱北6>

「やっと自由な人間に戻れた。北朝鮮で苦しむ帰国者のためにも、語り続けたい」と誓う高政美さん(大阪市北区で)

 脱北に成功した高政美(49)は中国で潜伏生活を送った後、2005年7月に来日を果たした。しかし、北朝鮮で受けた〈洗脳〉が解け、朝鮮総連を相手取った裁判に踏み切るまでには、さらに3年を要した。

 人々が平気で総理大臣を批判するのを聞いて、「罪にならないのか」と心配した。支援してくれるNGO関係者のことは「何か下心があるのでは」と勘ぐった。しかし少しずつ、それが幼少期から刷り込まれた思想教育のせいだと気付く。

 「思ったことを安心して話せる、自由に行動できる社会の何とありがたいことか。ならば、北での半生は何だったのか」。むなしさはやがて北朝鮮当局や朝鮮総連への怒りに変わった。

 提訴後、高のアパートには「裁判をやめろ」「いくら金をもらったのか」などと何度も嫌がらせの匿名電話がかかってきた。真夜中、何者かが窓をたたいて逃げ去ることもあった。

 北朝鮮当局にとって脱北者は国の窮状を外部へ漏らす犯罪者。そのため、自身や北に残る親族に危険が及ぶのを恐れ、大半が過去を隠して暮らしている。事情は北に30人近い親族がいる高も同じ。それでも闘うのは、「話さなければ北での真実が闇に葬られる」という危機感と無念からだ。

 朝鮮総連幹部だった父親は、かつて多くの在日仲間に帰国を勧めた。しかし、晩年は帰国事業にかかわったことを悔い、高に「帰国事業は在日のために行われたのではない。我々は北の為政者の踏み台だった」とひそかに語ったという。

 一方で、朝鮮総連大阪府本部の70歳代の元最高幹部は、帰国事業を「日本で虐げられた在日が勝ち取った、国際的にも正当な事業だった」と振り返る。民族差別が強かった時代に就職をあきらめたといい、「宣伝は事実とかけ離れたものではなかった。帰国者は自らの意思で祖国に渡り、医療や教育を無料で受けた。一部のなじめなかった者が脱北しただけだ」と言い切る。

 朝鮮総連中央本部は高が起こした裁判について「特にコメントはない」とする。判決は30日、大阪地裁で言い渡される。

(敬称略)
2009年11月25日  読売新聞)
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