8月の朝雲ニュース

8/6日付

ニュース トップ

戦闘機の生産が5年間ゼロなら…
自衛隊機が飛べなくなる!
技術・技能工流出 F−2後の方針策定が急務


 第2回「戦闘機の生産技術基盤のあり方に関する懇談会」(座長・取得改革担当防衛参事官)が7月29日、防衛省で開かれ、F2戦闘機の生産が終了する平成23年度以降、国内の戦闘機メーカーに与える影響を調査した結果が報告された。代表的な装備品メーカーのうち16社を選んで航空宇宙工業会がヒアリング調査したもので、今後5年間に新規生産がない場合、大多数の企業で技術者・技能工が流出し、5年後に生産を再開しようとしても人材の確保が障害となることや、現在の戦闘機運用にも支障が出るなどの衝撃的な内容が報告された。


 「戦闘機の生産技術基盤に関する懇談会」で調査結果を基に意見を交わす出席者(7月29日、防衛省で)

16社から聞き取り 業界団体


  調査は7月3日から10日までの間、主契約企業をはじめ飛行制御、エンジン、アビオニクス、武装などを担当する国内企業16社から聞き取りを行った。項目は売上高や従業員数など基礎的データのほか、防衛事業への参入経緯、各社の技術の世界的水準、製造プロセスの確立に果たす技能工の役割、能力など。とくに戦闘機製造が中断された後の影響については、技術者・技能工の流出を民需で防げるか否かといった人員維持の可能性や、下請け企業の経営基盤・設備の維持など生産技術基盤を中心に調査した。
  16社につながる下請け企業数は延べ1077社で、発注金額は約60億円、下請け1社当たり5600万円。これら下請けの中には世界で唯一の技術を持つ企業もあるが、戦闘機の生産がなくなると手作業による高精度の加工能力が失われるほか、継続的に熟練技能工を育てていかないと生産基盤の維持は極めて困難というのが各企業に共通した回答だった。
  仮に5年間新規製造がないと8割強の企業で技能工が流出すると答え、仮に戦闘機製造が再開されて人材を戻そうとしても、戦闘機経験者は流出先でも優秀な人材として核になってしまい、戻せない、というのが多数の企業の見解だった。
  また、開発・製造工程では、技術者と技能工の連携が不可欠で、バランスの取れた年代構成が理想だが、技術者では20代が1割未満の企業が4社、技能工では50代が4割を超える企業が6社あるなど年齢構成が崩れる傾向もある。リストラの結果、50代の比率が低下した企業もあり、5年間新規製造がなくなると、この年代の技術を伝承する場がなくなる懸念がある。このため「20代は開発経験がなく、50代の退職を控え、技術の伝承が急務」と回答した企業もある。
  16社のうち防衛事業の売上額が多いのは小規模企業で、大企業ほど金額は小さく、売上高全体の10%以下が半数を占めている。16社合計の防衛売上高は平成20年度で約1290億円だったが、10年度に比べ20%も減少していた。また、部品などの補用品額も、新規製造で約200億円、修理額で100億円弱落ち込んでいる。
  これらは戦闘機の新規調達が20年度からゼロとなっていることや、防衛関係費が平成14年度の4兆9400億円をピークに毎年削減され、21年度では4兆7000億円と7年間で2400億円減少した傾向と比例している。
  中には「生産基盤を各社がなくしたら、自衛隊の飛行機が飛ばなくなる」と指摘する会社もあった。
  戦闘機メーカーでは、「防衛産業」を国家に必要不可欠な位置づけとする世論の醸成や、実質的な国産開発の機会の増大などを要望。また、航空宇宙工業会も、戦闘機の生産技術基盤の維持にとって実効性のある施策の予算化、防衛省による防衛事業の中長期にわたる明確なビジョンの提示、F2後継機など次期戦闘機開発の早期立ち上げに向けた方針策定が急務と提言している。