「時事深層」

時事深層

2009年11月25日(水)

「民主不況」に現実味

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 13日に2009年4〜9月期決算を発表したみずほフィナンシャルグループ(FG)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)。ともに保有株式の減損処理が減り、与信コストも下がって、業績は最悪期を脱した。だが三井住友FGの北山禎介社長は中小企業向けの貸出残高が3月末より減少したことを受けて、「景気の低迷を反映している。設備投資は少ない」。みずほFGの塚本隆史社長も「雇用と設備の調整圧力は残り、回復ペースは緩慢にならざるを得ない」と見る。両社とも4〜9月期の連結純利益は期初の予想を上回ったが、通期見通しは変えなかった。

 頼みの輸出も先行きの不安は多い。世界の最大消費地である米国は失業保険の給付期間延長などの措置を取ったうえで、法人税減税などを柱とする追加経済対策の検討に着手したとバラク・オバマ大統領が表明した。米経済もなお財政依存から抜け切れず、民需主導の自律的な回復が軌道に向かう状況には程遠い。米経済は過剰消費の是正という、中長期的に需要を下押ししかねない構造問題も抱えたままだ。

 日本の輸出は4〜6月期、7〜9月期と2・四半期続けて年率約28%増と大幅に伸びた。これに対し日本総合研究所の枩村秀樹・主任研究員は「米経済に不安が残る以上、日本の輸出は足元の伸びを維持できない」と指摘。日本経済は2010年度まで3年続けて実質でマイナス成長になると予測する。

 財政規律を重視するエコノミストですら「日本は需要が圧倒的に足りず、政府の支出を急激に減らす必要はない」(マネックスの村上氏)というように、政府の支出による景気の下支えが必要との認識が一般的だ。だが、これに対峙する政府の対応は、迷走気味だ。

 「予算を削れと言われながら、新たな予算も考えざるを得ない。『新たな』はまだ、省内で議論しているだけだが」。ある省庁の官僚はため息をつく。

 行政刷新会議は11日、来年度予算の概算要求について事業ごとに必要性を議論する「事業仕分け」を始めた。「ウチは半減」「こっちは全廃」と霞が関は蜂の巣をつついたような騒ぎだが、一方で菅直人・副総理・国家戦略担当相は17日の閣議で2009年度2次補正予算案に追加経済対策を盛り込む方針を示し、財政支出を増やすと表明した。

 予算を「削りながら増やす」作業で、景気を強く後押しする政策のアイデアは見えない。菅副総理は担当の国家戦略室を中心に、景気対策の基となる経済成長戦略を年内にまとめるとしているが、「年内には2010年度予算案はまとまる。いつ予算に計上するつもりなのか」(経済産業省幹部)と、この時期の戦略立案は遅過ぎた印象がある。

 予算確保の手段は、2009年度の2次補正予算しかない。ただ、この補正予算の立案は本予算より先。綿密に検討する時間は少なく、菅副総理が力を入れるとする雇用対策などは政府が10月下旬にまとめた「緊急雇用対策」の延長線上の施策になりそうだ。失業者の就業支援などを柱にした同対策は雇用の安全網という色合いで、経済を押し上げる効果は大きくない。

 そもそも麻生太郎政権がまとめた総額15兆円の景気対策は、多くの省庁が「普段は予算を厳しく絞る財務省主計局に、『何でもいいから出せ』とけしかけられた」という、「何でもあり」の予算だった。そこで出したアイデアは新政権では否定されるとなると、「正直、新規のアイデアを出すのは難しい」(総務省幹部)という悲鳴すら漏れる。

アイデアも財源も不足

 財源も決まらない。菅副総理は1次補正予算を執行停止にしてひねり出した3兆円弱を財源に考えたが、積極財政を訴える亀井金融相が「上限を設けるべきではない」と反発し、17日の閣議では結論を先送りにした。補正の財源が膨らめば民主党が政権公約に掲げた「子ども手当」などの2010年度分の財源が乏しくなるため、公約順守と景気対策の板ばさみになっている。

 民主党政権になって初めてのGDP速報値の公表だった16日午前。直嶋正行・経済産業相が石油連盟との会合で公表前の数値を漏らしてしまい、その後、陳謝するという騒動があった。

 藤井裕久・財務相が為替介入を否定するかのような発言をして、円高を招いたのは2カ月ほど前。市場を軽視する閣僚の発言や失態は、景気に対する鳩山政権の感度の低さを示している。

 日経ビジネス 2009年11月23日号10ページより




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