さてわれわれはChrome OSの現物を見ることができたわけだが、当初の反応の多くは、「Windowsキラーといえるような製品ではない」というものだった。もちろんその通りだ。しかしだからといってMicrosoftの脅威にならないとは即断できない。 長期的に見て、Windowsに圧力を掛け続ける要素になる可能性があるのだ。実際、GoogleのChrome OSに関する戦略はAppleの戦略を鏡にうつしたように見える。
GoogleはChrome OSでハードウェアの底辺をタータゲットにしている。つまり安いネットブックPCだ。もちろんAppleはこれと逆に高品質かつ高マージンのマシンでハイエンド市場を狙ってきた。仮に、Chrome OS搭載のネットブック(仮にChromeBookと呼んでおこう)でGoogleが成功すれば、私が最初に先月書いたように、Microsoftは上下から挟み撃ちに合うことになる。これはWindowsを「中間的」な存在とする。Googleが成功を収めれ収めるほどWindowsの重要性は薄れていく。
「中間」に位置することにはいろいろな不利がある。まず第一に、製品イメージが「平均的、平凡」といった退屈なものになる。それ自身としては必ずしも悪いことではない。しかしMicrosoftのようなIT業界の盟主にとっては大きな問題だ。長年にわたってイメージダウンを喫してきたMicrosoftは巨額の費用を投じて広告や店頭で新OSのプロモーションに励んでいる。しかし中位層の製品はイメージを売り込むのが難しい。最安値でもないし、性能が最高でもない。中位層は皆が仕方なく妥協して買うような製品だ。
Microsoft自身ももちろんWindows XPと新たに Windows 7でネットブック市場に参入している。しかし新OSの発表当初の騒ぎが去った後はコンピュータの売上の伸びは鈍化するだろう。これはMicrosoftにもGoogleにもありがたくない話だが、実はGoogleのChromeBookはまったく新しいジャンルのコンピュータなのだ。発表イベントで述べたように、Googleは何社かのハードウェア・メーカーが標準的なChromeBookマシンを開発するのに密接に協力している。このマシンは、現在の多くのネットブックよりも大きなキーボードとトラックパッドを装備するはずだ。つまりハードウェアとして現在の平均的なネットブックよりもいろいろな面で使い勝手がよい。
しかも、使い方も現在のネットブックとは違ってくるだろう。数日前、Daring Fireballブログは、「Chrome OS(他のネットブックもそうだが)のカギとなる特徴はユーザーの2台目のコンピュータという位置づけにある」と書いていた。しかしこれはGoogle自身も言っていることだ。Googleのプロダクト・マネージメント担当副社長、SundarPichaiはプレス発表会のQ&Aセッションで強力な編集ソフトがChrome OSマシンでは使えないのは不都合ではないかという質問に答えて、次のように答えた。「“Chrome OSマシンはたぶん2台目のコンピュータとして使われるだろう。ただし利用時間はいちばん長くなるかもしれない。しかしローカルでの処理が必要ならユーザーは、すでに別のコンピュータを所有しているものを考える」。
$300のハードウェアで$700もするPhotoshopを走らせようと思うユーザーいない。ユーザーは単にうんと軽くて持ち運びやすいマシンを買うのだ。ウェブの閲覧と簡単な仕事がこなせればよい。そしてGoogleはChromeOSがそのような目的のために最速、最適の手段だと約束している。
私の見るところ多くの評論家が見逃している(しかしわれわれは7月から主張している)のがまさにこの点だ。Googleは標準的なOSと張り合おうとしてはいない。Googleは「ユーザーがやっている仕事の大部分はそもそも標準的なOSなど要らない」ことを訴えようとしている。ユーザーは家や会社にデスクトップコンピュータを持っているだろう。WindowsPCかもしれないしMacかもしれない。強力なネーティブ・アプリを走らせる必要があるときはそういうコンピュータを使うだろう。しかし、ほとんどの時間は、軽く、安く、速いChrombookで用が足りるはずなのだ。
Appleは安価なネットブックを作らないといって非難されているが、実はAppleははるかに携帯性に優れたネットブックをすでに出している―iPhoneだ。ChromeOSとは異なり、iPhoneはネーティブ・アプリを走らせるように特化しているが、結果は同じだ。どうしてもWindowsを使わねばならない領域が日に日に減少している。
ポイントはこうだ。一般ユーザーのコンピューティングにはおいては、スピードと携帯性がもっとも重要になりつつある。AppleのタブレットPCやわれわれのCrunchPadのような製品の開発にあれほど注目が集まるのはPhotoshopが動作するからではなく(いや、どちらの製品でも動作しない)、インターネットを手軽に利用できる新たな方法だからだ。iPhoneやAndroidの本質も同様だ。ChromeOSとChromeBooksの狙いもまた同じところにある。
ただiPhoneやAndroidは伝統的な意味でのコンピュータのようには見えなかった。ChromeBookがこれらと異なるのは、今まで市場に出ていた普通のコンピュータのように見える最初のハードウェア・デバイスになるだろうという点だ。見たところはWindowsPCと同じだ。しかし本質はまったく異なる。Googlebooksが首尾よく既成の通念を打ち砕くことに成功するなら、ローエンドのコンピュータ市場でのChromeOSのシェアは無視できないものになるだろう。Appleが引き続きハイエンド市場を独占していくなら、Microsoftの居心地は次第に悪くなっていく他ない。
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(翻訳:滑川海彦/namekawa01)