シン元工作員と田口さんに接点浮上
 北朝鮮による拉致事件で新事実です。地村さん夫婦を拉致した疑いが出ている北朝鮮のシン・ガンス元工作員と田口八重子さん拉致事件との間に接点が浮上しました。シン元工作員の配下の男が、田口さんが勤めていた飲食店にたびたび出入りしていたことが警察当局の調べで新たにわかりました。

 シンガンス元工作員をめぐっては、地村保さんが「シン元工作員に拉致された」などと証言。また、曽我ひとみさんも「横田めぐみさんを拉致したのはシン元工作員だった」などと証言し注目が集まっていますが、警察当局の調べで、シン元工作員と田口八重子さん拉致事件との間にも接点があったことが新たにわかりました。

 それによりますと、田口さんは東京の飲食店で働いていましたが、シン元工作員とつながりを持つ在日韓国朝鮮人の男(70)がこの店にたびたび出入りしていたということです。

 この男は、シン元工作員の指示を受け、韓国で米韓軍事演習「チームスピリット」の訓練計画書を入手するなど、工作活動を行っていました。

 田口さん拉致事件では「宮本明」を名乗る工作員が関与していた疑いのあることがわかっていますが、警察当局はシン元工作員と田口さん拉致事件との関連についても慎重に調べを進めています。(20日16:55)

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3207534.html


TBSだけの報道のようで。
これだけじゃちょっと、という記事内容です。
19日に家族会の皆さんが警察庁に要請に行った際、小林武仁・警備局長が「拉致は、思っていたより少人数のグループで実行されていたようだ」、「田口八重子さんの拉致についても、シン元工作員の関与がないか洗い直す」と語っています。これとのつながりでのリークがあったのかなと感じます。もっと確固とした「証拠」あるのかどうか。「思っていたより少人数のグループ」ということにしたい、ということでなければいいのですが。

当時、田口八重子さんが働いていたのは池袋の飲食店です。たびたび出入りしていた辛光洙の配下の男というのは、“現在70歳で「チームスピリット」の情報入手”、という点から見て1985年、辛光洙と一緒に韓国で逮捕された方元正(85年逮捕時、50歳)でしょう。方元正は池袋の隣町である豊島区要町に住んでおり、辛光洙に包摂された後、資金提供を受け東池袋で韓国クラブ「ニューコリアン」(東京都豊島区東池袋1−23−1)を営んでいた。この店は工作拠点としても使われたと安全企画部の資料にはある。方元正は元朝鮮総連の活動家で傘下機関の朝鮮通信社に勤務していたが、反・金炳植系列として罪に問われて強制的に追い出され(金炳植は当時の第一副議長。総連内部での主導権争いがあった。)、生活に困窮していた。妻の兄弟姉妹が北朝鮮におり(一人は収容所に入れられていた)、それへの便宜を図ることと資金援助をすることを条件に辛光洙に包摂された。方元正は、辛光洙に要町のアパートを用意し、原敕晁さん名義での国民健康保険証や運転免許、パスポートの取得に協力。韓国に入国するために民団(韓国系の在日組織)に偽装加入し、後、韓国に入国する。方元正は訪日した労働党中央委員会の調査室長姜海龍とも面会し工作資金を得ている。

いったん北朝鮮に呼び戻された辛光洙は、包摂した方元正を操縦してさらに工作対象者を包摂、韓国の情報を入手するよう指令される。方元正は何度か韓国に行き、中学の同級生であるチョ・ジョンチェ(李成洙)を協力者として包摂しようとする。チョは軍人で大領(大佐に相当)であった。辛光洙は方元正に対してチョ・ジョンチェと接触し「チームスピリット83」の情報を入手するよう指令。


チョ・ジョンチェ大領は、国防部作戦課にいて、1983年1月から軍服を脱いでいますが、現政権が反対派も無視することができないので、彼に職のポストを用意し、韓国イアサカ電気工業(株)副社長として働くようになっており、自分が将星〔将軍〕になれなくて予備役に編入されたことを最後まで不満に思っており、現政権に対する不満を表していました。


1983年11月中旬日未詳、方元正の周旋で東京都豊島区東池袋1−26−4のサンフラワービルアパート504号を1ケ月6万円の家賃で入居して新しい潜伏処を用意し、同年12月初旬日未詳14:00頃、方元正の家で同人と会い、彼から「チョ・ジョンチェ社長が日本イヤサカ本社の招待で会議参加のため来日した時に会ってみたが、彼は韓国イヤサカ会社の実権を掌握するため、日本人や韓国人が所有する株式の40パーセントを約4000万円で入手しようとしているが、金がなくて困っているので、チョ社長を包摂しようとするなら、我々が資金援助するのがよいでしょう」という報告を受け、彼に「それならば、私が日貨4000万円程度を何とかして用意して支援してやりますから、チョ社長包摂工作を積極推進してみてください」と指示しながら、対象者包摂工作活動費として日貨50万円を渡し、
(ソウル地裁での判決文より)


辛光洙はこのチョ・ジョンチェを包摂するための4,000万円をやはり北朝鮮にいる親族の「安全」と引き替えに包摂した朝鮮総連長野県商工会会長に出させている。その後、方元正、チョ・ジョンチェを通じて、「チームスピリット」の各年の情報を入手していく。そして1985年2月、辛光洙は、チョ・ジョンチェを完全に包摂するため方元正と一緒に韓国に入国する。しかし、怖くなったチョ・ジョンチェが自首したことによって、辛光洙、方元正、後から韓国に入国した金吉旭(原さん拉致に関わった)の3人は逮捕された。

田口八重子さん拉致事件では、2002年10月に以下のような報道があった。

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による田口八重子さん=失跡当時(22)=拉致事件に、一九八七年の大韓航空機爆破事件の捜査の過程で存在が明らかになった「宮本明」と名乗る北朝鮮の工作員が関与していた疑いが強いことが十一日までに、日本の警察当局の調べで分かった。

 田口さんが失跡前に勤めていた東京・池袋のキャバレーに客として出入りし、田口さんを指名していたことが確認されており、警察当局は「宮本」が田口さん拉致事件の鍵を握る人物とみて重大な関心を持っている。

 「宮本」は「李京雨」との朝鮮名も持ち、大韓機事件で服毒自殺した金勝一・工作員が所持していた偽造旅券の入手に関与していたとみられるほか、警視庁が八五年に摘発したスパイ事件「西新井事件」の周辺でも存在が確認されている。

 大韓機事件では、金賢姫・元工作員の供述などから日本語教育係の日本人女性「李恩恵」が浮上、警察庁は九一年になって李恩恵を田口さんと断定。この捜査過程で警察当局は「宮本」が池袋のキャバレーを数回訪れて田口さんを指名していたことを突き止めた。(共同通信 2002/10/11)


大韓航空機爆破事件の後、この「宮本明」がクローズアップされたことがある。あらゆる過去の北朝鮮スパイ事件がこの宮本明に関連づけて報道され、「大物スパイ」扱いされたのである。基本的に「工作員」の情報などは、警察筋からのリーク以外、表に出ることは少ない。『大物スパイ』は作り上げられる恐れがあることを考慮しておく必要がある。

当時、田口八重子さんの周囲を捜査した際、宮本明の存在は浮かんできたのに、この方元正の存在は浮かばなかったのだろうか。浮かばなかったとすれば、警察の捜査がずさんだったということであり、浮かんでいたのを今になって発表したのだとすれば、その意図が疑われることになる。

田口八重子さんの勤務していた池袋のキャバレーは、広いダンスフロアを持つ有名な店であり(経営者もよくテレビ出演していた有名人)、同じ池袋でクラブを経営していた方元正が何度か通ったとしても、不思議ではない。まさかただのお客でした、なんてことはないだろうが。

今回の「田口八重子さん拉致にも辛光洙が関与?」という筋書きでは、この宮本明はどう関わるのだろうか。警備局長の「思っていたより少人数のグループ」という発言。確かに、すでに名前の出てきている工作員ばかりで、「少人数」ではある。

辛光洙の判決文を見ると、日本で「忙しく」活動しているのがわかる。土台人の包摂には、北朝鮮にいる親族の「身の危険」を脅しに使っているが、それが必ずしも毎回、うまくいっているわけではない。また、土台人にしても、包摂されたからといって、直ちに北朝鮮が満足するような活動が出来るわけではない。気持ちの逡巡もあり、また工作員としての知識もない。それを組織していくのに苦労している辛光洙の姿が判決文にはある。原敕晁さん拉致以後、北朝鮮から辛光洙に与えられた任務は、「チームスピリット」に関する情報の収集と、東南アジアでの工作拠点作りである。東南アジアでの拠点作りは、その準備には手を付けたが実質的には何も出来ない段階でしかなかった。そういう中で、あれもこれも辛光洙、というのは疑問は残る。

辛光洙は「非転向長期囚」と言われているが、では逮捕され取り調べに対しても抵抗したのかというとそうではない。事細かに自白しているのである。地裁で死刑判決を受けた後、上級審に控訴するのだが、その控訴理由は、「すべて自白したのに死刑という判決は重すぎる」というものである。死刑(後、無期懲役)という判決が確定した後、「非転向」に鞍替えするのである。

辛光洙の取り調べは、韓国の情報組織、安企部が行っている。日本の警察筋が「主権侵害」と憤る程の「日本での捜査」も行っている。当時の韓国大統領は、全斗煥であり、北朝鮮に対して融和策などはとっていない。それどころか、日本の北朝鮮に対する姿勢が甘すぎるとして批判していた時代である。辛光洙が原敕晁さん拉致以外の「活動」を行っていたとすれば、それを公表して日本の対北姿勢を強硬姿勢に変えさせたであろう。そういう中での判決文の内容である。日本の警察筋から、それを覆すだけの「証拠」はまだ何も出てきていない。



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