借金の整理をめぐって、債務者と司法書士・弁護士との間でトラブルになるケースが相次いでいる。「過払い金」返還請求の報酬が高額だったり、ヤミ金の整理は拒まれたりするというのだ。日弁連ではこうした事態を受けて、実態調査に乗り出した。
「過払い金」とは、債務者が貸金業者に払いすぎていたお金のことを指す。利息制限法が定めている金利(年15~20%)を超える分は支払い義務がないとする判決が2006年1月に出たことで、グレーゾーン金利――利息制限法が定めている金利と、主に消費者金融業者が目安としていた出資法の上限金利(29.2%)の間にある金利――を支払う必要がなくなった。そのせいで、過払い金の返還請求を希望する人が増えた。
これを受けて、手続きを代行する司法書士や弁護士が続々出現、債務者との間のトラブルも増えているようだ。「全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会(被連協)」事務局長・本多良男さんによると、過払い金返還請求に関して、司法書士・弁護士の対応をめぐるトラブル相談が徐々に目立ち始めていたという。被連協へは、司法書士・弁護士と直接相談できない、途中経過の報告がない、ヤミ金融事件は取り扱ってくれない、といった相談が寄せられている。中でも多いのは、司法書士・弁護士への高い成功報酬に関する相談だ。
60歳女性の場合、消費者金融7社から借金約310万円があった。司法書士に依頼すると、整理の結果、203万円が返還されることになった。司法書士の報酬金請求金額は109万円。返還金から借金74万円を返すと、手元にはたった19万円しか残らなかったというのだ。なお、このケースではさらに、司法書士がその19万円も費用だと請求し、もめることになったという。
一方、多重債務の生活支援を手がけている社団法人「生活サポート基金」にも、同様の問い合わせがある。専務理事の横沢善夫さんによると、相談者のうちの約30%がこの問題を持ちかけるという。横沢さんは、相場を上回る高額な請求を知らずに支払っているケースもある、と話している。
「被連協」本多さんは「多重債務者はわらをもつかむ思いで相談している。債務整理によって、債務者の生活を立て直すのが本来だ」と憤る。被害の相談は全国からも寄せられたため、同協議会は2009年10月30日、日本弁護士会、司法書士会に指導・監視の申し立てをした。
トラブルはなぜ増加してしまったのか――。「生活サポート基金」横沢さんは、2009年1月22日にあった最高裁判決で、過払い金の消滅時効(10年)の起算点が「取引終了時」とされ、取り扱う事案が増えたこともある、と指摘する。これが「過払い金返還請求」をビジネスと見込んだ弁護士・司法書士の参入に拍車をかけた。最近では、「過払い金解決」をうたう広告が特に目立つようになっている。
こうした状況を問題視した日弁連は2009年7月17日、「債務整理事件処理に関する指針」を公表した。その中で、債務整理の際には直接面談すること、債務者の意向を十分に配慮すること、丁寧な説明を行うことを改めて記した。11月4日の定例記者会見ではさらに、指針に沿った業務がされているかについて実態調査をするとした。一方の司法書士連合会では10月19日、過払い金返還請求事件の所得隠ぺいを国税局に指摘された例が出たのを受けて、「業務全般に対する執務姿勢を見直す」という会長声明が出されている。
横沢さんは「(過払い金返還請求が)ビジネスと言われてしまえばそれまでだが、債務者の生活再建という視点に立って、フレキシブルにやるべきではないだろうか」と指摘する。また、トラブルに巻き込まれないためには「依頼者は報酬体系をきちんと聞き、明確にさせておくべきだ。そして、債務整理の相談を公的な機関――弁護士会の法律相談センター、法テラスなどにしてみるというのも手でしょう」とアドバイスしている。
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