VOCALOID史上最高のバラードがCD化――新たなVOCALOIDシーンを切り開くbaker氏に聞く
現在の音楽シーンで脚光を浴びるVOCALOIDによる楽曲に注目が集まったのは2007年。
VOCALOID2エンジンを用いた「初音ミク」と、ニコニコ動画やYoutubeといった動画サイト登場は、音楽表現の発表のツール・場としてそれぞれ受け入れられ、多くのクリエイターたちが登場した。
その中でも叙情的な歌詞と音楽、そしてVOCALOIDの切ない歌声で注目を集めたアーティストがいる。「VOCALOID史上最高のバラード」と称され動画サイトで大ヒットを記録した「celluloid」のアーティスト、bakerだ。
彼が生み出す作品は一般ユーザーのみならず、「初音ミク」を送り出したクリプトンフューチャーメディアの伊藤社長やVOCALOID開発責任者であるヤマハ サウンドテクノロジー開発センターの剣持氏といった、VOCALOIDの生みの親たちからも熱い支持を得ており、VOCALOIDカルチャーの礎を築いた一人といえるだろう。
その彼のアルバム「filmstock」が、2009年11月25日にビクターエンタテインメントから発売される。
初音ミクをはじめとするキャラクターにフォーカスが集まりやすいVOCALOID関連のアルバムの中で、「filmstock」は彼が表現したい音楽を追究したアルバムとして仕上がっている。その真っ正直さは愚直とも言えるほどだ。
発売を控えたbakerに、音楽に込めた想いについて聞いた。
profile:baker
2000年頃からKeisukeHattori名義でネットにて音楽を発表。自ら作詞、作曲、演奏をこなし、VOCALOIDを用いた楽曲“celluloid”は「VOCALOID史上最高のバラード」と称され人気に。
自らの創作活動の他にも、他のアーティストの編曲を担当。さらにDJ活動を行うなど、積極的に音楽活動を行っている。
●音楽はオリジナルをやりたかった
–音楽をはじめたきっかけは
本格的にはじめたのは高校3年ですね。クラスの友達が“バンドやろうぜ!”って誘われたのがきっかけで。教室にギターを持ち込んでいるのも多かったから、割と自然な流れでしたね。
それからいろんなバンドのコピーをしたりしていたのですが、やっぱりバンドをやるからにはオリジナルをやりたかった。
でも、そのイメージを伝えるには形にしなければダメですよね。そこで打ち込みを聞かせて、“こういうヤツをやろうぜ!”ってところからはじめたんです。そうこうしているうちに、いつの間にか打ち込みから録音まで、一人ですべてやるようになっていました(笑)。
–bakerさんの曲は、詞もメロディーも強烈な印象を残します。どちらが先に産まれるのですか
インストルメンタルを作っていたので、メロディーを先に出すっていう方法はすごい楽なんですけれど、歌物を作る時は歌詞ではいかなくても「この言葉だけは!」という言葉と、メロディーと絵が同時に自分の頭の中で浮かぶと形にするって感じです。
作詞作曲以外に絵のイメージも入っているのは、表現したいイメージが明確なほうが、「形にする」ということに対して自分自身に対して意味が産まれるからなんです。そういう点では、絵のイメージは大切にしています。
表現したいテーマは常にあるので、“今日はこういうテーマで作りたいな”と考えていると、それにぴったりとした絵が出てきてメロディーとそれにぴたりとあった言葉があわさるという感じでしょうか。そういうのがなくても無理矢理つくることはできるんですけれど、それじゃあ仕事みたいな感じになってしまうので。
とはいっても、ずっと考えているので、買い物をしているときに突然思い浮かんだりするとちょっと困りますね。
今回のアルバムにも収録をしている“サウンド”は、野菜売り場で「カブ買わなきゃなー」なんてときに浮かんだ曲なんです。でも、スーパーなんで変な音楽が流れてて、混じるんですよ(笑)。
もう急いで帰って、すぐ形にしました。
●感情を形にするということ
–“celluloid”や“カナリア”をはじめ、叙情的な歌詞をVOCALOIDが感情を込めて歌っているように感じます。どうやって感情を表現させているのですか
テクニック的な意味でいうと、みんながやっていない……というか、やりたがらないことを結構やっています。
端的にいうと、ダイナミックスとピッチのパラメータで波を全部手で書くんですね。ペンタブレットを使って、パラメータを何から何まで手書きして納得いくまで微調整を繰り返すんです。
その手法を最初に全面で使ったのは、“celluloid”のリテイク版(※)なんですが、それは一晩かかりました。
(※:「celluloid」 retake song by 初音ミク)
–途中で中断という分けにもいきませんものね
意識はしていないんですけれど、自分の中で最後までやらないとやめられないんですよね。没頭すると回りが目に入らなくなってしまって、気がついたらご飯はもちろん水もとっていない、なんて(笑)。
–それぞれのVOCALOIDに、どんな印象をもっていますか? 得意不得意があると思いますが
何を大事にするかというのがありますから、一概にこうとは言えませんね。その曲によって合う・合わないがありますから。
綺麗に滑舌良く歌わせるのでしたらミクが一番楽ですけれど、スピード感のあるロック的な曲はリンのほうが得意に感じますし、Megpoidは一番人間に近いと思うので、そういう所を生かせる曲だと選びます。
ルカは日本語版はほとんど触れていないんですが、英語版に関してはお決まりのセリフを言わせて、クラブ系のトラックに混ぜ込んで使ったりしています。声を加工してエフェクティブに使うシーンでは、非常に実用的で助かっています。
●今、このアルバムを出す理由
–今回のアルバムを発売するきっかけは
もともとビクターさんとは以前からお仕事を何回かさせていただいていて、そのご縁で今回のアルバムのお話をいただいたのですが、その話しを頂いた当時はあまりそういうことをする気がなくて、どうしようかなあ……って思っていました。というのも、キャラクターを押し出したアルバムはすでにたくさん出ていて、それを今、僕がやる理由というのは全く無いと思っていて。
もちろん、そういうアルバムを否定するつもりは全くないんです。それよりも全部そういう風に“右へ倣え”ってなっている雰囲気に疑問を持っていて、誰かがそうじゃない形を見せなきゃまずいな、と。
だからプロデューサーに
「キャラクターを全く使わないで出したいです。売れないかもしれないですがいいですか?」
……って聞いてみたんですね(笑)。
そうしたら、「それでも出したい、いっしょにやろう」と言ってくださったので、踏ん切りがついて決めました。
–今回、この10曲に決めた理由は
個人的には選んだというイメージはあまり無くて、このCDで一つの作品ということにしたかった。なので、半分が描き下ろしというのもそういった理由です。作品を作る上でそれ(新曲)が必要だったんですね。
–すでに発表されている曲にも手がはいってるとのことですが
やはり昔と今とでは使っている楽器が違うので、新たな曲に合わせて手を入れる必要がでてきたんですね。
ギターに関していえば、全然違うギターを使ってみたりとかしているので、弾き直して前の曲となじませるのが大変でした。
–一度評価をされているものに、新たに手を加えるのは大変だったのでは
リミックスは良くやっているので、大胆に変えてしまうことは手慣れていて簡単なんです。
ですが、今回のは前にあったもののイメージを残しつつ、アルバムで表現したいものに近づけていかなければならなかったので、どこまで変えるかというさじ加減は悩みました。難しかったですね。
スケジュールもあまり余裕がなかったので実質1カ月弱の作業でしたが、今思えば間延びするより集中できて、良いものが仕上がったと感じています。
–最後に、ファンのみなさんへメッセージをお願いします
単なるベスト版ではない、この10曲であることに意味があるアルバムに仕上げることができたと思います。通して聞いて、それを感じてもらえればすごいうれしいですね。
あと、この楽曲の中には対になる曲というのがいくつかあります。同じコード進行つかっていたりする、ちょっとしたギミックを仕込んでしますので、そういう所を探してみるのも楽しんでいただけると思います。
ぜひ、通しで聞いてください。
VOCALOIDの盛り上がりにいち早く注目しアルバム「Re:Package」を発売したのは、ビクターエンタテインメントだった。
そのビクターエンタテインメントが送り出すVOCALOIDを用いたアルバムは、キャラクターでの打ち出しではない、アーティストの想いを全面に打ち出したものとなった。
二次創作により爆発的に広がった“キャラクターとしてのVOCALOID”にフォーカスがあたりがちな昨今、クリエイターの表現したい形として作り込まれた「filmstock」は、楽曲はもちろんVOCALOIDをつかった表現としても、多くの人たちに影響を与え続ける作品となるだろう。
【filmstock】
発売日:2009年11月25日
価格:2800円(税込)
発売元:ビクターエンタテインメント
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