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「探査機はやぶさにおける、日本技術者の変態力」
帰還継続可能と判明してから10日。
関係者の方々、少しはお休みになる時間がとれたでしょうか。
11/12 01:00 頃(ニコイチ運用後初の可視時間帯)とか11/19 夕(記者会見開始直前)とか、そういう情報取扱上クリティカルな時間帯にここをご覧にならなくても、私は JAXA/ISAS 関係者との個人的なコネクションは一切持っておりません。情報漏らすどころか情報が入らない身なので大丈夫ですよ。だからとにかくお休みになれる時は休んで下さい。
(むしろ11/12のアクセスで「あ、ウチを見るような心理的余裕ができたなら状況が確定したんだ」という推測ができてしまいましたよ?/笑)
今の状況においてなお「はやぶさ」が生きていることを私は「奇跡」と言いたくありません。関係者さんがたが「はやぶさ」を生かすため過酷な状況にいらっしゃることは察していますから。


──とはいえ、他者に「はやぶさ」を紹介するにあたり(内心忸怩たるものを抱えつつも)「彼らは『こんなこともあろうかと』を現実世界でやっている」という言い回しをすることはあります。
↓の動画までいくといっそ気持ちいいけど、2005年末から「はやぶさ」を追っかけている私の目から見ても「これ実話なのか!?」と言いたくなる(笑)。



おそらくは「2ちゃんねる」のニュース系のスレッドに書き込まれた文章が元ネタと思われます。
厳密な点では誤りが見られますが(※)、厳密にしても回りくどくなるのでだいたい合っていれば十分だと思います。むしろこの勢いの良さはお見事。

※元ネタの文章に誤りがあったようです。ニュース系のスレッドはレスポンスの速さのために正確さを多少犠牲にする必要がある……のかな、多分。



一応、それぞれ可能な限りソース付きで示すと:

01:31
残り2基と化学スラスタで制御できるようにしてある
マジです。
当初より2基の運用も想定しており、運用に支障はなく

02:29
充電を繰り返しつつ、自動で姿勢を制御するよう造ってある
通信途絶時の充電は偶然。「はやぶさ」が「勝手にバイパス回路をEnableにして7個の電池を生かしておいてくれ」たもの。
自動で姿勢が「安定」するのは本当。さすがに「制御」は無理。
現在のコーニング運動は、最終的には +Z 軸まわりの純スピン運動に収束していきます。


02:35
信じて待つんだ!!
マジです。
2005.12.09 通信途絶
2005.12.15 通信回復予測が発表される ←ご注目
2006.01.23 「はやぶさ」からのビーコン受信
2006.01末 地球─「はやぶさ」間の双方向通信が可能となる(「はやぶさ」はyes/no のみ送信可能)
2006.02末 テレメトリ取得が可能となる(通信復旧)
さすがに通信回復時のリアクションは「ほら来た」とはならず「間違いではないかと、地上局のアンテナをわざと振って、確かに「はやぶさ」がいるべき方向からの電波だと、いわば自らのほおをつねって確認した」とのこと。

03:18
中和器の向きを微妙にずらしておいた
これは偶然そう作られてたのを土壇場で活用したもの。
→ 川口淳一郎教授も、 「これはたまたま運がよかっただけ」と話す。 (2006/06/02朝日新聞夕刊)

03:33
回転軸が機体の中心を貫くよう設計していた
マジです。上掲「+Z 軸まわりの純スピン運動に収束していきます」のこと。

03:36
太陽光圧を利用してスピン安定状態に
マジです。ソーラーセイルの「良き練習台(テストベット)なのです。」とはエンジン担当の國中教授談。スピン安定には自動太陽追尾のオマケ付きです。

03:47
通常の充電方法では爆発の危険性がある
マジです。過放電したリチウムイオンバッテリは充電時に爆発する危険があります。数年前の「ソニーバッテリー」騒動がこれ。

04:05
古川電工
正しくは古河電池。ただし出自は古河電工の電池部門。

04:05
補充電回路
正しくは充電保護回路
バッテリ復活の詳細はこちら。ごく弱い電流を流して充電。少しでも温度/電圧が上がったらすぐに OFF という切り替えを延々3ヶ月。

04:38
イオンエンジン3基、ホイールは1基
マジです。この頃から「最後のホイールの故障」対策検討開始。2009/10/10 日本航空宇宙学会中部支部 航空宇宙フェア'09 での講演にて國中教授が「(最後のホイール故障に備えた姿勢制御の)プログラムは既に『はやぶさ』に送信済」と発言

05:42
エンジン同士、予備回路で繋いでおいた
正しくは予備の回路ではなく「対応できる電源回路として組んでおいた」。これは本当に本当の「こんなこともあろうかと」
→ このような状況は地上では再現できないため、地上試験ではこのような運転を行っていない。

05:45
Aの中和器、Bのイオン源、2つで1つのエンジンになる
マジです。
→ このため、使っていないエンジンAのイオン源と、エンジンBの中和器からも生ガスが噴出している状態。しかし、推進剤のキセノンは推定であと20kg残っている。残る加速に必要な量は5kgほどなので十分対応可能。

06:14
役目を終えたはやぶさは大気圏に突入
マジです。しかしその軌道データも利用するのが科学者です。
→ 「はやぶさ」が“最後のご奉公”、惑星衝突予測に活用へ
→ その他の大気圏再突入有効活用案



「Orbital pretty」『現代萌衛星図鑑』のしきしまふげん氏による解説記事
化学スラスタ全損でどうやって姿勢を制御しているかの図解あり。必見。

はやぶさまとめニュース(hayabusafanさん、おかえりなさい!)では「動画で扱われていない事象」も含めた解説記事。(ソース付)



あー、自分の文章を見返すと
「真田さん運用」(打ち上げ前に想定されていたもの)

「アポロ13運用」(打ち上げ後に編み出したものを便宜上こう呼ばせてください)
の区別がつかないな。後でちゃんと区別をつけておこう。


私信。文系はドキュメント分析してナンボですから>mitsutoさん
宇宙&天文 | permalink | comments(2) | trackbacks(0) | by すばる
コメント
いや〜お見事です。
僕はこういう映像見るとつい情緒に流されてしまって、そのまま感情任せで盛り上がってそれで済ませてしまう傾向があるもんで、アツくなりつつも常に冷静に分析する目を持ったすばるさんを見習いたいです。

お仕事もかなりお忙しいようですが、御身体にはお気を付けて。
どうぞご自愛下さい。
| mitsuto1976 | 2009/11/21 11:13 PM |
お気遣いありがとうございます(涙)>仕事

今回の復活の知らせについては
「心配を通り越して『はやぶさ』(※宇宙研ではない)に怒りを覚え、緊張が解けて立てなくなる」
という貴重な体験をさせて頂きましたとも、ええ……。
まだ私自身の今回の知らせへの感想を書く気力も出ていないのですが、とりあえず
「人気動画なだけに情報整合性をとりたい」
というデジタル土方根性でエントリ立てさせてもらいました。
いやー、「中和器の向きは偶然」ソースは手強かった(笑)。
| すばる | 2009/11/21 11:41 PM |
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