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Keep Crazy;shi3zの日記 RSSフィード

2009-11-24

中国、深圳(ShenZhen)のベンチャー企業に行って来た

さてさて。今回は単なる視察旅行ではなく、IVSで知り合った中国企業と会談があるのでした。

そこで、上海と深圳に開発拠点があるというベンチャーの社長と知り合い、とりわけ最近はFacebookアプリとモバイルに力を入れているという話で、日本進出に向けて是非情報交換をしたいとのことだったので、再びやって来ました深圳(ShenZhen)へ。

しかも今回は初めて、現地ガイドの山根さんナシ!



電気街からはかなり離れたところにオフィス街があります。感覚としては新宿から調布くらい。

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ビルはかなり立派。

黒服に身を包んだ警備員があちこちに配備されています。

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中国といえば治安維持は主に軍隊の仕事なので、黒服の警備員がブロックごとに配置されているというのは驚きでした。


ロスだってこんなに厳重じゃありません。

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今回お邪魔したのは中友集団という会社。SNSとケータイ、Facebookゲームなどを作っている会社です。


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ここが開発フロア。プログラマはEclipseを使っていました。

中国でのケータイはやはりMTKが圧倒的シェアを誇っており、このフロアでは30人のエンジニアがMTK向けソフトをひたすら作り続けています。


MTKの凄いところはほぼ完全な下位互換性を維持しているところで、感覚としてはMS-DOSに近いです。

ただし、アプリ開発は全てJavaで行えます。


そこではたと思ったのですが、この国では僕らが売っているようなタイプのCMSは不必要だということです。


機種ごとの違いが全くなく、違うのは色と形だけ、というのがMTKプラットフォームの特徴です。

ということは、通常のモバイルCMSに要求されるような各キャリア向けの絵文字対応や端末ごとの動画出し分け機能のような高度かつ複雑な仕組みを持つ必要がないということです。


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こちらはFacebookアプリフロアです。


頭では解っていたつもりでも、いざ目の当たりにしてみると、中国におけるMTKの普及率と依存率は圧倒的と言わざるを得ません。

これは日本企業が下手に進出して行ったら教訓を受けるはずです。

彼らの武器はやはり圧倒的な貧しさ、なのかもしれません。


しかしとても困ったのが、全く、なにも通じないこと。

たとえば「ニコニコ動画」をさらっと見せて「Youtubeの動画にコメントを流すようなサービス」と説明したら・・・


 「Youtubeって何だ?」


 「これはビデオテロッパーソフト?」


などと反応が返って来ました。

また、プレゼン中にTwitterの画面が映ると・・・


 「お、それTwitterの本物?うちのサービスで同じやつあるよ」


一堂爆笑。

中国のITの強さは実はこうした情報鎖国政策にもあります。

一般的に嫌われることの多い中国のGreat Firewallですが、それがあるお陰で国内のIT産業が盛り上がっているのもまた事実です。


国家単位で情報統制するということは非常に奇異な感じを受けていたので「それについてどう思う?」と聞いてみると


 「Great Firewallが守っているのはオレたち国内IT企業だ。おかげで中国には検索エンジンの会社もSNSも、マイクロブログもゲームも、独自の会社があるし、それで生活が成り立っている。食わせて行かなきゃいけない国民がいるのに、なぜ国外のサービスを使わせなければいけないのか」


彼らの感覚では,Great FirewallはWebアプリケーションにおける「関税」の役割を果たすようです。

日本を初め先進各国では通常、酒類など特産品の取引に関税障壁を設けて国内の産業を守るのが通例です。


ところがインターネットや情報産業だけはまったくその部分について無為無策のまま国内産業の保護をしませんでした。


その結果どうなったかというと、ジャストシステムはマイクロソフトに蹂躙され、国産グループウェア最大手のサイボウズはわずか数十億の売上げに甘んじています。サイボウズのライバルはたとえばSales ForceやIBM、マイクロソフトになるのですが、いずれも売上げ規模は桁違いです。


これを自業自得と見るか、政府の失策とみるか、意見の別れるところだと思います。


Great FirewallのもとでTwitterやYoutube、YahooやGoogleなどの類似サービスを作る中国を日本人は笑えません。


なにしろそういうことを最初にやってきたのは日本人です。

例えば、はてなのサービスで、はてなの主要サービスではてながオリジナルだと自信を持って言えるサービスは幾つあるでしょうか。


そのときは言語が一つの障壁になっていただけです。

また、一切の検閲を敷かないお陰で、日本のネットは完全なる無法地帯になっています。


無修正画像はやすやすと太平洋の光ファイバーを横断し、オンラインカジノでいつでも非合法な収入を得ることができます。


会談が終わって、香港にもどると伝えると、親切な現地のCTOが僕らをバス停まで送ってくれるということでした。


ところがそのバス停というのが、国境を超えるバスなので、クルマで20分もかかるところにありました。


 「あのビルが見えるか?」


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遠くにとんでもない形の巨大なビルが見えました。


 「凄い。あれなに?」


 「QQの本社さ。中国最大のネット企業。従業員は1万人」


 「会員数は?」


 「10億人くらいかな」


 「それ中国の全人口じゃん」


 「ははは。でも多分中国でネットを使うのに、QQを使わない人はいないと思うんだ」


 「なるほどね。スタンダードというわけだ」


 「実はおれ、QQで働いていたんだ。けど、いまの会社にヘッドハントされて・・・」


 「そうなんだ」


 「四年前は、QQの株価は4元だった。いまは160元。40倍だよ!40倍!。ストックオプションを棄てて転職したから、貰えなかったけど」


 「凄いね。辞めなきゃ良かった?」


 「いや、後悔はしてない・・・・そのう、英語でなんと言うんだっけ?本当に自分が欲しかったものは、金なんかじゃなく、やりたいことをただやりたかっただけなんだ」


 「いいね、実は僕も前の会社が上場する前にストックオプションを棄てて辞めたんだ」


 「いずこも同じか。ハッハッハ」


とはいえ、中国の大卒初任給は5万円。日本はと聞かれて


 「20万円くらいかな」


と答えると彼は目を剥いて言いました。


 「ほんとに!?日本人は、働き者だからな!」


けど僕は反射的にこう説明していたのです。


 「いや、それは違うよ。日本人が働き者だったのは、20年くらいの話だ。おれの父さんや爺さんの時代は、そりゃあ働いてた。休みは週に一日だけ、連休は春と秋の二回。朝から晩まで働いて、企業戦士や過労死、なんていう言葉が流行った。ところが、いまの日本と来たら、毎月どこかで連休だ。社蓄なんて言葉があるくらいで、みんな会社を自分で動かしているという意識がなく、会社に飼育されてると思ってる」


 「飼育?ブタや牛みたいに?」


 「そう。会社に飼育されてるんだっていう意識で働くひとも多い。企業戦士、なんていう言葉はもう聞かないし、それどころか全く働かずに家にこもったままの"ひきこもり"や"NEET"なんていう若者が登場して来て、少なくとも昔みたいに死ぬ気で働いてる人は殆どいないね」


 「日本のこと、映画でしかしらないから、みんな凄い真面目で頭のいい人たちだと思っていた」


 「その映画は古い。いまの日本人は全く、そういうことをシリアスに捉えていない。日本での最近の悩みは貧困とモチベーションの低下だよ」


 「貧困といっても、日本人の給料は4倍高いし中国のほうがもっと貧困だよ」


 「その通り。けど、日本人が抱えている問題はお金がないということじゃない。やることがなくてやる気が出ないんだ。生活に余裕があるから"やりたい仕事がない"なんて言っていられるのさ」


 「それでも、生きて行けるだけ羨ましいな。中国は、人が多過ぎて、エリートでも職探しに苦労する。お店の店員が、みんな深圳大学卒の博士号をもっていたりするんだよ。大金を掛けて勉強しても、働き口がないからみんな仕事があればなんでもするんだ」


 「でも安心しなよ。昨日今日ですごく思ったことがある。いまの深圳は、50年前の秋葉原なんじゃないかって。秋葉原も最初は闇市から始まって、世界最大の電気街になった。電気街の存在が、日本のハイテク産業の人材を育て、世界に冠たるハイテク立国として成長していった。すでに深圳は世界最大の電気街だし、そこには君のような勤勉で優秀な若者が沢山いる」


君のような優秀な若者、といったところで彼は照れ笑い。

僕は続けた。


 「日本人はいま、とても怠けている。危機感がなく、仕事への熱意をもっていない。君たちは、勤勉で、積極的で、賢い。今日、プレゼンをしてみて本当にそう思った。社長が出席している会議で、社員の方が社長より元気に質問をしてくる会社は伸びると思う」


 「それはありがとう。でも会議はいつもあんな感じだよ。いい意見に身分は関係ない」


 「だからね、僕はひょっとすると、あと数年もたてば、君たちのほうがずっとずっとお金持ちになっているような気がするんだよ。それで、日本はいまのイタリアやポルトガルみたいに"かつては文明発展に多大な貢献をしたがいまは無害で無気力な国"になっちゃうんじゃないかと思ってね」



僕は自分のクチから出る言葉を信じられませんでした。

けれども、それが自分の本心から出ている言葉なのだと知ったとき、ひどくショックを受けたのです。


日本が世界の二流国になる、いや、もう成っていて、しかしそれに多くの日本人が無自覚のまま、気がつけば世界に取り残されているかもしれないという危機感は、これだけいろいろなことを言ってきた僕自身さえ、実はそう言葉を発するその瞬間まで、なかったのです。


これが単なる同情ではなく、実感を伴った感想であることは、後席に座っていた水野君にも伝わったらしく。


 「ヤバいですね。よく考えると」


しかしヤバいけど対抗できない。圧倒的な貧困と、低賃金と、人口。

これに比べると日本は独自言語を使う、金持ちの少数民族に過ぎません。


これが中国という国の脅威であり、これだけ広大な国土と人口を一つの政府が支配することの凄みなのか、と思いました。


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そしてバスターミナルに到着。

ここで出国手続きのあと、国境の反対側にあるバス停でバスに乗車です。


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最後にお別れの記念撮影。

いやー、本当にナイスガイだった彼は!