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鳩山政権の通信簿:マニフェスト検証 2カ月目 「聖域」に修正のメス

 政権発足1カ月に合わせて95兆円超という史上最大規模の10年度予算概算要求をまとめたが、厳しい経済情勢を踏まえ、一転して削り込みへと突き進んだのが鳩山政権2カ月目の姿だった。そこでは衆院選マニフェスト(政権公約)関連予算も「聖域」ではなくなった。「めいっぱい膨らませた風船を割れないようにいかに空気を減らすか」。政府関係者はこう漏らす。マニフェスト実行に向け修正を迫られる場面が相次いだ。

 ◇低税収で予算縮減 小沢氏肝いり「戸別所得補償」も対象

 「戸別所得補償が相当削られそうだ。力を貸してくれないか」。山田正彦副農相は19日、民主党の奥村展三総務委員長に相談を持ち掛けた。山田氏は18日、農業者戸別所得補償(概算要求額5618億円)の事業内容や金額の算定根拠について菅直人副総理兼国家戦略担当相のヒアリングを受け、厳しい追及ぶりに危機感を覚えた。

 戸別所得補償は小沢一郎幹事長の肝いり事業だ。小沢代表時代に役員室長を務めた側近、奥村氏への「SOS」は、小沢氏の影響力を頼って党側から予算縮減を阻止すべく働き掛けてほしいとのサインだった。

 背景には昨年来の景気低迷がある。95兆円の要求規模に対し、仙谷由人行政刷新担当相は09年度税収が「38兆円」を下回る可能性に言及。一方、鳩山由紀夫首相は赤字国債発行額を44兆円以下に抑える方針を示し、マニフェスト関連予算について「政権を取る前にざっくりと決めた額が本当に必要なのか」と縮減を容認している。

 国家戦略室が担う論点整理は戸別所得補償のほか高速道路無料化、高校無償化、子ども手当、暫定税率廃止と主要政策が対象だ。菅氏は20日までにこれら政策の担当副大臣、政務官から聴取を終えた。マニフェストに10年度予算額が明示されていない戸別所得補償は、高速道路無料化と並ぶ予算縮減の当面のターゲットという。

 「戸別所得補償はマニフェストの主要政策。減らすと根幹にかかわる」。赤松広隆農相は20日の閣議でかみついた。小沢代表の下で選対委員長を務め、戸別所得補償が自民党の支持基盤である農村票取り込みにいかに威力を発揮してきたか実感している。「マニフェストからの後退は農村票の民主党離れに直結する」というわけだ。

 菅氏は20日の記者会見で「『縮減』とか報道されているが、マニフェストの実現を図るというのが大原則だ」と強調してみせた。「財政規律」か「公約死守」か。菅氏のジレンマは、鳩山政権の苦境を体現している。【野原大輔、念佛明奈】

 ◇普天間移設 「沖縄も米も」首相模索

 <県外移転の道を引き続き模索すべきだ。戦略環境の変化を踏まえて国外移転を目指す--沖縄ビジョン08>

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 <最低でも県外移設に向けて積極的に行動を起こす--7月19日、鳩山民主党代表>

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 <在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む--マニフェスト=7月27日>

 鳩山首相が米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を巡り、衆院選で訴えた「県外・国外移設」の公約とキャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)に移設する日米合意とのはざまであい路にはまった。在沖縄海兵隊グアム移転の予算執行を盾に「合意通りの年内決着」を迫る米側。「沖縄県民の心も受け止めなければいけない」と引き延ばしたい首相。どう活路を見いだすのか。

 「仮に現行計画を容認するとしても、あくまでも通過点です。日米同盟の深化と沖縄の負担軽減という全体像を新たに示し、そこにつなげなければいけない。とにかく米側にボールを打ち返すことです」

 オバマ米大統領との日米首脳会談から3日後の16日午前、首相官邸。軍事アナリストの小川和久氏が鳩山首相に対し、持論を説いた。時折メモを取りながらひたすら話を聞いた首相。会談は約40分に及んだ。

 小川氏は「普天間の機能をキャンプ・シュワブか(同じ沖縄の)キャンプ・ハンセンに移し、海兵隊の有事駐留が可能な環境を作る」「米軍嘉手納基地への統合には反対。嘉手納基地はハブ空港として使うべきだ」との持論を月刊誌に寄稿していた。会談は、小川氏の寄稿文を読んだ首相が呼び掛けたものだった。

 オバマ大統領は鳩山首相に「海兵隊の8000人をどうするかもある。早く結論を出した方が評価される」と迫った。首相周辺は「年内に何らかの判断はしなくてはならないというのが首相の念頭にはある」と語る。

 しかし、その判断が単なる現行計画容認に終わっては、衆院選を通して「県外・国外」への期待を高めた沖縄県民の気持ちに応えることはできない。首相は、ひとまず米側の要請に応えて現行計画をベースに再編を進めつつ、沖縄の負担軽減につながる新たな提案を米側に示そうと模索を続けているとみられる。

 21日には記者団にこう語った。「いかに日米協議で日本の意思を伝えていくか。日本国民、沖縄県民の思いをできるだけ反映できるように努力しないといけない」【西田進一郎】

 ◇政権最初の課題、最後まで壁に

 歴代政権は最初に直面した公約や課題にどう取り組んできたのか。鳩山政権と最近の例を比較した。

 国内世論が分かれ、外国も巻き込んだ論争に発展した点では、01年4月に誕生した小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題と共通している。政権獲得直前の「靖国神社の8月15日参拝」の公約で大きな難題を抱えた。

 小泉首相は総裁選の討論会で「首相に就任したらいかなる批判があろうと必ず参拝する」と明言したが、就任後は国内外の世論を見極めるため「熟慮」を続けた。結果は近隣諸国に配慮し「8月13日」の前倒し参拝。だが、中国や韓国の反発は収まらず、国内保守派の批判も招いた。05年までは8月15日を避けて毎年参拝したが批判はやまず、06年9月の退任の前月にようやく公約を実現した。中国での反日デモや首脳会談が開催できないなど深刻な外交問題に発展した。

 福田康夫首相は安倍政権下の参院選での自民党大敗による衆参の「ねじれ国会」にぶつかった。事態打開のため、小沢一郎民主党代表との党首会談で大連立を模索したが頓挫。与野党の対立は逆に深まり、安倍前政権に続き約1年で政権を放り出した。【田所柳子】

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 ◇至上主義に陥るな--自民党元幹事長・加藤紘一氏

 --衆院予算委員会の質疑で鳩山由紀夫首相に「マニフェストなんてやめなさい」と言いましたが、真意は。

 ◆民主党政権は勘違いしている。今度の衆院選は民主党が勝ったというよりは自民党が負けた。民主党が自分の魅力で勝ったと思ったら、ちょっと違うのではないか。ましてマニフェストで勝ったのではない。選挙後も相変わらず高速道路無料化は支持率が低い。(マニフェストにこだわるのは)国民の政治意識の高まりを無駄にして、水に流しているようなものだ。だから「こだわりなさるな」と言った。

 --マニフェスト自体を否定しているのですか。

 ◆うーん。公約を言ったら、ある程度の義務は感じる。しかし、米国の大統領選では「中国と敵対する」と言った方が票は集まるが、大統領に就任すると中国と仲良くする。その程度でいいのではないか。現実の政治は商法の契約書ではない。マニフェスト至上主義でやると、おかしくなると思う。

 --米軍普天間飛行場移設問題をめぐる鳩山政権の迷走も選挙公約が背景にあります。

 ◆国益に反し信用を落としている。そこそこやればいいのがマニフェストではないか。「野党だったから、この視点が欠けていた」と率直に直せばいい。「おれだけは正しい」と、我を張らないことだ。選挙の勝敗には歴史的な経過もあって、マニフェストだけで決まったわけじゃない。

 --今回の政権交代の意味は。

 ◆「55年体制」ができたとき自民党の立党の精神は反共であり自由主義体制を守ることだった。それが国内で支持された。冷戦終結後もその考え方は保守系の人々に残っていたが、自民党政治がめちゃくちゃになり、自民支持層も「(民主党に)一回やらせてみては」と言い出した。今回の政権交代で「本当に社会主義は終わった。野党に政権を渡してもいいんだね」という心の決着がついた。日本国民の中で「冷戦」が終わったんです。

 --自民党再生の道は。

 ◆まず、立党の任務を達成したと宣言する。次の仕事は何か。それが見つからない限り解党だ。「民主党の一部は社会主義的だ」なんて言っているが、政治的な自由を保障するという意味では勝負はついている。「小さな政府」「大きな政府」の論争も、時代で変わる。(イデオロギーではなく)地域の共同作業を引っ張るリーダーシップを寄せ集めたのが、戦前戦後の保守党の概念。それに戻るべきだ。【聞き手・及川正也、中田卓二】

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 ◆永住外国人地方参政権

 結党時に「定住外国人の地方参政権などを早期に実現する」と掲げており、この方針は今後とも引き続き維持していく--民主党政策集INDEX2009

 ◇「国民」概念進む多様化

 ◇在日韓国人の一部、すでに選挙権行使

 在日韓国人の父と日本人の母を持つ東京都内在住の男性(21)は8月30日の衆院選で初めての選挙権を行使した。1984年の国籍法改正に伴い、翌85年以降に出生し、片親が日本人なら22歳までは二重国籍が認められるようになった。男性も「選挙権を持つ在日韓国人」だが、こうした人の存在はあまり知られていない。

 「小学校3年生まで自分の韓国名も知らず、今も韓国語を話せない。韓国名をからかわれたこともあるし、在日韓国人の友人は多いが、韓国人という意識は正直、低い」。来年、2歳上の兄と同じく日本国籍を選択するつもりだ。

 衆院選では民主党に投票した。在日韓国人の集会に数回参加し、「納税の義務の代わりに参政権を」という主張には共感しなかったが、「友人たちに参政権を持ってほしい」という思いが決め手になった。

 「反対派は在日韓国人が反日的な投票行動を取るというが、そうは思わない。実現すれば、在日韓国人という意味をこめて投票することはなくなる。自分の生活を良くすることを考え投票する」と、男性は話した。

 永住外国人は旧植民地の朝鮮半島、台湾出身者らが対象の特別永住者約42万人と在日10年以上などの条件を満たす一般永住者約49万人の計約91万人。在日韓国・朝鮮人は全体で約47万人で過半数を占める。

 昨年5月に民主党の議連がまとめた提言では、対象を国交のある国の国籍保有者とし、在日朝鮮人は除外した。提言通り実現すれば、対象は永住者の多い韓国人、中国人、ブラジル人が大半を占めることになる。

 民主党では鳩山由紀夫首相、小沢一郎幹事長らが「友愛」政治や歴史的観点から推進論を説く。小沢氏は早期の法案提出を政府に呼び掛けているが、政府側の優先順位は明確ではない。公約も政策集には明記されているが、マニフェストへの盛り込みは見送られた。

 反対派の論客、自民党の稲田朋美衆院議員は「外国人から支援された首長や地方議員が誕生すれば、地元の国会議員も影響を受ける。日本の国益の制約になる」と訴える。こうした考えは、民主党内にも根強くある。

 人口の24%を外国人が占める大阪市生野区などで参政権付与を認めれば、それに反対する人たちとの摩擦が生ずる恐れもある。「日本の行方は日本国民が決めるべきで、永住外国人が日本国籍を取得して参政権を得ればよい」との主張に結びつく。

 一方、推進派の岡崎勝彦・愛知学院大学大学院教授(外国人法)は「在日の人はすべての権利を得ようと日本国籍を取得する人もいるが、韓国籍を失うことへの抵抗はなおある。二重国籍を認めれば一気に解決する」と提案する。

 岡崎氏は、日本は「血統主義」「排他主義」が根強くあるが、「選挙権を持つ在日韓国人」のような二重国籍状態がすでに現存するため、「国民という概念の多様化が進んでいる」と話し、国籍に対する帰属意識も変わりつつあることを指摘した。

 来年は日韓併合から100年の節目。外国人参政権問題が大きな論点になるのは間違いない。【田所柳子】

 ◇賛成59%、反対31% 民主、公明層で高い支持--本社世論調査

 永住外国人に地方参政権を与えることについて、毎日新聞が21、22日実施した全国世論調査で賛否を尋ねたところ、59%が賛成と答え、反対の31%の倍近くに上った。鳩山内閣を支持する層では64%、支持しない層でも54%が賛成だった。

 民主党や公明党は永住外国人に地方参政権を与える法案の国会提出を検討しており、調査では民主党支持層の61%、公明党支持層の84%が賛成と回答した。公明党は政府・与党が法案を出せば協力する構えを見せており、民主党政権の誕生によって法制化の機運は高まっている。

 ただ、野党第1党の自民党内には外国人参政権への反対が強く、自民党支持層は賛成49%、反対42%と回答が二分した。民主党支持層も33%が反対と答え、こうした意見が同党内の根強い慎重論につながっているようだ。

 年代別にみると、30~50代の6割以上が賛成する一方、70代以上では賛成が46%と半数を割り、世代間の温度差も示した。

毎日新聞 2009年11月24日 東京朝刊

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