<リプレイ>
●黄昏に聖女は足を止め 紅く染まった空が綺麗な夕暮れ時。ヤドリギ使いの力を使った池田・クラレット(護界召喚師・b45628)を先頭に、能力者達が次々と山道に姿を現す。 「コルシカ島で敵対したとはいえ、人狼達の無事は良い事だ。話に応じてくれれば良いな」 煌月・朔(呪言士・b11702)が言いながら、携帯電話を確認する。他のチームに何事かあれば、連絡が来るはずだ。携帯電話の電波は、ここにもしっかり届いている。 「アリスさんが無事だったのは敵とは言え、喜ばしいこと、ですが。喜んでいい状況でもなさそう、ですね」 「色々聞きたいこと一杯なんけど……答えてくれるんかなぁ」 福田・真(不覚の淡光・b62135)と八神・沙奈(見習いマジックナイト・b22636)が、任務の困難さに思いを馳せる。 「アリス様が正常ならば、味方してお話したいです。何故かどうしても悪い方に思えないのです」 「処刑人やアリスさん、皆で塩もつ鍋を囲んで解決できれば良いのですけど」 紫堂・小夜(小学生水練忍者・b26122)とクラレットがそう言って頷き合う。 「何にせよ、聞き出すしかないな」 「鬼が出るか蛇が出るか……ま、やる事をやるだけだな」 壬柳・惣一(鳶色ト黒キ蟲・b46550)と天星・龍(闇照月天昇龍・b15173)が前に出る。 「……責任重大やな、気ィ入れてこ」 空知・麦丸(てなもんだ人生・b18308)が拳を握り締め、決意を固めるように息を吐いた。
数呼吸の後。前方に、七つの人影が姿を現す。 修道服の少女――アリスが足を止め、軽く目を見開く。その周りには、フードで顔を隠す六人の人物。 (「やっぱり髪の色とか目の色とか見ていると、なんか親近感が湧くな」) 泉・星流(小学生魔弾術士・b51191)が、ふとそんな感想を抱く。 「そこのお嬢さん、ここらで寄り道はどうだい?」 山田・綾那(神速の太刀・b15853)が前に進み出る。 「我々は銀誓館の者達です」 「銀誓館学園の紫藤小夜と申します。私達はアリス様とお話するために来ました」 龍が注意深く、小夜が礼儀正しく名乗り、軽く頭を下げる。 六人の従者が、アリスの方を伺う。服の下に隠れた手が握るのは、武器か。 しばらくの沈黙の後――アリスは従者達に、静かに首を振った。そして能力者達に向き直り、従者達を従えて歩み寄る。 「お話、ということでしたね?」 能力者達まで十数歩のところまで歩みを進めてから、アリスは笑みを浮かべた。 惣一はじっとその様子を観察する。今のところ突破する様子や引き返す様子はない。 龍は辺りの気配に注意を払う。アリスと従者六人以外の気配は見当たらない。 「どのようなお話でしょうか? お聞きしますよ」 笑顔で先を促され、能力者達は口を開いた。
●夕暮れに聖女は語り 「まず、こちらとしては敵対したくはない」 最初にそう言ったのは、綾那だった。 「だが、その行動、目的如何によっては、戦闘も辞さないと言っておくよ」 「心得ておきましょう」 笑みを崩さぬまま、アリスが頷く。続いて進み出たのは、龍。 「人狼十騎士の聖女様が、わざわざこんな辺境の地に何の御用ですかな?」 「辺境、ですか?」 龍の言葉に、アリスが首を傾げる。 「世界で唯一シルバーレインの降る国。私には、世界の中心に思えますよ」 「なるほど。しかし……」 「アンタ、何の目的で日本に来たんだ? 誰かの命令か? それとも独断で?」 答えを聞き出そうとする龍の横から、惣一がずばりと切り込む。 「それは、秘密です」 いたずらっぽく、アリスが人差し指を口元に当てる。 「そんな、秘密って……」 「では、命令ではないとは言っておきましょう。全て自分で考えて決めたことです」 食って掛かろうとする惣一の言葉を、アリスは上手く摘み取った。 「やっぱり、吸血鬼が敵さんやって思ってるんから、ここまで来たん?」 「吸血鬼の全てが敵というわけではありません」 すぐさま返って来た答えに、『ネジ』の有無を探ろうとしていた沙奈は、おやと首を傾げた。 「中には、倒すべき吸血鬼もいますけどね」 アリスの視線がちらりと動き、綾那の上で止まった。その目が細まり、口元が笑みの形を作る。 (「……何だろう?」) 吸血鬼である自分への視線に胸騒ぎを感じながらも、その意図までは読み取れず、綾那は首を傾げる。 「今までの半年ほど、何処にいたんだ?」 しばし続いた沈黙の後、朔が話題を変えた。 「てっきり闘神の渦に巻き込まれたと思ったけれど、そうではなかったの、ですか?」 続いて、真もその疑問をぶつける。 「あら、心配していただいたようですね。ヨーロッパにいましたよ。闘神の渦に巻き込まれたわけではありません」 そう言って、アリスは「ご心配痛み入ります」と頭を下げる。嘘は言っていないようだった。 さらに、朔が質問を重ねる。 「欧州の仲間には連絡したのか?」 「連絡……はしていませんね。できない理由がありますから」 「理由?」 「色々と事情がありまして。他に聞きたいことはありますか?」 笑顔は崩さぬまま、けれど強引にアリスは話題を断ち切る。 「確か親衛隊ともども行方不明と聞きましたが、そちらのフードの方々は親衛隊の方ですか?」 「親衛隊、という言い方は嫌いですね」 真の問いに、アリスは少し眉をひそめる。 「私の大切な友人達でしたから。勿論、ここにいる皆も友人ですよ」 そう言って、アリスはフードの人影達を指し示す。フードに隠れた彼らの表情は、伺い知れない。 少しの間を置いて、クラレットが控えめに、けれど探るように口を開く。フードの従者の正体はわからないが、このままでは突破口がない。 「言い難い話ですが、同じ人狼に裏切られているのかもしれません」 「その可能性はありますね」 瞬時に返したアリスの表情に、戸惑いの色は見られなかった。 「ですがそれは仕方ないことなのかもしれません」 「仕方ない……?」 思わず、星流が聞き返す。アリスは、それに目を伏せて応えた。 「カリストさんやラダガストさん達の方針に疑問があるのですか?」 「どうでしょうね?」 さらに重ねたクラレットの問いに、逆に問いかけるように首を傾げて。 「でも、ラダガストさんとは仲良くできるかもしれないと思っていますよ」 「……それは、どういう?」 「今の私達も、仲良くしているわけですから」 小夜の問いに、アリスは笑って言った。また逸らされたという思いが、能力者達の頭をかすめる。 「処刑人と意見が対立するような覚えはあるん?」 「処刑人の方、ですか?」 唐突な麦丸の質問は少し予想外だったようで、アリスは目を数度瞬かせた。 「処刑人の依頼主とは意見が対立するのかもしれません。でも、それは、どちらが正しいかを示しているものでは無いと思いますよ」 けれどさほど動揺した様子はなく、アリスは答えた。
これ以上対話が進まないのなら、切り出してしまってもいいだろう。そう判断し、朔が口を開く。 「この先の館のことを知っているか?」 核心に切り込もうとしたその問いに、アリスは軽く目を見開く。 「貴方も知っていらしたのですね?」 問いかけの形をしたそれは、肯定。 「誰から話を聞いたんだ?」 「誰から聞いたわけでもありませんよ。ですが」 アリスが、真っ直ぐに朔を見つめ、口を開く。 「この先の館では恐ろしい儀式が行われていることを、私は知っています」 「じゃあ結局、この先に何の用事なん?」 腹の探り合いはもう沢山と、麦丸がずばりと切り込む。 「内容によってはこっちも手助けできるで?」 その言葉にアリスが返したのは、苦笑らしき表情だった。 「どうでしょう。手助けしていただくのは難しいかもしれません」 それは婉曲ではあるが、手出しは断るという意志。 会話が途切れる。沈黙が場を支配する。 これ以上踏み込む言葉を、能力者達は持っていなかった。
●逢魔ヶ時に乱は起き、聖女は―― 「もう聞くことはないようですね。では通していただけませんか?」 沈黙を破ってアリスが口を開いた、その時。 上空から、パン、と乾いた音。その場にいた全員が振り返る。 空の一角に大きく黒い煙が湧き上がり、拡散していくところだった。 「あれは……」 呟いたのは誰だっただろうか。 「処刑人班が突破された!」 惣一が叫ぶ。その声が、仲間達に状況を伝える。 (「携帯に連絡はなかったのか?」) 朔が携帯電話を取り出し、開く。そこに表示されたのは、圏外の文字のみ。 綾那が細身の剣に手をかけ、音を聞きつけて来る者を警戒する。 「……処刑人?」 小さく呟く声。振り返れば、そこには驚いた表情で首を傾げるアリス。 能力者達は視線を交わし……小夜が代表して口を開く。 「処刑人がここに来そうです」 「彼らも動いているのですか?」 「ええ。森の小径で道を開きます、一緒に逃げて下さい」 すぐに平静さを取り戻した口調で尋ねるアリスに小夜は頷く。けれど。 「逃げるなら皆様だけでどうぞ。別に止めはしませんよ?」 その場から全く動くことなく、アリスは笑みを返した。その視線に込められたのは、余裕の誇示と僅かな嘲笑。 「ならば、こちらも逃げるわけにはいかないな」 龍が言って、アリスの前に立ちふさがる。突破されないよう仲間達も動く。 従者の一人が、アリスを見る。服の下に隠した手を突き上げる。その手にあるだろう武器が、何かまではわからない。他の従者達も一歩進み出、アリスを見る。緊張が走る。 けれど、アリスはその動きに、首を横に振ることで応えた。緊張は解かれないまま、数度目の沈黙が辺りを支配する。 埒が明かない。 それは、能力者達皆の思いだった。肝心なことは語らず、襲い掛かってくるわけでもないアリス。出来る限り争いを避けて情報収集をするという能力者達の方針とは、徹底的に相性が悪かった。 「…………!」 突然、従者の一人が顔を上げる。足早に歩み始めた彼に、能力者達は身構える。 けれど彼は、アリスの隣で歩みを止めた。その耳元に口を寄せる。 「……あら、そうですか」 アリスが目を瞬かせる。礼を言って彼を下がらせ、アリスは能力者達に向き直った。 「どうやら、先手を取られていたみたいですね」 「どういう事?」 星流が、きょとんと首を傾げる。 「私は皆さんのことを少し侮っていたようです。申し訳ありませんね」 「だから、どういうことなん?」 優雅に一礼するアリスに、沙奈がさらに食って掛かろうとした、その時。 「アリス……!」 アリス達の後方から姿を現したのは、大鎌を携えた五人の人影。先の尖ったフードは、処刑人の証。 アリスがさっと踵を返した。 「ここにいる意味はなくなりました、撤退します」 フードの者達が頷いてアリスを囲み、山道を足早に戻る。そして処刑人を避けるように、茂みの中へ道を転じた。 あまりの転身の早さに、能力者達の動きは一拍遅れた。 「銀誓館の皆さん、またお会いしましょう」 斜面を下る足を止めずに一度振り返り、アリスは確かにそう言った。 「待てや!」 「お待ち下さい!」 逃亡の可能性を警戒していた麦丸と小夜が、後を追おうと走り出す。けれど。 「そこを退け。でなければ、力づくでも排除させてもらおう」 いち早く二人に追いついた金髪の青年が、大鎌を振り上げ威嚇する。二人も頷き合い、それぞれ手に武器を構える。 その間に能力者達も走り、処刑人達も距離を詰める。乱入を警戒していた星流は、既に自らの射程内に青年を収めていた。 「悪いけど、行かせる訳にはいかないんです……」 湧き上がる上昇気流に青年の体が一瞬浮かび上がる。けれど傷を負いながらも、青年は地に降り立った。 「隊長!」 追いついた少女が、青年の斜め後方に位置を取る。 「通してくれる気はないようですね」 眼鏡をかけた少年が、少し離れて大鎌を構える。線の細い少年と巨体の少年が、青年に並んで立ちふさがった。 同じく逃亡を警戒していた惣一が素早く追いつき、森羅呼吸法で力を高めて青年の前に立つ。沙奈がそこに並び、入れ替わりに小夜と麦丸が下がる。真とクラレットがその身に白燐奏甲をまといながら後方に詰め、同じく白燐蟲を呼び出した龍が処刑人達の前に飛び出す。後方で朔が雪だるまを身にまとい、綾那が霧のレンズを呼び出しながら前方に走る。 その瞬間、五つの大鎌が空気を裂いた。 半透明の刃が直線を奔り、能力者達の体に食い込む。全員が一度は刃に巻き込まれ、傷を負った。 「くぅっ!」 「大丈夫ですか? 今、癒します」 刃の交錯点にいた沙奈に、真が白燐奏甲を施す。星流が浄化の風を吹かせ、麦丸が魔弾の射手で自らを癒す。真ケットシー・ガンナーのジゲンが青年の足元に弾丸を撃ち込むも、足を止めさせるには至らなかった。 「チームワークは流石か。けど!」 「デカイのに、攻撃を!」 龍の掛け声と風の一撃に合わせ、綾那が瞬断撃を巨体の少年に叩き込む。 「悪いけど……行かせないんよ!」 「ぐ……」 さらに沙奈のグラインドアッパーが、大鎌と噛み合って鈍い音を上げた。 「申し訳ありませんが……」 クラレットの白燐奏甲を受け、小夜が踊り出す。 「くっ……不愉快な!」 つられて踊り出した眼鏡の少年が、そう吐き捨てる。同じく踊る巨体の少年も眉を寄せた。 (「正直予想外の展開だが……」) 舌打ちし、朔が呪言呪詛を巨体の少年に向ける。がくりとその巨体が崩れ落ち、膝を付いた。 「っ……ガアァ!」 だが咆哮と共に大鎌の石突きをを地面に突き立て、勢いよく立ち上がる。 「まだ行くぞ!」 彼の正面から、惣一の獣撃拳がえぐるように食い込んだ。流石に二度目の凌駕はなく、巨体の少年は倒れ伏す。 「ほう、集中攻撃か」 青年が何か感じたかのように、やや目を細める。 「ならば、同じことを返すのみだ」 その言葉と同時に、大鎌が黒いオーラをまとって襲い掛かる。踊りをやめた眼鏡の少年と後方に位置する少女の影から、長い黒の腕が伸びる。細身の少年が、重い断罪の拳を叩きつける。目標は――綾那! ダークハンドを避け、もう一撃を細身の剣で受け、さらに大鎌を受けて軌道を逸らす。けれど四つ目の断罪の拳は避け切られない! 「ぐっ!」 崩れかけた体を、綾那は再び霧を呼んで癒す。星流が戦場に浄化の風を送る。真や龍が、白燐蟲を綾那に送る。さらに小夜の情熱のビームが、綾那の傷を完全にふさいだ。 集中攻撃が、今度は細身の少年を狙う。何とかそれをしのぎ切るも、かなりの傷を負ったらしい。 攻撃と回復の厚さは、人数で劣る処刑人達を確実に圧倒していた。 青年が、ちらりとアリス達の去った方角に目をやる。能力者達がつられてそちらを見ると、既にアリス達の姿はなかった。 「……ここまでか」 青年が息を吐き、大鎌を下ろして一歩後退する。処刑人達も、それに従って動きを止めた。 「もう追いつくことはできないだろう。我々は撤退する」 「だったら……止めはしない」 術扇を下ろした龍の言葉に、能力者達が頷きを返す。 「俺がジャコボに肩を貸そう。トーマは前方を、ペトラとヨハンは後方を固めろ。早急にフィリップとシモーヌと合流する」 青年が、てきぱきと処刑人達に指示を出す。 「これがどんな結果となるか……その目で見ることになるでしょうね」 「何か知っているんですか?」 細身の少年の言葉に、星流が問いかける。けれど答えは、少女によって遮られた。 「トーマ、余計なことを言う必要はありません」 「……すみません」 素直に少年は口をつぐむ。 「では、退かせてもらおう」 来た時と同じく迅速に、処刑人達は坂道を降りていく。 「……あ」 小夜が水の気配を感じ、既に暗さを増した空を見上げる。次の瞬間、降り出した雨が能力者達と処刑人の間を遮った。 「吸血鬼の方は、成功したみたいやね」 信号弾が上がらなかったから、と、沙奈が山上を見上げて言った。 「まだ諦めるのは早いです。可能性がある限り続けましょう……」 クラレットがアリスと処刑人が消えた道を目で追い、どこか力なく呟いた。
聖女アリスの目的は、結局何だったのか。 「またお会いしましょう」と言ったアリスの言葉だけが、能力者達の耳に残った。
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参加者:10人
作成日:2009/11/24
得票数:
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冒険結果:失敗…
重傷者:なし
死亡者:なし
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