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きょうの社説 2009年11月24日
◎あえのこと継承 「神宿る能登」のシンボルに
ユネスコの無形文化遺産登録をきっかけに、奥能登の「あえのこと」継承へ向けた新た
な取り組みが広がってきたのは心強い。田の神をもてなす料理を再現した「あえのこと御膳(ごぜん)」の提供や、観光ボランティアガイドによる儀式の案内、地元住民による調査活動などである。行事の継承者が激減したのは、農家の後継者不足などに加え、地域全体でその価値を共 有し、外へ向けて発信する努力が十分でなかった一面もあろう。住民が無関心のままでは地域の文化を守ることはできない。伝統行事の継承と観光化の両立は、民俗の宝庫である能登全体に共通する悩ましい課題だが、神に感謝するという行事の本質はしっかり守り、外へ向けて発信する際にはもっと大胆なアイデアがあってもよいのではないか。 たとえば「ゆるキャラ」ブームを追い風に、「田の神」キャラクターを考案する発想が あっていい。能登空港には、「神宿るくに」を印象づけるため、旅行客の目を引くように工夫した斬新なパネルを常設展示したい。能登には祭りの主役である海の神、山の神などがたくさんいる。「八百万(やおよろず)の神」が宿る能登のシンボルに最もふさわしいのは、世界無形遺産の「田の神」をおいてほかにないだろう。 ユネスコ登録という、これ以上ない評価を得たからには、それを最大限に生かすことが 大切である。地域挙げて知恵を絞る営みのなかから継承のエネルギーも生まれてくるだろう。来月5日には登録後、初めて田の神を迎える。地域全体でもてなす心を共有したい。 輪島市では三井町の住民有志が「あえのこと」に関する記録をまとめ、儀礼を公開する 場も設ける。家々で行われる儀礼のため、これまで地域全体の実態が把握されていなかったが、あらためて足元を見詰め直し、魅力を発信しようという取り組みの意義は大きい。能登町では料理の提供とガイドによる案内を通して観光誘客を図る。能登丼で「あえのこと丼」も考案されており、継承と活性化につなげる動きがさらに広がることを期待したい。
◎古民家再生ビジネス 「地上資源」として活用を
北陸に残る堅ろうな古民家を再生するビジネスが活況を呈している。古民家の解体で生
じた良質な古材を売買する関連ビジネスも盛んになってきたという。地下資源が乏しい日本では、ビルの解体後に出た廃棄物は「地上資源」とも言われ、再利用に取り組むところも出てきたが、広い意味で古民家も雪国の風土で生き残った地上資源と言える。金沢などで町家を保存する動きが活発になってきたが、古民家再生の過程で生まれた多彩なノウハウを、町家を含めた木造建物の保存や資源の再利用に生かしていきたい。これまで古民家は、生活するのに不都合で、暗いというイメージが一般的だったが、利 便性だけでなく安心感や心の豊かさを求めるスローハウスの考え方が徐々に浸透する中で見直され、風雪に耐えた良質な素材を骨格に、使い勝手や機能性も加味したリフォームを求める人が増えてきた。 全国的にも、古い建物が残る地域でリフォームを手がける業者の間では、古民家再生の 占める割合が大きくなっている。関連業者をネットワークで結び、民家バンクや古材の供給情報を提供するサイトもあるように、古民家をめぐるビジネスは広域化している。 とりわけ北陸には、文化財や景観保存地区に組み込まれた建物とは別に、築百年を超え る古い建物が各地に残る。金沢市の金澤町家再生活用モデル事業では、店舗や事務所などに活用する場合、改修費の一部が助成され、モデルハウスの完成も相次いでいる。 富山市八尾地区でも「風の盆」の舞台となる特徴的な町家修景に向け、補助要件を緩和 し対象地区の増改築を促している。今後、こうした助成を活用した町家再生が徐々に増えると予想される。関係業者には、またとないビジネスの追い風となろう。 また古民家再生の中で生まれた“副産物”として、建物にかかる負担を和らげる軽量瓦 を開発した業者も出てきた。歴史的たたずまいを生かして、快適な住空間を提供する古民家再生のソフトな知恵を磨き、「北陸スタイル」の技術を確立してもらいたい。
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