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検証・横浜市立中 柔道部員負傷 下2009年11月14日
「教諭を信じていた。情熱あふれる素晴らしい指導が行われていると思っていた」 横浜市立奈良中学校で04年、当時3年生で柔道部員だった男性(19)が、柔道部顧問の男性教諭(31)との練習中に脳障害を負った事故。男性の父親(62)は、そう振り返る。 他の部員や保護者の多くも教諭に信頼を寄せていた。事故後は「先生は体罰などする人ではない」と弁護する意見が相次いだ。けがをした男性も、教諭を慕っていた。 だが事故後、市教育委員会や教諭とのやりとりをきっかけに、思いが揺らぎ始める。 事故直後の05年1月、市教育長に事故報告書が出された。そこには「柔道部の練習と傷病との間には直接の関係はない、と保護者から聞いている」と記されていた。両親はそんな話をした記憶はない。削除を申し入れた。 市教委は、練習中の技が男性のけがの原因となったという主張を、現在も認めていない。両親が市や教諭を訴えた民事訴訟でも、市教委は教諭の投げ技とけがとの因果関係を否定している。 ■ 意見割れた地検 「原因は何だったのか」。両親の疑問はふくらみ始めた。そして07年2月、教諭を傷害容疑で県警に刑事告訴する。 告訴を受けた県警は最終的に、教諭が男性を痛めつけようとした疑いがあると判断した。 「けがの原因は、頭が速い速度で回ったこと」という医師の診断から教諭の投げ技が原因とみられることや、実力差のある2人が休まずに乱取りを続ける状況だったためだ。県警は、教諭が生徒に「過ってけがをさせたのではない。故意だ」として、傷害容疑で送検した。 だが、横浜地検の判断は不起訴だった。 「野球の千本ノックで生徒がけがをした場合、監督を傷害罪で起訴できるだろうか」 地検幹部はそう説明する。地検は、けがの原因は教諭の投げ技としたが、「指導が目的で、社会的常識を逸脱した違法性はない」とした。業務上過失傷害罪での起訴も考えられたが、地検は「回転だけで脳に障害が出るとまでは予測できなかった」とした。 結論が出るぎりぎりまで、地検内の意見は割れたという。「『過失でなら起訴できる』とする積極的な意見もあった」(捜査関係者)。 地検幹部の一人は言う。「この結論が本当に正しいのか、私自身まだわからない」 ■ まだ出ない答え 地検は10月27日、男性と両親に不起訴処分の結論を伝えた。男性と両親は30日、処分を不当として横浜第一検察審査会に審査を申し立てた。 「絞め技で中学生を気絶させ、休ませずに投げ続ければどうなるか。全国大会の優勝経験者でも『予見』できないのですか」。男性の両親は同日、報道陣に胸の内を語った。男性側の代理人で元検事の落合洋司弁護士も「子どもが保護されるべき学校で起きた事故。常識的な判断をしてほしい」という。 教諭は県警の書類送検後に教壇を離れ、大学に通って学校の安全管理について学ぶなどしていたが、今春から別の市立中学校で教壇に戻った。今の勤務先の中学校長を通じて取材を申し込んだが、応じてはもらえなかった。 市教委の担当者は取材に、「柔道の投げ技で頭は高速回転しない」と説明する。「では男性のけがの原因は?」と尋ねると、「我々もわからない」と繰り返した。 「市教委の調査では、教諭の過失はないと聞いている」。会見で問われた横浜市の林文子市長は、そう答えた。 誰に、どこに責任はあったのか。その答えは、検察審査会の審査、そして民事訴訟に託されることになった。 (古田真梨子、田村剛、安富崇)
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