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企画特集 2

【現場から】

検証・横浜市立中 柔道部員負傷 上

2009年11月13日

写真

柔道部の練習中に事故に遭った男性(19)の診断書のコピー(一部画像処理しています)

 横浜市立奈良中学校(青葉区)で04年12月、当時3年生で柔道部員だった男性(19)が、顧問の男性教諭(31)との練習中に脳障害を起こし、倒れる事故が起きた。男性や両親は教諭の刑事告訴に踏み切ったが、横浜地検は10月、嫌疑不十分で不起訴処分とした。学校での事故は増える一方、責任の所在が明らかにならない例も少なくない。事故から5年。あの日に何が起き、捜査はどのように進んだのか。2回に分けて報告する。

 ■乱取りの最中に技

 学校や市教育委員会が作成した調査報告書は、事故を次のように報告している。
 「(乱取りを)やろう」
 「はい」

 04年12月24日午後3時50分ごろ。横浜市青葉区にある奈良中内の格技場で、柔道部員だった男性は、教諭の前に進み出た。部員同士が30秒の休憩を挟んで4分間の乱取りを続ける練習で、3セット目が始まる時だった。

 背負い投げ、一本背負い、体落とし、絞め技。講道館杯全日本体重別選手権で優勝経験もある教諭と、柔道を始めて2年目の男性は、技を「掛け合った」という。休憩を告げるブザーが鳴っても2人の乱取りは続けられた。教諭が2度目の絞め技をかけた時、生徒の胴着が乱れた。

 「早くしろ」。男性は「はい」と答え、帯を締め直そうとしたが、右手で物をつかむようなしぐさをすると、ゆっくりと右斜め前に倒れた。

 「何か変な雰囲気がしたと思ったら、先輩が倒れていた」。元部員の男性(19)が振り返るように、倒れる直前の様子を見ていた部員は少なかった。病院での手術の結果、男性は脳挫傷などと診断された。

 男性は今、都内でリハビリを兼ねた職業訓練を受けている。両親によると、記憶力が低下する高次脳機能障害の後遺症が残り、障害者手帳を持ち通院治療を続けている。

 ■突出する柔道事故

 3・417人。

 高校生の柔道競技者10万人あたりの死亡者数だ。愛知教育大学教育学部の内田良講師(教育社会学)が03〜07年度のデータを分析した(来春発表予定)。中学生も1・980人に達し、陸上や野球、バレーボールなどがいずれも1人以下なのに比べて突出する。09年もすでに青森、兵庫、滋賀で3人の中高生が亡くなっており、内田講師は「柔道特有の投げる、落とすという動作に原因がある」とみる。

 部活動中の事故を含む学校災害の医療費として給付される「災害共済金」。08年度の給付件数は約215万件で、死亡給付は74件(「日本スポーツ振興センター」統計)に上る。給付は長期的にみると増えているが、部活動事故では、責任の所在が明らかにならないケースも少なくないとされる。

 ■原因究明困難に

 「不祥事ととらえる教育委員会や学校から情報が出てこなくなり、結果的に事故の原因さえもわからないままになる」。学校災害に詳しい原田敬三弁護士は指摘する。教諭らが警察などの捜査を受けた場合は、学校側はさらに閉鎖的になるという。

 原田弁護士は「原因追及、再発防止、被害回復の3点が優先されるべきだ」とし、事故の被害者には民事訴訟で原因の解明などをするように勧めるという。実際、教諭が刑事責任を問われなかった事故で被害者側が民事訴訟を起こし、責任の所在が明らかになった例もある。

 03年、福島県須賀川市の市立中学で起きた柔道部事故では、業務上過失傷害罪に問われた当時の顧問教諭ら2人が不起訴処分となった。だが、両親が起こした民事訴訟では一転、「安全に配慮しなかった」と学校側の管理責任を認め、県や市に総額約1億5千万円の支払いを命じている。

 公立中学校での武道は12年度に必修化される予定だ。柔道も含まれているが、専門ではない教諭が教えることが増えると予想され、これまで以上に安全対策が求められる。

 原田弁護士は「教育委員会と学校が意識を変え、学校災害の原因究明をするとともに安全策を講じなければ、再発は防げない」と指摘する。

 ◆キーワード◆ 横浜市立奈良中学校柔道部の事故 04年12月24日、当時3年生の男性が顧問の男性教諭との乱取り中に倒れ、急性硬膜下血腫や脳挫傷と診断された。同市教育委員会は「けがの原因は不明」としたが、県警は07年7月、教諭を傷害容疑で書類送検した。横浜地検は今年10月、「原因は教諭の投げ技だが、予測できないけがだった」として不起訴処分としたため、男性らは横浜第一検察審査会に審査を申し立てた。また、同市や教諭に対し、計約1億8600万円を求める訴訟を横浜地裁に起こしている。

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