時代を駆ける

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時代を駆ける:倉本聰/4 「北の国から」は全部体験したこと

 ◇SOH KURAMOTO

 <81年、テレビドラマ「北の国から」(フジテレビ)の放送が始まった。妻と離婚し、子供2人を連れて故郷の北海道・富良野に舞い戻った黒板五郎一家を軸に、大地と共に生きる人々を描いた>

 映画「キタキツネ物語」や「アドベンチャー・ファミリー」があたっていました。そういうものをつくってくれ、東京の客に分かればいい、とフジテレビが言ってきたんです。

 カチンと来た。北海道のものを作るのに、北海道の人間に支持されなかったらウソだろうと。僕は五郎がしたことは全部、体験してから書いています。スモークサーモン作りにしても、丸太小屋や石の家づくりにしても。だから、石運びの難しさとか細かいところも分かる。五郎の息子の純がしたごみ収集も経験しましたが、生ごみを収集車に入れると、汁が飛び散り、こちらにかかる。2、3日汁物のおかずが食べられなくなりました。

 <「大草原の小さな家」(ローラ・インガルス著)シリーズも役に立った>

 女優の岸田今日子さんがくれたんですが、富良野に来る時、宮沢賢治全集と一緒に持ってきました。薫製やバター作りの挿絵があるんです。牛乳を一升瓶に入れて30分ぐらい振る。上の方に分離してくる油脂をとり、水にさらしながらへらで練ると固まってくる。そこに塩をいれるとバターになる。1時間の作業でキャラメル1個分。振る代わりに一升瓶をジープに乗せてがたがた道を走ったけど、最後はやっぱり人手が必要でした(笑い)。

 <演歌の大御所、北島三郎さんの付き人経験も生きた>

 「幻の町」というテレビドラマ(76年)を書いた時、北島さんが出演し、真冬の小樽でロケがありました。タクシーで来るんだが、吹雪で行方が分からなくなった。タクシー無線でサブちゃんの乗ったタクシーの情報がほしいと流したら、どんどん情報が入る。到着時は、待ち受けていた人たちが大歓声を上げました。この人気の秘密を知りたいと頼み、1週間、付き人をして歩いたんです。

 <ある町で、サブちゃんが「2000曲は頭の中に入っている。なんでもリクエストしてくれ」としゃべりかけると、観客は大いに沸いた>

 すき間から吹雪が入り込むような体育館に、老若男女が2時間くらい前からやってきて満員になる。どんどんリクエストが入る。鉄道唱歌なんか三十何番まで全部歌っちゃう。やりとりでも爆笑が起きる。彼はどんな職業、どんな年齢にも通用する裸の人間対人間のやりとりをしていました。

 その時、自分の中にあったエリート意識を恥じた。それで書けたのが「北の国から」です。目線を下げなくちゃいけないと。隣の農家が午後8時くらいまで働いて、へとへとになって帰宅し、風呂に入ってビール飲みながら見てくれるだろうかがポイント。東京ではどこかで批評家を対象にしていましたが、間違っていました。

 <「北の国から」は20年を超える人気シリーズとなったが、02年のスペシャル「遺言」でフィナーレを迎えた>

 一生書き続けるつもりだったので、打ち切りはがっかりした。ディレクターがやめると言い出した。スタッフがみな老けちゃったと。他のディレクターでやればとも言いたかったけれど、役者の諸条件もあって、結局できなくなった。その後、物語の行方を知りたいという声がたくさん届きました。しばらく(富良野市にある関連施設)「拾ってきた町」で情報を流してましたが、ドラマの中で結婚した純(吉岡秀隆さん)と結(ゆい)(内田有紀さん)が実生活でも結婚、離婚するなど現実は変わる。役の上でくっついてると言っても実感がない。そんな問題もあるんです。

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 聞き手・鴨志田公男/「時代を駆ける」は月~水曜日掲載です。

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 ■人物略歴

 ◇くらもと・そう

 本名・山谷馨。脚本家・演出家。東京都出身。東大文学部美学科卒。ニッポン放送を経て独立。北海道富良野市で俳優・脚本家を養成する富良野塾と環境教育の富良野自然塾主宰。74歳。

毎日新聞 2009年11月23日 東京朝刊

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