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2004年6月号 |
NORTH KOREA |
拡大する北朝鮮「国家ぐるみ」の犯罪 |
マーク・ガレオッティ(英キール大学教授) |
[スタッフォード発] 昨年四月二十日、オーストラリア警察は、四日間にわたる洋上追跡の末、軍の特殊部隊まで動員して、北朝鮮の貨物船「ポン・ス号」を拿《だ》捕《ほ》した。取り調べの結果、ポン・ス号は大規模な麻薬密輸にからんでいることが判明し、合計百二十五キロにのぼる高純度のヘロイン(末端価格五千万ドル=約六十億円相当)が押収された。これはどうみても、単なる密輸業者の仕事ではなかった。この貨物船には通常の積み荷もなければ荷揚げの予定もなく、代わりに積み込まれていたのは予備燃料と通信機器で、麻薬の積み荷を隠蔽するための専用区画も設けられていたのだ。オーストラリアの水域には官憲の目を避け密かに不法侵入しようとしていた。
一九七〇年代以来、北朝鮮の党・政府・軍の高官は組織犯罪に手を染めてきた。私腹を肥やすためもあったが、国家の方針によるところが大きかった。最近は北朝鮮も、こうした方針を放棄する気になったとの観測も流れていたが、このポン・ス号事件は、国家的な犯罪活動を放棄するどころか、逆に活発化させていることを如実に示す一例だった。
しかも、今年に入り、麻薬の製造・密売といった従来の活動の拡大にとどまらず、他国の犯罪組織との連携を深め、新たなビジネス分野にも進出する兆しがみえてきている。
悪の巣窟は「三九号室」
北朝鮮の外交官も、七〇年代以来、麻薬や非合法な商品の密輸といった犯罪行為を繰り返してきたが、この十年間は、犯罪件数も犯罪規模も急激な拡大をみせ、より高位の外交官が犯罪活動に加わるようになってきた。犯罪に関係する官僚の増加は、ある意味で、北朝鮮の指導者層の世代交代が進んでいる事実を示すものといえるだろう。年齢層の高い保守的な幹部グループに代わって台頭した若手グループは、旧来の社会主義的な規律にはほとんどとらわれず、特権的立場を利用した、いっそう享楽的な生活を望む傾向が強いようだが、現実には、私腹を肥やすための活動ばかりに勤《いそ》しんでいる余裕はない。北朝鮮経済の破綻は、すでに国家の存立自体を脅かすほどの段階に達しているからだ。それゆえ北朝鮮政府は、死活問題となった外貨獲得の手段として、国際的な犯罪活動の展開を強化しはじめているものと思われる。
(続きは本誌でご覧下さい)
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