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社説

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外国人選挙権―まちづくりを共に担う

 自治体の首長や議員を選ぶ際に永住外国人が投票できるようにする。この外国人地方選挙権の導入に、鳩山首相や小沢・民主党幹事長が前向きな姿勢を示し、来年の通常国会にも法案が出される見通しだ。

 98年以降、民主党や公明党が法案を出してきたが、根強い反対論があって議論は進まなかった。この間に地域の国際化は急速に進んでいる。鳩山政権は「多文化共生社会」をめざすという。実現へ踏み出すときではないか。

 日本に永住する外国人はこの10年で5割増えて91万人になった。このうち歴史的経緯がある特別永住者の在日韓国・朝鮮人は42万人だ。年々増えているのは80年代以降に来日し、仕事や結婚を通じて根を下ろし、一般永住資格を得た人たちだ。出身国も中国、ブラジル、フィリピンと様々だ。

 地域社会に根付き、良き隣人として暮らす外国人に、よりよいまちづくりのための責任を分かち合ってもらう。そのために地方選挙への参加を認めるのは妥当な考え方だろう。

 日本の活力を維持するためにも、海外の人材が必要な時代である。外国人地方選挙権を実現することで、外国人が住みやすい環境づくりにつなげたい。分権時代の地方自治を活性化させることもできる。

 「選挙権が欲しければ国籍をとればいい」との考え方がある。だが、母国へのつながりを保ちつつ、いま住むまちに愛着を持つことは自然だ。そうした外国人を排除するのではなく、多様な生き方を尊重する社会にしたい。

 合併などを問うための住民投票条例の中で、外国籍住民の投票権を認めた自治体はすでに200を超えている。地方選挙権についても最高裁は95年、立法措置をとることを憲法は禁じていないとの判断を示している。

 世界を見ても、一定の要件を満たした外国人に参政権を付与する国は、欧州諸国や韓国など40あまりに上る。

 近年、声高になってきた反対論の中には「外国人が大挙して選挙権を使い、日本の安全を脅かすような事態にならないか」といった意見がある。

 人々の不安をあおり、排外的な空気を助長する主張には首をかしげる。外国籍住民を「害を与えうる存在」とみなして孤立させ、疎外する方が危うい。むしろ、地域に迎え入れることで社会の安定を図るべきだ。

 民主党は選挙権を日本と国交のある国籍の人に限る法案を検討しているという。反北朝鮮感情に配慮し、外国人登録上の「朝鮮」籍者排除のためだ。

 しかし、朝鮮籍の人が必ずしも北朝鮮を支持しているわけではない。良き隣人として共に地域社会に参画する制度を作るときに、別の政治的理由で一部の人を除外していいか。議論が必要だろう。

集落を守る―補助金よりも助っ人で

 紀伊半島南東部の山間地、和歌山県那智勝浦町の色川地域。農林業を中心に九つの集落がひっそりと点在する。

 約430人の住民のうち4割近くは都会からこの地に移り住んだ「Iターン組」である。集落の区長たちでつくる色川地域振興推進委員会の会長を務める原和男さんも、28年前、26歳の時に兵庫県から移り住んだ。

 その委員会が町外の若者を集め、一昨年から「百姓養成塾」を、さらに昨年からは「むらの教科書づくり」を始めた。地元の人から野良仕事や伝統食づくりを学び、伝統行事や昔の暮らしを聞き取って冊子にまとめている。

 Iターンの始まりは30年以上前、有機農業をめざす5家族を受け入れたことだった。当初は同じ道を志す人が多かったが、しだいに田舎暮らしを求める年金暮らしや子育て世代が増えた。そうして何とか集落を守ってきたところに、少子高齢化の波が押し寄せた。

 住民の平均年齢は、もとからの住民が69歳、Iターン組も40歳。このまま若い担い手がいなくなれば集落は消えてしまう。新たな危機感から、若者の呼び込みに動いた。「外から支援するのではなく、住民と同じ目線で暮らす若者がほしい」と原さんは語る。

 そんな原さんが「理想的」とみている制度がある。同じ紀伊半島の北端にある和歌山県高野町が導入した「むらづくり支援員」だ。

 報酬は月15万円、月100時間のフレックスタイム制で契約は3年。今年5月、こんな条件で支援員3人を公募すると、全国から予想を超える162人の応募があった。採用された20〜40代の男女5人は、東京や鹿児島などから担当する集落に移り住んだ。高齢者を支える仕組みや新しい特産品づくりなど集落ごとの課題をさぐっている。

 発案した高橋寛治・副町長は「そうした課題の解決策を見いだし、3年後は自分も定住できるようになってもらいたい」と語る。

 政府が調査したところ、全国の市町村の下にある約6万2千の集落のうち、消滅する可能性のある集落は約2600もあるという。

 一方で、機会があれば、あくせくした都会から離れたいと考えている人は少なくない。自然の中で子育てをしたい。給料が減っても心豊かな生活がほしい。定年後は田舎でゆったり……。

 そんな都会の人たちを引きつけるには、そこで暮らす人や地元の自治体がまず知恵をしぼることであり、地域を守るには補助金よりも助っ人ということではないか。外からの知恵や刺激を受けることで、地域を内部から動かすエネルギーを生み出す。地域づくりのプランナーの役割を託してもいい。

 紹介したような試みは各地にある。「地域主権」を掲げる鳩山政権はこんなところにも目を向けるべきだろう。

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