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人にやさしくすると薬が出るんだよ


TOSS・広島コンマサークル/平田 千晶


【追試論文】槇田健氏 人に優しくすると「エンドルフィン」が出ます

      ( TOSS道徳「心の教育」4 授業で生き方の原理原則を教える)

 槇田氏の修正追試である。槇田氏の実践では,最初に新聞記事を紹介している。私のクラスでは,記事に出てくる語句が難しすぎるため,発問1から発問3までは,行わなかった。また,授業の最後に私自身の体験を語り,締めくくるようにした。

 なお授業で使った資料は,すべて「人に役立つ心の芽ばえ作文 23選」向山洋一・野口芳宏・水野茂一解説 東京子ども教育センター教室編(明治図書)から選んだものである。

 資料 1「ななちゃんのこと」を読む。途中,義足について説明した。

 読み終えた後,次のような話をした。

 問題は,ななちゃんのことを「手なし人間しわくちゃん」と言った 1年生の男の子です。この子は,どうなると思いますか?こういう風に体の不自由な人にこんなことを言ったり,人の悪口を言ったり,人に迷惑をかけたりしたら,脳の中からすご〜く強い毒が出るんです。その人の脳が毒を出すのです。どうしてかというと,「そんな人間,私,嫌い」ってそのこの脳が思っちゃうんです。こんなことばかりする人がいっぱい増えたら,みんなも困るよね。(うんうん,とみなうなずいている)だから,「手無し人間しわくちゃん」と言ったこの子は,脳の中から毒がブワッと出たのですよ。

 この毒は,その子の体を攻撃して,病気にさせたり,苦しめたりするほど強いのですよ。その毒の名は,「アドレナリン」と言います。(板書)

 人の悪口を言ったことがある人?(ほとんどの子が挙手する)そのとき,アドレナリンと言う毒が出ているのですよ。知っていましたか?(首を振っている)初めて知った人?(全員が挙手した)人の悪口ばっかり言っている人は,どんどんどんどん体がおかしくなっていくのです。

 どの子も真剣な顔をして聞いていた。

 今度はね,これを書いた石原亜紀さん,この子は何と言っているかというと…「一人でも多くの人が,ななちゃんの事を,やさしくしてあげたらいいのになと,私は強く思う。それと,体のふじゆうな人がこまっていたら,たすけてあげられるようにしたいと思っている。」こう書いています。こういう人は,どうなると思いますか?

 こういう人には,脳から薬が出るのです。「あなたはこの世に必要な人です。もっともっと元気になって活躍してくださいね。」と脳が思って薬を出すのです。みんなだって,こういう人には,長生きしてほしいと思うでしょう?(うんうんとうなずいている)

 その薬は,あの恐ろしいガンでも治すくらいのすばらしいものなのです。「あなたは,病気になってはいけません。みんなのためになる人ですから,どんどん元気に成長してください。」と言って薬を出すんです。 

 この薬の名前はね、「エンドルフィン」と言います。(板書) 

 この薬は,人にやさしくしたり,人に役立つことをしてあげると出てきます。

 このように,人間というのは,人の嫌がることをしたら自分で自分の体を攻撃します。人のためにいいことをしたら,自分で自分の体を健康にします。不思議だね。

 続いて,資料2「 413日金よう日」を読む。最初の一文「きのう,足のふじゆうなおじいさんを見つけました。」を読んで聞く。

発問1 これからどうなると思いますか?

「助けてあげた」「手伝ってあげた」など,意見が出た。「さてどうなるのかな?」と言って続きを読んだ。

 続いて,資料3「いたわる心って?」を読む。

 発問2 お母様と女の人はアドレナリンとエンドルフィンのどちらが出たのでしょうか?

「エンドルフィン」と一斉に答えてきた。

 次に資料4「くるまいすの人」を読む。

発問3 このお話では,どちらが出たのでしょうか?

「エンドルフィン」

説明1 エンドルフィンの出るこつを教えます。それは「相手のことを心から考えて行動する」ことです。

                                      (板書)

 最後に,私自身の体験を話した。

 先生が高校生の時の話です。先生は,お母さんに目薬を買ってきてもらうよう約束をしていました。だけど,お母さんは目薬を買ってくるのを忘れてしまっていました。そのとき,先生はお母さんに向かって何といったと思いますか?

 先生は,「信じられん」と言ってしまいました。「信じられん」という言葉は,先生が行っていた高校で,そのときに流行っていた言葉でした。何でもかんでもすぐに「信じられん」と言っていたのです。みんなが言っていた言葉でしたし,深い意味など考えたこともありませんでした。先生のお母さんは,そのあとどうしたと思いますか?

 お母さんは,泣いていました。先生は,悪いことをしたなと思いましたが,「でも,約束を守らない方が悪いんだから…」と無視していました。しばらくして,部屋に戻るとお母さんがいなくなっていました。

 何時間か経ってようやくお母さんは戻ってきました。お母さんは目薬を買いに行っていたようです。お母さんは車を運転することができないので,歩いていったのです。一番近いお店まで歩いて 10分くらいでした。そこには,おいてなかったそうです。仕方がないので,目薬を求めて遠いところまで行き,片道40分以上歩いて,買ってきたのでした。

 そんなにしなくても…と思いました。そして結局,先生は,お礼も言わず,謝りもしなかったのです。

 先生は,そのときにものすごくたくさんの毒が出たと思います。これからは,いいことをいっぱいしようと思っています。

 最後に感想を書かせた。


授業で使った資料

資料1

ななちゃんのこと                    石原 亜紀

 私の学校に,右手と左足がなくて,ほんの短い手と,ぎ足の女の子がいる。六年生で,名前をななちゃんという。ある日,私と同じクラスの男の子が,ななちゃんにむかって「手なし人間しわくちゃん。」と言った。私は,むねがドキンとした。なんてひどい事を言うのだろう。ななちゃんは,ふじゆうな体でも,いっしょうけんめいがんばってきているのに。いつだって,私がしってるななちゃんは,がんばりやで,いつも明るくすてきなお姉さんだ。体いくもみんなと同じようにやっているし,おそうじだってやっている。おそうじをやっている時など,「ちゃんとこのそうじしなさいよ。」「つぎは,トイレの中を全部やっときなさいよ。」「もっときれいにやっときなさいよ。」などと言っているのをよく聞く。なんてひどい人たちなんだろう。もし,自分がななちゃんと同じように,ふじゆうな体だったらどうするの?ななちゃんの事を悪く言ったり,ななちゃんにむりな事をさせる人たちに言いたい。五体まんぞくな人には,手足がふじゆうだったり,目が見えなかったり,耳が聞こえない人の気もちなんかわからないのかもしれない。でも,ママが,「右手をつかわないで,字を書いてごらん。左足をあげて歩いてごらん。りょう目をつぶって,歩いてごらん。」と言った。やってみた。とってもできない。ふじゆうな人たちの気もちがよくわかる。本当に自分がななちゃんと同じ体になってみないと,ななちゃんの気もちはわからないのかもしれないけれど,ななちゃんの心をきずつけるような事は,ぜったいにしてはいけない。一人でも多くの人が,ななちゃんの事を,やさしくしてあげられたらいいのになと,私は強く思う。それと,体のふじゆうな人がこまっていたら,たすけてあげられるようにしたいと思っている。

資料2 

4 13日金よう日                     和泉 春奈

 きのう,足のふじゆうなおじいさんを見つけました。私は,だいじょうぶかなと思っていました。そうしたら,そのおじいさんは,でん柱にぶつかってしまったの。おじいさんは,手で頭をさすりながら,口の中で,「いたい,いたい。」っていっていました。でも,私は,「だいじょうぶですか。」もいえなかったの。私は,とおりすぎてから,(自分が自分に)「このとんちんかんぷんで,心がつめたい人。こんな,つめたい,心をもったこは,せかいに一人しかいない。」って,おこったの。でも,私の足は,悪まのように,家へ家へといってしまったわ。私は,どうしていいかわからなくなって,「ワーワー」と泣きだしちゃった。でも,もう,あの日はぜったいに,もどってこないのだからしかがたない。と思って,こんどからかわいそうな人にあってころんじゃったり,かたいものに,あたった人がいたら,「だいじょうぶですか。」とぜったいに,いう。もし私がこのやくそくをまもれなかったら,自分で自分を百回たたいて,ふじゆうな人の体になってやるんだ。

資料3

いたわる心って?                        布施 沙緒里

 そして今日は,お父さまとお母さまとわたしの三人で,おでかけをしました。そのとき,でん車のホームにいくかいだんで,わたしとお父さまが,かいだんをのぼってしまって,「あれ,お母さまがいない。」と,うしろをふりかえると,お母さまは,おばあちゃまの大きなトランクを,女のかたと一緒に,もち上げて,かいだんをのぼっているところでし た。

 そして,おばあちゃまは,かいだんでも,でん車にのっても,大きなこえで,「神さまにあったみたい。ありがたい。ありがたい。」と,よろこんでいました。お父さまは,「お母さまと女のかたは,とてもやさしくてえらいね。」と,おっしゃいました。わたしも,お母さまが天しに見えました。わたしは,お母さまや,女のかたのように,やさしく,思いやりをもって,おじいちゃまや,おばあちゃまを大せつにいたわることができるような人になりたいと思います。

 やってはいけないといういたわりと,やってさしあげるいたわりがあるのだと思います。

資料4

くるまいすの人                         熊坂 佳子

 くるまいすの人がいました。大さかえきのかいだんのところで,かなしそうなかおで,かいだんのしたをみていました。ひとりでおりられないから,こまっているんだな,とおもいました。おとなの人がたくさんとおっているのに,みんなしらんかおです。佳子はたすけてあげたかったけど,からだがちいさいし,ちからもないから,たすけてあげられない。「どうしよう。」とおもったとき,パパがくるまいすの人のところへいって,「よかったら,もちましょうか。」といいました。もうひとりのおにいさんにもたのんで,みんなで力をあわせて,くるまいすの人をひがしぐちまではこびました。くるまいすの人は,よくおはなしできなかったけど,ほんとうにうれしそうでした。佳子はくるまいすの人に「きをつけてね。」っていいました。パパが「みんなで力をあわせて,たすけあったら,きもちがいいね。」っていいました。こまっている人をたすけてくれて,パパありがとう,佳子もうれしかった。

 子どもたちの感想より

・人がけがとかこまっているときにたすけてあげたいなと思いました。

・ぼくは人の名前とかをへんな名前でよんでいたから,どくがまわったので,なおす。

・ふじゆうな人がこまっていたら,たすけてあげたいなぁと思いました。

・人がいやがることを言ったらアドレナリンが出るとわかりました。
 人がいやがることを言ったことがあるからやめようと思いました。
 エンドルフィンをすこしでもふやそうと思いました。

  この授業をしてから 2ヶ月がたとうとしている。子どもたちは,いまだに人の嫌がることをしたり,悪いことをしたりしたときには,「毒が出る」と言っている。人のためにいいことをしたり,役立つことをしたりしたときには,「薬が出たね」と言っている。自分の行動を振り返って,日記に書いてくる子どもたちもいる。

 今までの道徳の授業の中で一番手応えのあった授業である。


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