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沈まぬ太陽 予告編http://www.youtube.com/watch?v=yL-PxsVK2Xk先日、山崎豊子さんのベストセラー小説を映画化した「沈まぬ太陽」を観た。息もつかせぬ展開に終始画面に釘付けになった。すばらしい映画評が「しんぶん赤旗」の文化欄(11月13日付)に出ているので紹介しておこう。
あわせて、この映画を名誉毀損などと自己欺瞞に満ちた態度で攻撃する日本航空が、どんな体質を持った企業かがよく分かる資料を【関連記事・サイト】として末尾に掲げておく。
<参照>
渡辺謙:「どれだけ大変な思いを…」と号泣 大作映画「沈まぬ太陽」公開(毎日新聞)========================================
2009年11月13日「しんぶん赤旗」
人間の誇り守り抜く 映画 沈まぬ太陽をみて 山田 敬男戦後民主主義のせめぎ合い象徴した主人公の生き方
久しぶりに感動した映画であった。3時間22分という長編映画であるが、時間を感じさせないおもしろさがあった。原作は、「事実を取材して小説的に再構築した」という山崎豊子の同名小説。映画は半官半民の大企業として成長した国民航空(実際は日本航空)の労働者である恩地元(渡辺謙)の波瀾(はらん)万丈な生き方を軸に編集されている。人間の生き方やいくつかの社会的問題を改めて考えさせられた。
人間を裏切らない大切さを強調した 第一に恩地の生き方である。彼は労働組合の委員長として賃金、労働条件、「空の安全」を求めてたたかい大きな成果をあげる。しかしその懲罰人事によって、パキスタン、イラン、そしてケニアへ10年間も海外赴任させられる。会社側は本社勤務と引き替えに、組合脱退と謝罪を要求するが、恩地はそれを拒否して現地での仕事を全うする。やっと海外勤務を終えて帰国して逆境の日々を送るなかで起きたのが、御巣鷹山での航空史上最大のジャンボ機墜落事故(85年8月)であった。この事故を契機に国民航空の経営陣が新体制に変わり、新会長の会社「改革」に恩地も「空の安全」を守るために協力するが、やがて挫折し、恩地は再び、アフリカのナイロビに赴任させられる。

こんな目に遭わされて、なぜ会社を辞めてしまわないのかという感想がでるかもしれないが、ここに恩地の人間的魅力がある。ともにたたかった行天四郎(三浦友和)が組合を裏切り、出世コースを歩んでいくだけに、恩地の生き方が問われている。そこには、人間として譲れないプライド、誇りを守るという頑固さが存在している。実際のモデルである小倉寛太郎は、「どのような試練や迫害にあっても」、「屈しない人生」を生き抜くこと、さらに、〝人生を裏切らない〟ことの大切さを強調している(『自然に生きて』)。
乗客の安全より企業の利益優先 第二に、国民航空の企業体質の問題である。安全よりも企業の利益を優先させる体質である。御巣鷹山のジャンボ機墜落事故では520人の尊い命が犠牲なるが、当時の日航は「効率的運営」を求めて人件費と燃料費の削減を最優先させていた。それは当時の臨調行革路線に沿っていたのである。たとえば、83年1月、臨調第4部会が「効率的な運営」を求める報告を出すと、当時の高木社長は、「体質強化」の決意を表明している。日航は、82年2月、機長のエンジン逆噴射によってDC8が羽田沖に墜落して24人が犠牲になる事件を起こしていたが、わずか3年後に御巣鷹山の大事故を引き起こすことになる。80年代の臨調行革路線が、利益優先の航空行政をもたらし、日航を「臨調体質」に変えてしまったのである。
第三は、企業の労務対策の問題である。組合を分裂させ、御用組合を作り、活動家を徹底的に痛めつけた。このことにより、職場で安全性の問題を自由に議論できなくなり、企業側の都合だけが一方的にまかり通ることになる。航空産業の労働組合は、賃金や労働条件だけでなく、「空の安全」チェックする役割を持つが、その労働組合の重要な機能を企業の労務対策が奪ってしまうのである。
人間性を守って「希望」をしめす 第四は、この映画の対象となる60年代から80年代の日本社会のあり方とそこで悪戦苦闘した恩地の生きざまの意味を考えさせられた。60年代から80年代に経済大国化を実現することによって、日本社会は一方において、労働者や国民の生活や権利よりも能力主義と競争主義を最優先させる社会になっていた。しかし、他方において、形骸化する民主主義と人権を守る労働者や市民の抵抗が存在していた。その抵抗によって、人間性と戦後民主主義が辛くも守られていた。80年代の日本社会は、この2つの傾向と対抗のせめぎ合いによって成り立っていた。
主人公恩地の生き方は、この対抗のせめぎ合いを象徴するものであった。「沈まぬ太陽」の「太陽」は、このせめぎ合いのなかで、持続する人間性と戦後民主主義を意味しており、これらの日本社会の「希望」のよりどころを指し示していたのである。
(やまだ・たかお 労働者教育協会会長 現代史家)
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