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死体の体表から水分が蒸発するため、特に角膜・陰嚢・口唇等で顕著に現れる。死後一見爪や毛髪が伸びたように見えることがあるというが、これは皮膚の乾燥によるとされる。角膜の混濁も主として乾燥によるもので、当然開眼した状態で放置しておくと速く進む。夏季ならば1日で瞳孔の透見が不能になる。 |
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自家融解および腐敗が主な過程である。 ・複雑な有機物 ⇒ 簡単な有機物 ⇒ 無機物 ⇒ 消失 |
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死ぬと腐敗とは関係なく、臓器組織中の酵素による嫌気的な分解が進行する。これを、自家融解といい、その進行は消化酵素を保有する臓器・器官では早く、0℃以下の低温や酵素の活性が失われるほどの高温ではほとんど進まない。典型的には膵臓で進行が速い。子宮内胎児死亡でみられる浸軟現象もこれにあたる。 |
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3−1 ミイラ |
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どうしても、エジプトピラミッド時代のミイラが有名であるが、人為的に薬品(植物油や水銀など)と化学反応を起こさせなくても、ミイラはできる。
最近でも、大阪梅田の繁華街の路上でミイラ化した遺体が発見されたように、「ミイラ」は昔話ではない。条件がそろえば、ミイラになる。高温・低湿で風通しのよい環境下で乾燥が急速に進めば、ミイラができる。成人で3ヶ月程度を要するといわれる。一般に腐敗と同時に進行することが多いので、乾燥進行速度が腐敗進行速度を上まわると「きれいな」ミイラができる。 |
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高湿度で風通しの悪い環境化で起こる。すなわち、遺体が水中や湿潤な土中などに放置された場合にできる。未完成なものは軟らかくチーズのようだが、完成すると硬く脆く石膏のようになる。灰白色あるいは淡灰褐色。高温では死蝋形成が早く、2〜3週間でできたというものもあるようだが、一般には皮下に見られるのは2〜3ヶ月、筋層に及ぶのは4〜5ヶ月、全体を死蝋化するのは少なくとも1年で通常2〜3年ともいわれている。子供や肥満した人は死蝋化しやすい。殺人事件などで森林内や山中の土中に遺棄された場合、このような状態になることが多い。 |
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朱(水銀化合物)による腐敗の抑制。人為的・非人為的いずれでも生ずる。遠い昔から中国では、朱(色)は神聖な命の色と考えられていた。この朱色の元は硫化水銀(HgS)といわれており、毒性があり、防腐剤として効果があるとされていた。また、この朱は不老不死の薬とされ、仙人になるという意味で「神仙丹」といわれた。そこで古代人は、この朱を遺体の防腐剤として使用した。しかし、実際には防腐どころか人体の細胞を破壊する作用があったようだ。現存する日本の古墳のなかにも、遺体は分解されてしまい朱の塊が多く出てきているものがある。岡山県楯築古墳の木棺の中からは30kgを超える朱が出土し、奈良県の茶臼山古墳からは朱がバケツ2杯分出土した。「朱」というものに対する昔の人々の敬愛は、並々ならぬものがあったらしい。 |
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エンバーミングに関しては、公益社葬祭研究所編著『新しい葬送の技術 エンバーミング』(現代書林2005)を読んでいただくと、非常に分かりやすく、詳しい。ここではエンバーミングの概要を述べたい。 |
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エンバーミングは、古代エジプト(紀元前3200〜紀元650年)から始まった。その当時、なぜエンバーミングすることが必要とされ、どのような処置が施されたのであろうか。 そして、エンバーミングは医学とともにヨーロッパで進化する。
この後、ドイツでも遺体の胸腹腔の中に、アンモニア塩・酒石の水溶液を入れ、さらに6〜8週間その水溶液につけることで防腐処置を施していた。(クラウンダーズ[17世紀後半]) ★後期エンバーミング〜アメリカ〜 1927年、エンバーミングの教育において全国的な基準が統一され、その頃からエンバーマーライセンスを取得するのに必要な教育内容・教育施設・教育者の基準が決められた。 |
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4−1 日本のエンバーミング |
1988年埼玉県で、日本において日本人に対するエンバーミング処置が初めて行われた。日本においては、エンバーミングに関する確固たる法律がないために、IFSA(遺体衛生保全協会)という団体が1994年自主基準を制定。厚生労働省に働きかけている。1994年、エンバーミングが死体損壊罪に当たるのではないかとして、千葉県で告発を受けるが千葉地検はその告発を、遺族の宗教的感情を法益として、不受理とした。これは、エンバーミングが死体損壊罪には当たらないと公に認められた証である。 2000年、日本においてのエンバーミング処置件数が年間1万件を突破した。2005年は、年間14,000件を超えると試算されている。公益社エンバーミングセンターでは1年間で3,000人以上の方をエンバーミング処置している。 警察庁は、平成15年度予算で、犯罪被害者で司法解剖した後の遺体に対して、遺族の精神的苦痛を和らげるために、エンバーミング(遺体衛生保全)して遺体修復処置を行い、解剖による切開痕を目立たなくするために5千4百万円を予算化し、処置を行うことを決定した。 |
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公益社エンバーミングセンターでは、海外搬送の対応も行っている。2005年11月現在までにスリランカ・インドネシア・カメルーン・韓国・イギリス・タンザニア・オーストラリア・アメリカ合衆国・パキスタン・中国・ウクライナ・フィリピン・タイ・ベトナム・ドイツ・ペルー・ボリビア・トルコ・台湾・マレーシア・グルジアの方の母国までの搬送を行った。それぞれの国の風習や宗教感情・経済事情が異なり、また書類等を扱う大使館・領事館の人々の考え方も国によって全く違うので、対応には細心の注意を要す。
逆に、海外から日本への遺体搬送は以下の写真Bのような木製の枠に囲われた形の柩が多いが、もちろん日本から海外への搬送にも使える。木枠のなかには、金属の柩が入っており、さらにまたその中に木棺が入っている。ただし、このような木製の柩の場合、受け入れ国によっては、木への害虫や卵の混入を防ぐ処置をしたという「燻蒸処理証明書」が必要になることがある。そのときは、柩の製造業者に問い合わせて発行してもらう必要があるので、急ぎで本国へ搬送する必要があるときはあまりお勧めできない。
また、海外搬送には必ず所定の書類が必要である。受け入れ国によって必要書類も異なるが、大使館・領事館が要求する書類を揃え、大使印もしくは領事印をもらって完了となる。留意すべき点は、遺体の日本からの海外搬送を経験したことのない受け入れ国の在日大使館・領事館の場合、必要書類が分からない事が多く、逆に聞かれることがある。また、必要書類を受け入れ国の政府に確認するために、時間を費やすことがある。 |
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2003年、日本において日本人エンバーマー(エンバーミング技術者)の養成が始まった。
これらを履修したからといって、エンバーマーとして完成するわけではない。2つとして同じ遺体はなく、そのときどきで適切な判断が要求される。故人の状況と遺族の気持ちを察し、少しでも遺族の悲しみを癒す一助となるように、日々向上心をもって、邁進して行かなければならない。 |
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(この章はプラスティネーションの第一人者グンター・フォン・ハーゲンス氏のホームページを引用もしくは参考にしている。) |
プラスティネーションとは、プラスティック(ポリマー)を解剖標本に浸透させ、耐久性があって手で触れることができるものに変えてしまう方法である。 |
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“plastination”という言葉はギリシャ語のplassein(=形作る、形成する)から来たとされている。しかし、プラスティネーションは、ドイツのグンター・フォン・ハーゲンスが作ったものである。ちなみに、”plastification”はすでに高分子化学分野で固定の意味を持ち、1977/78のオリジナルの特許で使われる。その表現(傷みやすい生物学標本の高分子注入)は覚えにくいため、新しい科学技術、特に海外に広めていくには全く不十分なものだった。 1990年、全身のプラスティネーションが初めてできた。 |
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2−1 目的 |
プラスティネーションの目的は、医学生及び一般の人にとって人体を視覚的に分かりやすくするためとされている。もともと、医学生は解剖などで皮膚・筋肉・諸臓器などを次々剥離することによって人体に詳しくなる。その考え方にならい、遺体をプラスティネーションによって新しいタイプの標本をつくれば、体が成分まで解剖され、それをあらゆる方向に引き伸ばすこともできるので、隠されたままの構造的関係を明らかにすることも可能になる。人体の立体的構造についての情報を非常に多く伝達できる。そういう点において、プラスティネーションは未処置の解剖標本以上に多くのことを語る。例えば組織の薄い一片で観察者は体の奥深くの最も小さな神経さえもたどることができる。これらのことによって、拡大レンズ、外科用メスやピンセットを使わないで、自然生命体の構造と機能との関係を解明できるようになる。その体は生命の本質を捕らえた生命のレプリカへと変化する。 また、人間の標本を公的に展示することによって、体全体や器官を見て、肺癌や心臓発作のような病気のプロセスがどのような経路をたどったかを調べることができる。自分の体を軽視する尊大な態度と身体的なもろさを知り、健康意識を高めるきっかけにもなりうる。 身体的、化学的プロセスが適切に行われれば、たとえ小さくても細胞の微小の束はその原型をくずさない。視覚的に人目を引くプラスティネーションは、体の構造の機能を解明しながら保存した体を展示する理想的な手段だといえる。さらに体全体のみならず、遺体から取り除かれた個々の組織や器官の保存を可能にする。 |
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プラスティネーションの理論は、標本を永久的なものにするために、腐敗を止めなくてはならないということ。プラスティネーション処置によって、組織から水分や脂肪を除去し、その代わり高分子化合物を入れることによって、腐敗を進行させるバクテリアを除去する。しかし、化学的特性上、体液を直接高分子化合物に取り替えることはできない。
その他の画期的な方法は、例えばかん流プラスティネーションといって、血液の臓器系を清め適所でそれを修復し、初めはアセトン、次にシリコンを浸透させる。脈管系は空なので、そのプラスティネーションはプラスティックで飽和状態になっているだけであるから、柔軟で軽量。
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プラスティネーションされた遺体の主用途が展示もしくは閲覧である以上、プラスティネーションへの献体には、本人の意思が尊重される。
以上が、同意書に書かれてある内容。自分の体が惜しげもなく展示されるのであるから、これくらいの意思表示は最低限必要であろう。 その他、次のような質問をIfPから献体者に問うている。
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最近、日本でも毎年好評で全国で定期的に開催されている「人体の不思議展」。並んでいる人体標本の全てが本物だという。ここにあるのが、「プラストミック標本」。2005年4月2日から5月22日まで京都文化博物館で行われた「人体の不思議展」を取材し、関係者に話を伺うことができた。 @濃度70%アセトン水槽…1週間 「人体の不思議展」で展示されている標本は主に中国で造られている。私は、「人体の不思議展」に展示してある脳を見て、中国人の脳は日本人の脳に比べてこんなに小さくて密度の濃いものなのかと、関係者の方に訊いた。すると、プラストミック処置をする過程で、脳だけは原型のままでは残せず縮んでしまう、という。理由は、脳の持つ特異性によると考えられているそうだが、実際の厳密なことは分っていないらしい。 |
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(この章は、アルコー財団のホームページを引用もしくは参考にしている) |
クライオニクスとは、最も短絡的な表現を使えば、人体の冷凍保存のこと。医学が進歩する未来で、再生復活を期待して行われる。アメリカでクライオニクス業界最大手「アルコー財団」のホームページを元に、クライオニクスの世界を垣間見てみたい。アルコー財団はクライオニクスを「従来の医学でもう体を保てなくなった時に、その体が死んでしまうのを防ぐ為に低温で保存する処置法」と定義している。 |
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アルコーの宣伝は以下のとおり。(アルコーホームページの日本語訳)
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2−1 目的 |
クライオニクスの目的は、病気の治療法が見つかるまで生命維持される為だとされている。 2005年の初めでは、アルコーではクライオニクス済みの方が67人安置されている。 クライオニクスは、もし成功すれば、それは現在治療することが不可能な老化や末期病が治療できるようになる。例えば、足の不自由な人が未来の進歩した医療を受け、マラソン選手になれるかもしれない。そんな願いで、クライオニクスは成立する。 |
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今まで冷凍保存されている遺体が氷点下の温度から蘇生したことはない。クライオニクス処置された体は、将来の技術、特に*ナノテクノロジーが発達して復活させることができるようになることを期待して保護される。この技術は一世紀後、もしくはもっと先の将来に実現されるかもしれない。 クライオニクス処置は心臓が停止した瞬間から始められる。しかしながら、クライオニクスを行う会社はクライオニクスされた人は法的に死亡しているが、生物学的に生存していると考える。 また、クライオニクスを施すこと自体が法的に問題ないのかどうかも気になる。アルコーは研究目的の為に同一解剖贈与法令(UAGA)やアリゾナ贈与法令の規定の下で施行される、解剖贈与受入公認の非営利組織で、これらは医学学校や神経病学的研究バンク、その他の組織提供の科学的使用を統治する同じ州法である。またいくつかの裁判所では、故人や彼らの親戚が故人の意向を選択する権限を持つという法に基づいて、クライオニクスを選択する権利があるという判決を下している。
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クライオニクス処置は心臓が停止してから1、2分以内、遅くとも15分以内には始めることが理想的で、遅れれば、脳を安全に保存することが困難になるという。心停止後数分以内に心肺援護、投薬、冷却をはじめる。他の社員が患者を氷づけにし、冷却を早めるために胸部圧迫して、血栓を防ぐためにヘパリンを投与する。遅延は脳内の情報の損失の可能性を増加するだけでなく、その後の抗凍結剤をかん流させにくくし、冷凍損傷をまねく結果となる。 ★抗凍結剤を使用 ★神経保存 |
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息を吹き返す時期は低温保存される時期による。クライオニクスは年々進歩を続けている。2003年の技術の方が、2000年より優れており、2000年の時の技術は1960年の時よりは優れているといわれる。おそらく21世紀半ばにいずれは仮死状態の人間が完成される時が来る、という推測がアルコーではされている。言い換えれば、医療タイムトラベル、スペーストラベル、また他の目的で定期的に人を「オン・オフ」に切り変える事が可能になる。 しかしながら、アルコー社は必ず効果があるとは言っていない。 クライオニクスはあくまで将来の医学の進歩を前提にしているので、このような失敗が懸念される。続けてアルコー社は次のように記している。 しかし、もし息を吹き返したならば、冷凍保存の前の記憶が残っているのだろうか。アルコーは、そのような質問にも答えている。短期的な記憶は電気的活動によるものである。しかしながら、長期的記憶は、脳内での永続的な分子と構造的変化に基づいている。冷却、全身麻酔、低酸素症、虚血やその他のいかなる方法で脳が完全に不活性となっても、また再び脳が活動を開始した時には以前に蓄積されている2次的記憶は依然として維持されている、としている。現に、蘇生後の冷却と複合的な薬物を併用することで、犬の通常体温での心停止後さらに16分まで、神経系の欠損なしに回復させることができた。ようやく、猿や猫の脳では、通常体温の循環停止60分後に高圧再かん流術をほどこし、通常の電気的機能が回復させることができた。この結果は後に、脳への血流が止まってから1時間経過した一匹の猫の長期的回復にまで成功した。ただし少し、神経的欠陥は見られた。 ★動物が蘇生したことはあるのか |
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実際の価格はその人の年齢や健康状態によって異なる。アルコーは二つの選択肢がある。体全体の保存には最低限15万ドル。神経保存では最低8万ドル必要になる。またアルコーのメンバーは年会費を払わなければならない。年会費として大人料金は398ドルで、プラス会員保険として年間120ドルで合計518ドルとなる。追加の家族会員は年会費259ドルで会員保険として年間120ドルの合計379ドルとなる。18歳以下は年会費として100ドル。(未成年は会員保険は免除。) アメリカ国内の大手保険会社は、クライアントの要求に合った保障をするようアルコー社と協力しているので、生命保険を使うことも可能。ほとんどの人がこの支払い方法をとる。 また、生涯会員という制度もある。それは、ある金額を支払うと約束をすればそれ以上は、景気の変動に関係なく費用がかからないという制度。退職後も、アルコー社の会員であるために、退職金に手をつける必要がないのが利点。もちろん、凍結保存のための最終費用の支払いのために資金源は維持しておかなければならない。その金額とは2万ドル。分割払いでも可;月々100ドルで20年、年4回285ドルずつで20年間、年間1100ドルで20年間。 2005年の初めでは、710人以上の会員がクライオニクスの財政的、法的な手続きを完了している。 アルコー社は全ての会員にIDブレスレットとIDネックレスを支給している。ステンレス製で身分ナンバーと緊急時の指示が彫られている。会員は、医療緊急時や臨床死に備えていかなる時もこれらのアクセサリーを身につけておく必要がある。 また、アルコークライオニクス停止契約の中のオプションを選択した場合、もし凍結保存が不可能と判明した場合にあなたがどうしたいのか記載できる。(たとえば、もし遺体を回収することができない大災害にまきこまれた場合など − アルコー社は過去に世界貿易センタービルの崩壊で1人の会員をなくした。この時はどの遺体も回収されなかった。) 選択することができるオプションの1つは、資金調達をクライアント自身の生命保険からであると仮定して、クライアントの第2生命保険受取人を指名すること。クライアントの法的死後、もし保険金第1受取人が適格でないと見なされた場合、第2受取人が保険証書の額面を受け取る。しかしながら、実際はクライオニクス希望者の親戚が、その死をクライオニクス会社に秘密にしておくといったケースも少なくないという。 一方で、損傷の程度や時間の経過にかかわらず、どんなものであれ生物学的残存物を回復させることに焦点を置いた凍結保存方法を望んでいる者もいる。これはあくまで個人の意思決定による。 |
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クライオニクスは過去20年間で平均10%の伸びを続けているが、まだまだとても少ない分野。アルコー社ではクライオニクスに直接携わっている様々な会社や組織で社員として雇用されている人は約20人。しかし、もっと多くの人々がクライオニクス関連の科学研究に携わっている。 クライオニクス分野の仕事に就くことができる可能性のある道は基本的に2つある。医学分野と科学/工学分野。特に救急医療隊員、潅流(かんりゅう)技師、看護婦や医師を含む医療専門家はクライオニクスには貴重な存在で、この分野の専門家は現在のクライオニクス処置において欠かせない。アルコーでは正社員や契約社員としてこれらの専門家たちを様々に組み合わせて雇用している。 科学者やエンジニアは、クライオニクスの方法を開発し、その正当性を立証し、クライオニクスを施行するための特別な装置を作る。クライオニクスに最も関係のある科学研究分野は、脳の蘇生(クライオニクス患者の最初の処置のより良い方法を開発すること)、臓器凍結保存(長期間保存のより良い方法の開発)、神経科学(保存方法を立証するため)。 クライオニクスは、一般的に低温度での生命の研究である低温生物学の小さな専門分野。 |
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キリスト教信者が多いアメリカではクライオニクスはどのように捉えられているのだろうか。 クライオニクスは生命の尊厳を尊重するキリスト教やその他の宗教の考え方と強く一致すると、アルコーは考えている。有名なキリスト神学者ジョン・ワーウイック・モントゴメリーはクライオニクスについて好意的に書いている。クライオニクスに対して肯定的な説教があり、1969年早期に行われた冷凍保存者の内1名はカトリック神父によって清められた。否定的な意見が述べられることも少なくないが、そのような時はいつでも大体、クライオニクスが生き返りを試みているといった考えによるものがほとんどで、クライオニクスは生命維持の一つのかたちであり、生き返りではないと考えている。 |
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アルコー社では現在のところ、ペットやその他の動物を凍結保存する制度はない。今のところ数匹のペットが凍結保存されているが、これらは凍結保存を希望している会員のペット。飼い主がいない将来にペットだけを送っても何の意味もないという考えからだという。 |
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アルコー社の倉庫に所持品を置いてもらうことができる。アルコー社では各会員に1つずつ、カンザス州ハッチンソンの地下金庫・貯蔵庫に貯蔵するための無料の30cm四方の箱を渡している。ほとんどの会員はこの箱に、日記、写真、CDやDVDやその他の個人の大切なものを保管しているという。 |
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ソ連崩壊以来ロシアでは、ボルシェビキ指導者の遺体をどうするかについて論議されてきた。それが2005年に入って現実味を帯び、話題になっている。エンバーミング処置されたソビエト国家の創始者ウラジーミル・レーニンの遺体は1924年に彼が亡くなってから今までレーニン廟で一般公開され、ひとつの観光スポットになっていた。最近、サンクトペテルブルク州のマトビエンコ知事が、墓地に埋葬すべきだと主張。ロシア・カルムイキア共和国のイリュムジノフ大統領はレーニンの遺体を廟とともに同共和国の首都エリスタに移すために100万ドルを出してもいい、と主張。共産党は現状維持を要求。といったように、遺体をめぐる問題が社会問題にまで発展しうるのである。 人間にとっての遺体は、決して怖いものであってはならない。大切な人とのお別れが安心してできる存在であったり、医学教育に貢献でき健康の大切さを教える存在であったり、まだ見ぬ未来の進歩した医学へ期待を馳せる存在であってもよいのではないだろうか。 今回、ここに私が触れたエンバーミング・プラスティネーション・クライオニクスに関しては、そのどれもがそれぞれ多くの内容を持ち、それぞれのテーマで何冊も本ができてしまうくらいである。それを承知で、3つのテーマを一つの論文にしようと試みた。あれもこれも書きたいし、伝えたい。しかしながら、いくら時間を費やし、いくら字数を増やしてもそれが充分に適正に伝わるとは限らないと思い、このような世界があると知っていただくだけで、本懐を満たしている。かなり荒削りな内容で、読んでいただいた方には申し訳なく思いつつ、今後続編を書く機会がいただけることを祈りながら、1つ1つ研究を進めていきたい。 |
〈参考文献〉 |
☆多大なるご協力をいただいた方々 臨床医学オントロジー研究会 安宅克洋 様 株式会社マクローズ 山道良生 様 フォーエバー株式会社 山縣篤 様 褐益社エンバーミングセンターの皆様 通訳の松岡恭子さん、 本当にありがとうございました。 |